エースパイロットの敗北
帝国機動兵団ジユニオン第1部隊隊長のヴォルター・シュトラウスは白い部屋で目を覚ました。
ぼんやりした意識の中で天井を眺めて自分は何をしていたか思い出してみる。
ヴォルターはその日、入隊してきた新人パイロットがうまくコロッサスの操縦ができないことを教官に激しく怒られていたところにたまたま通りかかった。
教官の行きすぎた指導を見ていられず、部下に止められながらも新人を今から自分が指導すると申し出てしまった。
誰も使用していない演習場までコロッサスで新人を連れ出し、動きや対コロッサスの戦闘演習などを行なっていると司令部から近くの製造所が襲われたので近くにいるヴォルターに偵察に行くよう命令があった。
ちょうどいいと思い、新人も伴って製造所へと向かう途中で激しい交戦があっている戦地を見つけ、その戦車や隊服が我が帝国軍のものだとすぐにわかった。
相手はコロッサスも持たない勢力なら自分たちですぐ終わるだろうと、終わってからもう破壊されてしまっている製造所など見に行けばいいと思いヴォルターは降り立った。
簡単だったはずだった。
突如、目の前に赤い光柱と共に降り立ったのはあのサタン壊滅の時に圧倒的性能を見せつけたあの美しい機体。
「そうだ!私は!!」
思い出した記憶に興奮しながらベッドから飛び起きると頭に激痛が走る。小さく呻き声を上げるとちょうど巡回に来た看護師にすぐさまベッドに戻される。
あの薄暗い世界の中、降り立った白い機体のパーソナルアーマーはなぜか神性を帯びたように美しく輝いていた。
あの時は逃げられたが、こうして再会したことをヴォルターは運命だと思ったのだ。
「初めまして、私は」
話しかけようとした時、目の前の機体は跳ねるような軽さで数歩走る間にヴォルターのコロッサスの目前まで迫る。
モニターを通しているのに、それはただのメインカメラのはずなのにパーソナルアーマーのセンサーアイがまるで生きているかのようにヴォルターを捕らえたと錯覚させた。
モニターから消え、まずは新人のコロッサスが両腕を切り落とされ、右足を落とされた。
ヴォルターはすぐにライフルを敵機体へと向けるが、ヴォルターとすれ違う間に左にいた部隊員のコロッサスが胴と脚と二つに切り分けられている。
次は自分だとヴォルターはサーベルを抜き、迫る相手のサーベルを受け止めた。
接近戦でも、銃撃戦でも、帝国機動兵団最強と謳われているヴォルターに隙などなかった。
見切れない攻撃でもない、それなのに敵から繰り出される攻撃に防ぐだけで攻めきれない。
一度、距離を置こうと押し出し下がる時にヴォルターのコロッサスの両腕が閃光によって吹き飛ばされた。
損傷の時の警報がけたたましく鳴り響き、機体の維持ができないと機内は警告の赤いランプが光はじめる。
パーソナルアーマーの両端に開いたビットンがまるで羽を広げるように後ろに漂っていた。
そして、サーベルをまっすぐこちらへ突き立てるため突っ込んでくる。
それを最後にヴォルターは意識を失った。
幸い戦場に残っていた兵士によってヴォルター達は救出され、病院に運び込まれていた。
(手も足も出なかった、この私が?)
ヴォルターはこれまで負けたことがない。もはや帝国にもこの宇宙のどこにも自分を超える存在はいないのではないかと思っていたほどだ。
ヴォルターは退院し、部隊に戻ると早速司令部からことの顛末を聞かれ、事細かに話す。帝国最強の男がぽっと出のしかも旧時代の機体にやられたとあっては帝国の完璧な軍事力に影響が出かねないと緘口令が敷かれ、ヴォルターが負けたと言う事実は一部の者しか知らない機密事項となった。
報告が終わり、ヴォルターは襲われた製造所の映像を見るために部隊長の権限を使い、コロッサスに保管されていた映像をモニターに映し出す。
上空にいるアルカナに気づいた軍のコロッサスがライフルで遠距離から攻撃し、2機は接近。
『パーソナルアーマー?まさかティマイオスの奴らこんな骨董品まで手に入れていたのか!』
コロッサスの1機がビームサーベルを振り下ろすが、それとスルリと避けられる。
さらにもう1機がアルカナの後ろに周りサーベルを突き刺そうとすると体を反転させ挟み撃ちの攻撃を簡単とも言うように抜ける。
『バカな!普通避けられねえぞ!こんなの!!』
コロッサスの機体ではそこまで素早い回避はできない。もちろん、パーソナルアーマーもそれなりの性能を積んでるとはいえ、コロッサス以上の回避など持ち合わせてはいない。
ただ、それは搭乗者が一般人だった場合の話である。
センサーアイが煌めく、アルカナのボディラインに沿って赤いラインの閃光が走る。
コロッサスが旋回する機体を捉えようとしてもサーベルは空を斬るばかりで回避を前に手も足もでない。そのうち、コロッサスの装甲が砕け、光を反射し、星屑のように舞っている。
ライフルに持ち替え、牽制攻撃を行なってもアルカナの姿を捉えることはできない。
『なんなんだ、こいつは!!』
一緒に上がってきた1機は先程、姿も見えないまま撃破されていた。
次第にコロッサスのパイロットは恐怖で冷静な判断ができなくなる。操縦桿を持つ手が震えてうまく操作ができなくなっていく。モニターに映るアルカナが画面を支配すると同時に爆発音と共に映像はそこで終わっていた。
「ふーーーー」
ヴォルターは深く息を吐きながら天井を見上げる。
無駄がなかった、美しいと感じてしまうほどに。自分はまだまだ未熟だと思い知らされるように。
それは必ずしもパーソナルアーマーの性能だけだからではない。いくら性能が良くても結局はパイロットの力量次第で宝の持ち腐れにもなるのだから。
敗北を知ったその日からヴォルターは自分のように他の隊員を鍛える訓練ではなく、技術を磨けるように熱中していった。あのパイロットならもっとこうしていたかもしれないと。
出撃命令が出るたびにあのパーソナルアーマーがいないことに落胆する。
帝国に牙をむくゴロツキや他国はたくさんある。しかし、やはりどれをとってもヴォルターが苦戦を強いられることはなく速やかに鎮圧していった。
今度こそは・・・
とヴォルターは思う。
「今度こそ、私が勝ってこの屈辱を晴らす。」




