表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導犯罪対策特務課シルフィエルの憂鬱~1千年を生きたダークエルフとぬいぐるみとなった王女の物語~  作者: にんじん
弱者の英雄(アンダードッグ・ヒーロー)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

強運の引き

 室内に満ちる、張り詰めた静寂。


 一切の感情を排し、冷徹に現場の矛盾を見抜き、脳内で恐るべき真相を組み立てていくシルフィエル。完全に無表情のまま一点を凝視して微動だにしないその姿は、周囲の捜査官たちの目に、あまりにも厳かで、息を呑むほどに美しいものとして映っていた。流れるような白銀の髪。ただ真実だけを見つめてきらめく『銀眼ディヴァイン・ジャッジ》』。先ほどまでの恐怖や緊張はいつしか消え去り、室内には、ただ彼女の圧倒的な気高さと知性の美に見惚れ、声を出すことすら忘れてしまった捜査官たちの、深い吐息だけが広がっていた。


(ひ、ひえええええええええ! 騎士団の人たちの目が爛々と輝いてこっちを凝視してる! 怖い、怖すぎるよぅ……! あんなギラついた目で睨みつけてくるなんて、絶対に『俺たちが総力を挙げて事故って判断したのに、後からしゃしゃり出てきていちゃもんつけやがってこの無能のカオナシが!』って、心の中で私をボロクソに罵倒してるに決まってるわぁぁ!! 私、もう限界よ! 怒りの視線が痛すぎて心臓が止まりそう……はやく、はやくこの場から逃げ出したいよぅ……!)


 シルフィエルの脳内は勘違いで大パニックを起こしている。しかし、その焦りが限界を突破した結果、彼女の表情筋は完全に消滅。あらゆる感情が抜け落ちた『カオナシ』の鉄面のまま、すっと現場指揮官であるエレノア部長の元へ歩み寄った。シルフィエルは、周囲の捜査官たちに聞こえないよう、蚊の鳴くような小声でエレノアの耳元に囁く。


「……エレノア様、魔力の流れが不自然……です。暴走なら、内から……外へ。でも……外から内へとなっている。……運び出した、瓦礫を……調べたい……」


 極度の緊張で声が震えていた。だが、事情を知らない周囲の捜査官たちの目には、その緊迫した耳打ちが全く別の意味に映る。


「さすが……王国が誇る五人の執行者クインテット・エグゼキューターの1人、シルフィエル様! 我々の気づかなかった事件となる証拠に目星をつけて、部長に冷徹な密命を下しているんだ……!」


 エレノアは、親友の「緊張が限界で消え入りそうな声」を正しく察しながら、手に持った記録板でそっと口元を隠し、クスクスと笑いながら頷いた。


「わかったわ、シルフィエル。庭の瓦礫の仮置き場へ案内するわ」



 美しく手入れされている広大な屋敷の庭。そこには、大爆発によって吹き飛んだ灰、実験器具等の破片、金属類などが、魔導捜査部の手によって仕分けされていた。すでに捜査部の測定器による調査は完了し、「異常なし(事件性なし)」と判定を終えて廃棄を待つばかりの山である。


 その整然とした空間に、張り切った高い声が響き渡った。


「よしきたーーーっ! さっきは現場で大人しくしてたけど、今度は私の出番よ! 」


 シルフィエルの深いポケットから勢いよく飛び出したモモ。さっきの現場検証で全く役に立てなかったことを挽回しようと、ボタンの目を爛々と輝かせ、気合満々で瓦礫の山へと突撃する。


「これでもない! あれでもない! むんっ! おりゃぁぁぁっ!」


 だが、その直後、現場にいた捜査官たちは全員、驚愕のあまり目を丸くすることになった。見た目は愛らしくて小さなぬいぐるみのはずのモモが、凄まじい「怪力」を発揮し始めたのだ。プロの捜査員たちが数人がかりで運んだ重い金属の塊や瓦礫を、短い手足で「ふんっ!」と軽々と持ち上げては、ガシャガシャと豪快に放り投げていく。


「お、おい見ろ……あの使い魔、とんでもないパワーだぞ……!」

「小さくて可愛い見た目に反して、なんて凶悪な身体能力なんだ。さすが特務課の最高峰が使役する使い魔……!」


 せっかく綺麗に整理整頓されていた瓦礫の山は、モモの荒ぶる怪力暴走によって、みるみるうちにめちゃくちゃに荒らされていく。しかし、どれだけ瓦礫をひっくり返し、凄まじい力で投げ飛ばしても、それらしい証拠は見つからない。


(……あ、だめだ。全然なにも見つからない。っていうか、これいつまでやればいいの? 手が痛くなってきたし、ぶっちゃけもう飽きちゃった……)


 モモは、極度の「飽き性」だった。あれだけあった気合いは一瞬で霧散し、だんだん捜査自体がどうでもよくなってきたモモは、完全に作業をストップ。もうこれ以上動きたくない一心で、足元に転がっていた実験机の一角の残骸を適当に一つ掴み上げると、それを高々と掲げてハッタリをかました。


「ふふん!やっと見つけたわ。この無能のポンコツ集団! この使い魔モモちゃんの冴え渡る直感が告げているわ! これこそが、事件のヒントになる重要な鍵よーっ!」

「な、なんだってーっ!?」


 捜査官たちが一斉に色めき立つ。 その横で、シルフィエルはモモの手元にある「実験机の残骸」を何気なく銀眼ディヴァイン・ジャッジ》で見つめ――そして、その目を見開いた。


(大爆発の爆心地であり、窓際にあって一番激しく炎に包まれたはずの実験机。それなのに、モモちゃんが掲げたその残骸にだけ、アルベールの魔力の痕跡が綺麗にゼロになっている。まるでそこだけ、世界から隔離されていたかのように。……魔力の暴発なら、周囲一帯に凄まじいアルベール自身の魔力の痕跡が焼き付くはず。なのに、この残骸の不自然な空白は何……? 魔力の痕跡がないということは、魔力制御のミスによる暴発じゃない……。なにかしらの装置によって、暴発に『偽造』された他殺事件の可能性があるんじゃ……!?モモちゃんが適当に選んだゴミ、大アタリなんですけどーーー!? もしかして……モモちゃん天才!? いや、絶対に何も考えてないよね!? 飽きたから適当に掴んだだけだよね!? でも信じられないくらいお手柄だよぅ、ありがとうモモちゃん!!)


 シルフィエルの脳内は銀河系規模の驚愕と大感謝で埋め尽くされていたが、表面上の彼女は相変わらず完璧な『カオナシ』だった。冷徹な無表情のまま、掴み上げた残骸の「空白の1点」をギロリと鋭く見つめるその姿に、周囲の捜査官たちは再び戦慄し、全幅の信頼の目を向けた。


「み、見ろ……カオナシ様のあの眼を……!」

「ただの瓦礫の一片から、すでに事件の真相を見抜かれたというのか……! さすがはミス・パーフェクト、恐ろしすぎる……!」


 ――しかし。真相の輪郭を掴んだシルフィエルの心は、未だ晴れなかった。


(……だけど、これじゃダメ。これはあくまで私の『推測』に過ぎないわ。肝心の暴発を起こした装置の破片は全く見当たらない。これだけじゃ、殺人事件と断定するにはピースが足りない。後はあれが必要ね。とりあえず今わかったことをエレノア様に報告しなくちゃ)


 勝手に限界までハードルを上げる捜査官たちを背に、シルフィエルは静かに、ガタガタと震えそうな足を必死に前に進めてエレノアの元へと歩き出す。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