第10話 封印されし厨二ノート朗読会。~「妹は囮(おとり)」設定にブチ切れる1万人の討伐隊~
第10話です! お読みいただきありがとうございます。
前回、同接1万人の前で、ついに『黒歴史ダンボール』を開封してしまった陽菜ちゃん。
中から出てきたのは、ルビ(ふりがな)がたっぷり振られた、中2のお兄ちゃんの「厨二病ノート」でした。
共感性羞恥でリスナーたちがのたうち回る中、ノートのページはさらに深淵へと進んでいきます。
壮大な世界観の正体と、激怒するリスナーたちをお楽しみください!
『「……くっ、きょうも、みぎうでの、うずきが、とまらない。おれのなかにねむる……【だーく・るしふぇる】が、あばれだそうとしているのか……っ!」』
同接1万人、登録者30万人の大舞台。
お留守番中の陽菜が、超高級ASMRマイクを通して読み上げているのは、お兄ちゃんが中学二年生の時に書いた『厨二病ノート(深淵の黙示録)』だった。
「…………ヒッ!!」
同じ頃、スイスのレストランの厨房。
あまりの絶望に一度はスマホの画面を消し、水浸しの床に崩れ落ちていた蒼太は、真っ暗になったスマホをガタガタと震える手で握りしめていた。
ワイヤレスイヤホンからは、無慈悲にも妹の可愛らしい朗読がダイレクトに響き続けている。
(見たくない……! 見たくないが、俺の……俺の『深淵の黙示録』に対する30万人の反応が……ッ!)
恐怖と、それを上回る配信者としての悲しい性。
蒼太は顔面蒼白になりながら、ついに耐えきれず、震える指でスマホの電源ボタンをカチッと押してしまった。
パッと明るくなった画面を血走った目で覗き込むと――そこには、自身の古傷をえぐられ、共感性羞恥で次々と致死ダメージを受けるリスナーたちの地獄絵図があった。
【モブリスナーA】:ぐはぁぁぁッ!!(吐血)
【モブリスナーB】:やめてくれェェ! 昔の自分を思い出して、俺の古傷までえぐられるううう!!
【るーるくん】:異議……あり……っ! これは魂に対する重大な権利侵害……!(書斎のデスクで悶絶)
チャット欄が阿鼻叫喚となる中、画面の向こうの陽菜は不思議そうに首を傾げながら、ペラペラとページをめくり、ダーク・ルシフェルの続きを読み始めた。
『えっとね、つぎはね。「きょうも、牢獄での、過酷な、しれんを、たえぬいた」』
『「かえりみち、道具屋で、禁断の供物をてにいれ……いつものばしょで、闇の使徒に、あたえてやった」』
『「やつは、みゃー、となきながら、うまそうにたべていた。ふっ、これでまた、魔界のしもべが、いっぴき、ふえたな」』
陽菜が読み終えると、のたうち回っていた1万人のリスナーたちの動きがピタリと止まった。
【モブリスナーC】:……ん?
【モブリスナーD】:牢獄での過酷な試練……これ、ただの「学校の授業」か?
【モブリスナーE】:道具屋で供物を手に入れて、みゃーと鳴く闇の使徒に与えた……。
【ぽかぽかさん】:おい、待て。それってつまり……「学校帰りにコンビニ(道具屋)でエサ買って、野良の黒猫を餌付けしてる」だけじゃねえかッ!!
