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留守番中の妹が兄のバ美肉アバターで配信を始めた結果、裏で最強の大人たちが命がけの防衛戦を繰り広げていた件  作者: マコPON


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9/11

第9話 ネットニュース掲載で登録者30万人突破!? 同接1万人の前で始まる「開封の儀」

第9話です! お読みいただきありがとうございます。

前回、スイスでお金を失い、皿洗いのサバイバル生活を始めたお兄ちゃん。

しかしその裏で、ハッカー(ぱそこんさん)が仕掛けた『スパチャ全額強制寄付』が、とんでもない奇跡(バズ)を引き起こしていました。

同接1万人という未知の領域に突入したお留守番配信。

そして、突然始まるVTuber定番の「あの企画」。

どうぞお楽しみください!

『――謎の新人美少女VTuber、初配信の投げ銭(数百万円)を全額、某・国際的な子ども支援基金へ寄付。配信界隈に舞い降りた「真の大天使」か?』

そんな見出しのネット記事が、国内最大のポータルサイトのトップニュースに躍り出たのは、昨日のお昼頃のことだった。

記事の内容はこうだ。

『ここ数日、界隈で爆発的な勢いで伸びている個人勢VTuber「姫ヶ崎ロゼ」。彼女の配信で初めてスーパーチャット(投げ銭)が解禁された際、わずか数分で数百万円という記録的な金額が投げ込まれた。しかし、彼女(あるいは運営)はそれを一切自分の懐に入れず、リスナーへのアンケートを経て、全額を慈善団体へ寄付するという異例の対応を見せた――』

この記事を読んだ一般層(ネット民)の反応は、凄まじいものだった。

「自分の利益を捨てて世界の子どもたちを救うなんて、本物の天使だ!」「どんな配信か気になる!」と、野次馬や新規層が怒涛の勢いでチャンネルに押し寄せたのである。

その結果。

10万人の『銀の盾』を目前にしていたチャンネル登録者数は、たった一日で爆発的に跳ね上がり、現在――『30万人』を突破していた。

***

「…………ふ、ふふっ。ははははっ!」

同時刻。スイス・アルプスの山奥。

観光客向けのレストランの厨房で、時給のためにひたすら皿洗いをしていた蒼太(そうた)は、スマホの画面に表示された『チャンネル登録者数:301,200人』という信じられない数字を見つめ、泡だらけの手のまま狂ったように笑い声を上げていた。

ネットニュースの力で、30万人。

それはもう、人生の勝ち組、トップ配信者としての輝かしい栄光の数字だ。

親のクレジットカードを止められ、スイスの片田舎で無一文のサバイバル生活を強いられている蒼太にとって、この数字だけが唯一の「心の支え」だった。

(勝った……! 借金まみれで無一文になったが、俺のチャンネルは今、正真正銘のバケモノ級コンテンツになったんだ!!)

あのクソ生意気なモデレーター(三闘神)たちに収益を全額募金された時は殺意を覚えたが、結果的にそれが最高のプロモーションになったのだ。

(今は、ほとぼりが冷めるまで陽菜(ひな)に配信を任せておく。だが、日本に帰国した暁には……この30万人の超巨大チャンネルは、創造主であるこの俺のモノだ!! 待っていろよ、バラ色の未来!!)

