初陣
イノセの乗るティマイオスの宇宙船は無事に地球へと降り立ち、そのまま作戦の目的地ギリギリまで海中を進んでいた。
「これが、海。青い。平たい生き物がいっぱい」
窓から見える人生で初めての海にイノセは興奮が抑えられない。
「こうして見ると、普通の女の子に見えるんだがな」
グエンは窓に張り付くイノセを見てそう呟く。
「心配するな、操縦の腕なら軍人よりも上だ。失敗はしない。」
この作戦について全ての準備は整った。あとは実行して結果を待つだけとなったのでセラは珍しくタブレットを離し、目の前を流れる景色を見ていた。
「リーダー、もうすぐ目的地です。」
「そうか、ではそろそろ作戦に入ろう。」
「イノセ、アルカナに乗りな。」
セラの一声でさっきまで海にはしゃいでいた少女は間延びした返事で笑顔で格納庫へと向かう。
戦の前だと言うのにまるでどこかに出かけるような、怯えた表情すらないことにグエンは少し気味の悪さを覚えた。
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パイロットスーツに身を包んだイノセはアルカナに乗り込み、一足早く海中で宇宙船から離脱した後、セラから教えられていた座標上空へと到着していた。
コロッサス製造所では防衛に向けて何機かのコロッサスが武装した状態で敷地を徘徊している。
「ここか、えっと、作戦時間は30分。工場の破壊とコロッサスの破壊。早く終わったらリーダーの加勢に向かう。」
セラに言われたことを復唱し、イノセはキャノンを取り出してアルカナに構えさせるとコックピットの照準を覗く。もちろん狙いは製造所と思わしき建物のため一番大きな建物を目掛けて引き金を引いた。
イノセの狙い通り放った攻撃は建物を破壊し、誘爆したことでさらに他の設備も巻き込んでいく。
「うん狙い通り。動いてるコロッサスも壊していかなきゃ。」
イノセは地上から侵略者を排除しようと向かってくる2機に向けて操縦桿を向けた。
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宇宙船が機体を格納するのに巨大な形状をしているため失敗した際には素早く戦線離脱ができない。そこで軍が拠点を広げているところから離れたところに船を停泊させ、地球で活動しているティマイオスのメンバーが準備した車で移動することになっている。
逆にアルカナは先に敵のコロッサス製造拠点を潰しに行き、ティマイオスたちが軍隊による国への侵攻を食い止めることになっている。
人対人なら何度も内戦で繰り返してきた。
しかし、相手はコロッサスを次第に投入してくるようになりティマイオスとしても苦戦を強いられる一方だ。
この作戦ではそんなコロッサスの製造所を潰し、生産力を落とそうとする狙いもある。今回グエンがセラに協力を仰いだ際にパイロットの準備が整ったので参加すると聞いた時はこの戦争にも希望が見えた気がした。
予定通り船を降りグエンや他の兵士たちも地上にいた他の仲間と合流し、早速軍の拠点へと車を走らせる。戦場に向かう車の中では誰も喋ることなく静かに目を閉じてその時を待っている。空に広がる曇天はまるで兵士たちの心の中を表しているようだった。
作戦目的地についたことは車が停止したことで自ずと兵士全員に伝わり、無駄のない動きで次々と車から降りる。
素早く廃墟となった建物に身を隠し息を潜めていると張り詰める空気の中に微かな振動と遠くから低いエンジン音がこちらへ向かってくる。兵士の誰もが敵が乗った車両が近づいていることを感じ取っていた。
「標的確認。予定通りこちらにきます。」
無線で前線にいる兵士から知らせがくる。
「よし、各班予定通りに。この戦い必ず勝つぞ、未来のために」
グエンからの通信を最後にプツンと通信が切れた。街に車両が入ったことを確認し、兵士が建物の影から一斉に手榴弾を投げる。