『あ! これ、おにいちゃんが、がっこうのかえりに、くろねこちゃんに、ごはんあげてたときのにっきだ! おにいちゃん、くろねこちゃんのこと、やみのしとってよんでたんだね!』
陽菜が無邪気に笑うと、チャット欄は「ただの日記じゃねえかwww」「道具屋で黒猫の餌買ってるの可愛すぎだろwwww」「中二病フィルター分厚すぎワロタwww」と、大爆笑の渦に包まれた。
難解な世界観を気取っていたが、その実態は「少し痛いけど根は優しい、平凡な中学生の日常」だったのである。
『あ! ようせいさんたち、みてみて! えほんのまんなかに、おえかきがあるよ!』
ほっこり(?)とした空気が流れる中、陽菜はノートの中央付近のページを開いた。
『えっとね、【せかい・せいふくの・ちず】だって!』
【モブリスナー陣】:世界征服の地図キターーー!!www
『それでね、よこに、おにいちゃんの【ぱーてぃー】の、おなまえがかいてあるの! えーっとね……「おれは、孤独な、反逆者だが……この、せかいをすくうため、しかたなく、眷属をあつめた……」』
再び、スイスの厨房の床。
青ざめた顔でスマホを覗き込んでいた蒼太の心臓が、ヒュッと止まった。
(――あ。嘘だろ。嘘だと言ってくれ。それは、俺が中2の時、友達が一人もいなかったから……仕方なく『家族』をRPGのパーティメンバーに見立てて妄想設定を書き込んだページ……ッ!!)
『えっとね、まずは、おじいちゃん! 「武器をうみだす、でんせつの、鍛冶師」だって!』
【モブリスナーF】:おじいちゃん鍛冶師wwwww
【モブリスナーG】:待って、それパーティメンバーじゃなくて村のNPCだろwww おじいちゃんパーティ外で草wwwww
【モブリスナーH】:仲間に入ってないのジワるwww
『つぎは、おばあちゃん! 「ほのおをあやつる、だい・魔法使い(まほうつかい)」!』
【モブリスナーI】:おばあちゃん魔法使いは草www
【モブリスナーJ】:もしかして「普段から杖をついてるから」って理由か? 安易すぎるだろwww まさかおばあちゃんがファイアボール撃つ設定なのか?wwwww
『つぎは、おとうさん! 「むげんの黄金をうみだす、でんせつの、錬金術師」だって!』
【モブリスナーK】:錬金術師(ATM)!? 親父をATM扱いすなwwwww
【モブリスナーL】:無限の黄金(お小遣い)www
【モブリスナーM】:ただのお小遣いじゃねえかww 錬金術師に頭上がらないのダサすぎだろwww
【ぱそこんさん】:なるほど。中学生の妄想世界ですら父親を前衛戦士にできないほど、家庭内の金銭的権力(お小遣い)が絶対的だという哀しき証明か……。
スイスの床に這いつくばっている蒼太は、血の涙を流しながらギリッと歯を食いしばった。
(――やめろ!! その錬金術師(親父)には昨日スイスの豪遊がバレて家族カードを止められて、俺は今リアルに無一文なんだよ……ッ!!)
陽菜が家族の痛い設定を読み上げるたびに、チャット欄は「身内を勝手にキャラ付けするなwww」「友達いないから家族でパーティ組んでるの泣けるww」と大ウケしている。
『つぎは、おかあさん! 「いやしのちからをもつ、賢者」だって!』
その瞬間、1万人のチャット欄の空気が一変した。
【モブリスナーN】:……賢者。
【モブリスナーO】:大賛成だ!! ママのあの極上の声は、間違いなく賢者のヒール(大回復)だった!!
【ぽかぽかさん】:異議なし!! あの声は荒んだ心を癒やす最強の回復魔法だ!
【るーるくん】:ええ……ママは賢者……ばぶぅ。
【モブリスナーP】:ママ……賢者ママ……ばぶ。
お母さんの『賢者設定』に対しては、昨日の「集団バブり事件」を経験しているリスナーたちが手のひらを返し、全会一致で大賛同し始めたのである。
『えへへ、みんな、おかあさんのこと、だいすきなんだね! ……あ、さいごに、わたしのことも、かいてあるよ!』
陽菜が、ノートの一番下を指差した。
そして、無邪気な笑顔で、そこに書かれていた自分(妹)の設定を読み上げた。
『【妹の、ひな。……あぶない罠をかくにんするための、囮】だって! わたし、おにいちゃんをたすける、すごいかかりみたい!』
ピタッ。
先ほどまで「ばぶばぶ」と和んでいた1万人のチャット欄が、完全に静まり返った。
1秒。2秒。
そして――大爆発(炎上)が起きた。
【モブリスナーQ】:は?