蒼太は希望に胸を膨らませながら、エプロンで手を拭き、ワイヤレスイヤホンを耳にねじ込んだ。

ちょうど今、日本時間のお昼。陽菜による「お留守番配信」が始まる時間だった。

***

『あ、あー。てすと、てすと! ようせいさんたち、こんにちはー!』

夏休みの平日の昼下がり。

一人でお留守番をしている陽菜は、お兄ちゃんの部屋の大きなゲーミングチェアによじ登り、すっかり慣れた手つきで動画配信サイトの開始ボタンを押した。

しかし、今日のチャット欄の流れる速度は、これまでの比ではない。

滝のように文字が流れ、肉眼では全く追えないスピードになっている。

なにせ、現在の同時接続数(同接)は、驚異の【1万人】。

平日昼間にもかかわらず、大手企業勢のトップVTuberに匹敵する数字を叩き出していたのだ。

『わぁぁ……! きょうは、ようせいさんたち、いーっぱいいるね! ぜんぜんおなまえがよめないや! はじめましてのようせいさんも、こんにちは!』

無邪気に手を振る陽菜。

数十万円の超高級マイクが、彼女の弾むような舌足らずな声をクリアに拾い上げ、1万人の鼓膜を極上の音質で震わせる。

しかし、その裏では、最強の大人たち(モデレーター陣)が過労死寸前の極限状態にあった。

【るーるくん】:『……ハッキングによる強制寄付が「大天使の善行」として美談になり、新規層がとんでもない数押し寄せてきました。ニュースサイトからの取材依頼のメールも300件を超えています。すべて私が法的に(適当に)処理します!』

【ぱそこんさん】:『……サーバー防壁、最大出力。変なコメントをするアンチやスパムボットは、IPごとすべて弾き落とす。クソッ、私のタイピング速度が限界を超えそうだ……!』

【ぽかぽかさん】:『チャット欄の自治は俺に任せろ!! お姫様に変な言葉を教えようとする新規リスナーは、片っ端からブロックしてポカポカにしてやる!!』

ハッカー、弁護士、空手家の「三闘神」。

彼らは普段の余裕を完全に失い、押し寄せる1万人の大群から、たった一人の純真な小学三年生を守り抜くため、血を吐くような防衛戦を繰り広げていた。

【新規リスナーA】:大手ネットニュースから来ました! 本当に声が可愛い!

【新規リスナーB】:寄付のニュース感動しました! これからも応援します!

【新規リスナーC】:なんかチャット欄のモデレーターの動き、プロすぎない……? 荒らしが一瞬で消えていくぞ……?

新規リスナーたちが、ロゼ姫の愛らしさと、異様に統率の取れたモデレーターたちの動きに驚愕している中。

ガタッ、ドンッ!

『あいたっ!』

画面の向こうで、突然鈍い音が響いた。

陽菜が足をぶらぶらさせていたところ、机の奥のほうにあった何かにぶつかってしまったらしい。

【モブリスナーD】:お姫様、大丈夫!?

【モブリスナーE】:何か落ちた音したけどケガしてない!?

『えへへ、だいじょうぶだよ! あのね……あれ? なにかある!』

陽菜は椅子から降りると、机の下に潜り込み、「よいしょ、よいしょ」と何かを引っ張り出してきた。

それは、ホコリを被った古い【ダンボール箱】だった。

ご丁寧に、箱のフタにはガムテープがバツ印に貼られ、いかにも『封印』を思わせるような厳重な閉じ方がされている。

『ようせいさんたち、みてみて! つくえのいっちばん・おくから、ふるいダンボールがでてきたよ!』

【モブリスナーF】:ダンボール?

【新規リスナーG】:グッズのサンプルとかかな?

『あ、そうだ! 「かいふうのぎ」だよね! わたし、しってるよ! だからきょうは、このダンボールで「かいふうのぎ」をするね!』

スイスの厨房で、蒼太の心臓が「ドクンッ!!」と、破裂しそうなほど嫌な音を立てて跳ねた。

(……は? 待て。おい、待て陽菜。お前が今引っ張り出したそのダンボール……俺が中二の時、絶対に誰にも見られないように机の一番奥底に封印した『黒歴史ボックス』じゃねえか……ッ!!)

蒼太の顔から、スゥッと血の気が引いていく。

あまりの絶望と恐怖に耐えきれず、蒼太は配信を見ていたスマホの電源ボタンをバッと押し、画面を黒転させた。そしてそのまま、厨房の水浸しの床に膝から崩れ落ちた。

(見たくない……! 見たくない見たくない見たくないッ!! 頼む、夢だと言ってくれ!!)