戦車の下に潜り込んだ手榴弾が爆発し、戦車一台を不能にしたことでティマイオスの聖戦が幕を開けた。
空がいつの間にか重苦しい曇天から視界を遮る程の雨が降り続いてもティマイオスと帝国陸軍との戦いは未だ激しい交戦を繰り広げていく。
負傷者も多いが、ティマイオスも相手の戦車を全て破壊している。あと少しで軍も撤退せざるを得ないだろう。それまで何とか持ち堪えたいと奮闘していると上空を大きな影が通り過ぎる。
「おい、嘘だろ。」
着陸した機体は3機、その胸部の装甲には帝国機動兵団第1部隊の文字が刻印してある。
それは本来、ここにいるはずのない帝国のコロッサスだった。
「おい!イノセは!!失敗したのか!!」
グエンが怒鳴るように船に残ったセラに確認をとる。
「いや、アルカナの反応は健在だ。基地からコロッサスが飛び立った形跡もない!これは・・・」
降り立ったコロッサスの先頭の機体から拡張機で若い男の声が響いた。
「コロッサスの製造所が襲われていると聞いて近い演習所から出動してみれば、どうやら苦戦しているようだね。手を貸してやろう」
偶然にも帝国機動部隊がこの戦場の近くで予定にない演習をしており、イノセがいる製造所からの要請を受け一番近くにいた第一部隊がこの戦場を通っていたところをたまたまこの戦場が目についてしまったようだった。
帝国機動兵団の中でも随一と言われる第一部隊とはあまりの運の悪さにグエンは思わず激情し、壁を叩いた。
「こんな時に!!」
ティマイオスの兵士たちは突如加わった圧倒的戦力の前に絶望の空気が漂い始める。後退するにしてもコロッサスの前では車の機動力など人間から見たアリンコに等しいからだ。
グエンの脳裏に嫌でも全滅という言葉が浮かび上がる。
次の作戦を考えようにもコロッサスはあたりの建物を次々に壊していく。巻き込まれる仲間の声が余計に冷静さを失わせていく。
「お待たせしましたー!!!」
耳に響く、明るい声と共にに空からグエンのいる建物の先に大きな轟音と共に砂埃を巻き上げながら飛来した。ゆっくりと立ち上がるそれはイノセの乗ったパーソナルアーマー・アルカナだった。
コロッサス3機を見つめ、アルカナは凛と佇む。
「すみません!セラから聞いて急いできたんですけど!!みなさんご無事ですか!」
ティマイオスの通信機からイノセの慌てた声が聞こえる。しかし、相手は第1部隊でそれが少数とはいえ3機もいる。一つは部隊長だ。いくらパーソナルアーマーの適合者とはいえ戦力差は変わらない。
「イノセ、君だけでも」
「イノセ、後ろの建物にはグエンがいる。それより前に行かせないように敵を撃破しなさい。」
グエンがせめて若いイノセだけでも生き残る可能性があるならと逃げろというつもりだったが、それをセラの冷静な声が遮り、あろうことか仲間を守って戦えと言う。
「うん。」
短い返事の後、イノセの乗るアルカナは敵コロッサス3機にまっすぐ向かっていく。
「バカな!セラ!一体何を考えている!!」
少女1人にこの戦場をひっくり返せと死にに行けと言い放ったことにグエンは叫ぶ。
「グエン、なぜ私があの子を連れてきたと思う?」
「何を・・・」
リーダーと横の兵士に声をかけられ呆然と見る視線の先にグエンも目を見開く。
そこには四肢をもがれ、倒れるコロッサス2機と隊長格が乗っていると思われるコロッサスの頭部が貫かれ、サーベルが引き抜かれると同時に地面へとその巨体が沈み込むところだった。
グエンは信じられなかった。戦闘慣れしている軍人と木星から出たばかりの少女は全くの素人だったはずだ。それがたった1機で最悪な戦況を覆している。
薄暗い空が晴れ、アルカナに向かってまるで祝福しているかのように光がさす。
その光景を他の兵士たちは神が遣わした天使のようだったと語った。




