勝利の後で
イノセの活躍により、帝国軍を退けたティマイオスは負傷者を連れ宇宙船へと帰還する。
もし援軍を連れて戻ればいくらアルカナがあるといえどティマイオス自体が壊滅しかねないからである。
少ないとは言えない数の犠牲者は出たが、敵の生産力を削り、帝国の進軍を防いだことは解放軍としてこの上ない成功を収めた。
「う、う〜!!頭が禿げちゃうよ〜!!」
そのおかげでティマイオスの船内は今やお祭り騒ぎで一番の功労者のイノセは先程から兵士たちに犬のように撫でくりまわされていた。
「仕方ないだろ!お嬢ちゃんがあんなに強いなんて、誰が信じんだよ〜!」
「見たか!あの帝国軍が尻尾巻いて逃げるの!!愉快だったな〜!」
「ああ、胸がスカッとしたぜ!!」
このようにイノセがもたらした勝利は今や兵士たちのこれまでの苦労を報われたと感じさせるほどの影響力があった。
「俺はもうダメかと思ったよ。」
「ふふ、だから言ったろ?軍人なんかあの子の相手になりゃしないって!」
グエンとセラはいまだにもみくちゃにされるイノセを眺めながら勝利の美酒に酔っていた。
これで今やティマイオスでのイノセの戦闘力を疑う者はいない。
「サラ、俺は、久しぶりに戦いが怖くなったよ。」
「あん?」
グエンはあの日、本当にティマイオスがなくなると全てを諦めようとしていた。何年もリーダーをしていてダメかもしれないということはあったが、それでも昨日の作戦は本当にダメだと思っていたのだ。
「死んでいった奴らのために、早く帝国を潰さなきゃならんのに・・・あの時、俺はそれが果たせなくなると思うと怖くて動けなくなっちまった。」
そう暗くなるグエンを見てセラは一気にコップの中の酒を飲み干した。
「グエン、帝国を潰そう。必ず。」
セラのいつものふざけた態度はなく、声音そのものも固い意志が宿っていた。グエンはそれにああ、と小さく返して残りの酒を飲み干した。
自分のやってきたことを褒めるのは今までセラしかいなかった。それが、今度はティマイオスの兵士たちがみんな大喜びでイノセを褒めてくれる。
この時、初めてセラ以外の人間に褒められたイノセは人の役に立つ喜びを知った。
初めての出来事が地球に来てからいっぱいのイノセは幸福感から思わずスキップをして船内を当てもなく歩いていると、ふと、目の前に窓辺に立つ人影があ理、それは静かに外を見つめているレイジだった。
「なんだ、お前か。」
イノセを横目でチラリと見るとすぐに視線を戻す。格納庫で出会った時よりもその声には少々冷たさがあった。
「こんばんわ、レイジさん。レイジさんも宴会から抜けてこられたんですか?」
「まぁ、そんなところだ。」
そういえば、レイジは他の人のように自分に声をかけてくれないなと思った。あの作戦にはレイジも参加していたし、アルカナにはイノセが乗っていると言うことは初対面の時に知っていたはずだ。
そこで、イノセはハッとした。きっとレイジは負傷してアルカナの活躍は見ていないし、知らないのかもしれない。今起きたばかりできっと誰もイノセの活躍を教えていないのだと。
「レイジさん、私、ちゃんとコロッサスの工場も破壊できたし、グエンさん達の救助にも間に合ったんです!第1部隊?っていうすごく強いコロッサスだったらしいんですけど、私勝てちゃいました!そしたら、みなさん英雄だって褒めてくれたんです。」
イノセは先程褒められた喜びに浮かれてレイジの表情を読むことができなかった。
だから、きっとみんなのように褒めてくれるのだと期待していた。
「・・・英雄、ね。」
レイジは低く呟き、ゆっくりとイノセに向き直る。
「勘違いする前に言っておこう。君は、英雄なんかじゃない。運が良かっただけだ。」
レイジの紅玉のような瞳が冷たく射抜く。イノセは褒められると思っていただけに正反対のレイジの言葉に一気に内側の熱が冷めていくことを感じた。
「あ、えっと・・・」
何か気に障ることを言っただろうか、レイジの顔が見れず俯き、ごめんなさい。と言おうとしたが、レイジはイノセの横を通り過ぎ振り返ることなく廊下の角を曲がり姿を消してしまう。
喜んでほしかったのになぜ、レイジはあんなに冷たい目でイノセを見たのか心の奥に何かが詰まったようだった。
「きっと嘘だと思われたんだ。私は新人でまだ若いから信用されていないから他の人から聞いたらレイジさんもきっとわかってくれる。」
人間て生き物は新参者に対して厳しい人間が絶対にいる。そう言う人間は実力と勝ち取った信頼で次第に認めていくようになるのだと。イノセはそう言っていたセラの言葉を思い出すと心も軽くなりさっきの幸福感も戻ってきた。