だが、スマホの画面を消したところで、現実の生配信が止まるわけではない。イヤホンからは、無慈悲にも妹の可愛らしい声が流れ続けている。

そんな創造主の絶望など知る由もなく、陽菜は「よいしょっ」とダンボールのガムテープを力いっぱい剥がした。

ベリベリッという無慈悲な音とともに、長年の封印はあっさりと解き放たれる。

『あいた! えーっと、なにがはいってるのかなー?』

パカッ、とダンボールが開かれる。

陽菜が中から取り出したのは、黒い合成皮革のカバーに包まれ、表紙に『銀色の鎖』と『六芒星』が不器用に銀のペンで手描きされた、分厚い大学ノートだった。

『わぁ、かっこいい「えほん」だ! えっとね、えほんのおなまえは……【あびす・りべれーしょん】!』

【モブリスナーH】:……ん?

【モブリスナーI】:アビス……リベレーション?

【モブリスナーJ】:おい、ちょっと待て。なんだか、ものすごく嫌な汗かいてきたぞ。俺の古傷(ゴースト)が囁いている。

古参リスナーたちの間に、形容しがたい不穏な空気がざわめく。

陽菜はノートの1ページ目を開いた。

見開きには、難しい漢字がびっしりと並んでいた。しかし、ご丁寧にすべての漢字の上に「小さな文字(ふりがな)」が振られていたため、小学三年生の陽菜でも、たどたどしく読むことができたのである。

『えーっと、だいいっしょう……【くりむぞん・すかー】!』

陽菜の舌足らずで愛らしい声が、1万人の耳に極上の音質で届けられる。

『「……くっ、きょうも、みぎうでの、うずきが、とまらない。おれのなかにねむる……【だーく・るしふぇる】が、あばれだそうとしているのか……っ!」』

「「「…………ッッッ!!!?」」」

その瞬間。画面の向こう側にいた数千人の成人男性たちが、一斉に頭を抱え、床を転げ回った。

【モブリスナーK】:……あっ(絶望)

【モブリスナーL】:ロゼ姫、それ絵本じゃねえ!! お兄ちゃんの「厨二病ノート(黒歴史)」だ!! ダンボールごといますぐ燃やして!!

【モブリスナーM】:ぎゃああああ! 昔俺がホムペに書いてた小説と文体が全く同じだあああ!!

【モブリスナーN】:やめてロゼ様!! お兄ちゃんのHPはすでにゼロよ!!!

『厨二病』。

それは、思春期の少年少女が発症する、暗黒の病。

誰しもが一度は通り、大人になってから振り返るとあまりの恥ずかしさにベッドの上でのたうち回りたくなる『黒歴史』である。

陽菜がダンボールから開封した「大切なお宝」の正体は、お兄ちゃんがこの世で最も隠しておきたかった、痛々しいポエムノートだった。

スイスの厨房の床でガタガタと打ち震えながら、消えたスマホ画面を血走った目で見つめる蒼太。

同接1万人。登録者30万人。

未来の自分が栄光を掴むための、超巨大な輝かしいステージ。

そのど真ん中で今、自分が厳重に封印していた『暗黒時代』が、無邪気な妹の「開封の儀」によって、全世界に向けてフルボイスで公開処刑されようとしていたのである――。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

寄付騒動がネットニュースになり、まさかの登録者30万人(同接1万人)に到達したロゼ姫チャンネル。

三闘神の過労死寸前の防衛戦に、新規リスナーが震え上がる展開でした。

そして後半。ついに日の目を見てしまった「あのノート」。

VTuberの定番企画である「開封の儀」として突然机の奥から引っ張り出されたのは、お兄ちゃんがガムテープで厳重に封印していた「黒歴史ダンボール」でした(笑)。

絶望のあまりスマホを消して床に崩れ落ちるお兄ちゃんでしたが、配信は容赦なく続いていきます。

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