【モブリスナーR】:囮? うちのロゼ姫が? トラップよけの囮だと?
【モブリスナーS】:ふざけんなクソ兄貴ィィィッ!! 天使のお姫様を肉盾扱いしてんじゃねえええええ!!!
同接1万人の大観衆が、マジギレした。
それも当然である。リスナーたちにとって、陽菜(ロゼ姫)は崇拝すべき大天使であり、何よりも尊い存在なのだ。
それを、こともあろうに「冷酷なダークヒーローぶりたい」という痛すぎる中二病の理由で、ダンジョンの罠避けの『囮(肉盾)』設定にしていたなど、絶対に許されることではなかった。
【ぽかぽかさん】:兄貴ィィィッ!! 貴様、お姫様になんて設定を付けているんだ!! スイスまで泳いでいって、俺の正拳突きでアルプス山脈ごとカチ割ってやる!!
【るーるくん】:裁判長!! 妹に対する重大な人権侵害および命の軽視です!! 即刻、極刑を求刑します!!
【ぱそこんさん】:……ターゲット(兄)のIPアドレス、再ロックオン。スイスのサーバーを経由して、奴のスマホに致死量のスパムを送りつける準備が完了した。撃つぞ。
【モブリスナー陣】:やれーっ!! クソ兄貴を社会から抹殺しろーーっ!!
『あれれ? ようせいさんたち、どうしておこってるの?』
無邪気に首を傾げるロゼ姫の背後で、チャット欄は「クズ兄貴討伐隊」と化したリスナーたちの怒号で完全に埋め尽くされていた。
***
「ヒッ……!」
ワイヤレスイヤホンからダイレクトに響いてくる「1万人のガチの殺意」を感じ取り、蒼太は床に這いつくばりながら悲鳴を上げた。
「ち、違うんだ……! それは中2の時の俺が、ただ『非情で孤独な俺カッケー』ってやりたかっただけで……!」
言い訳など、誰にも届かない。
「黒猫を闇の使徒と呼んで餌付けする」というほっこりエピソードや、「家族を勝手にパーティメンバーにする」というぼっちの悲哀を笑われていたかと思えば、最後は「妹を囮扱いするな」というリスナーたちの逆鱗に触れ、全世界から命を狙われるハメになってしまった。
「オーマイガー!? ソウタ!? 息ヲシテイナイゾ!!(息をしていないぞ!)」
屈強なスイス人の店長が、白目を剥いて痙攣している蒼太の肩を激しく揺さぶる。
同接1万人に見守られながら、バ美肉お兄ちゃん・蒼太の精神は、1万人の怒りの炎に焼かれ、完全に消し炭となったのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第10話、いかがでしたでしょうか。
今回は「黒猫の餌付け日記」と「ぼっちゆえの家族パーティ設定」でした(笑)。
見たくないのに気になってスマホを再起動してしまうお兄ちゃんの悲しい性。
そして難解な厨二病設定かと思いきや、ただの学校帰りの日記(道具屋=コンビニ)だったことがバレる恥ずかしさ。
おじいちゃんがNPC(鍛冶師)だったり、お父さんが「錬金術師(ATM=お小遣い)」だったり、お母さんが賢者設定でリスナーがバブったりと和やかな(?)ムードでしたが……。
最後の「妹=罠確認の囮」という、中二病特有のイキった設定のせいで、リスナーたちが完全にブチギレてしまいましたね。
ロゼ姫を崇拝する三闘神と1万人の騎討伐隊にとって、お姫様を肉盾扱いするなど万死に値する重罪です。




