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彼女の選択は、まだ誰も知らない未来の断章  作者: だいがくいも
その少女、最強につき……
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解放軍:ティマイオス

セラに起こされてイノセはまだ眠たいカラダを嫌嫌起こす。


蛇口を捻り冷たい水で顔を洗うとさっきまで眠くて眠くて鬱陶しかった気分が晴れた気がした。髪はそのまま手櫛でささっと仕上げて部屋に戻ると既に作られた朝食がテーブルに用意されている。


「あれ?このパン、いつものと違うね」


木星で食べていたパンと呼ばれていたものは硬くてしばらく口に入れてふやかしたり、ミルクで柔らかくして食べていた。それが、一口で噛み切れるほど柔らかくフワフワで、とてもいい香りがする。


「それが本物のパンってやつさ。」


セラがコーヒーを持ってイノセと自分の前に置く。イノセは興味深くそれを見てニオイを嗅ぐ。いつもとは違うニオイに恐る恐る口をつけてコーヒーを口に入れるとまた驚いた。


「これがコーヒー、木星のと違って飲みやすい」


木星で飲んでいたものはコーヒーというより苦い泥水だった。セラの真似をしてこっそりマグカップに入ったコーヒーを飲んだイノセはあまりのマズさに当時貴重だった砂糖を食べてセラから怒られた。


「これが地球の食べ物か、とっても美味しいね」


備え付けのテレビからはイノセ達の乗った輸送船をジャックしたテロ組織サタンの残党が壊滅したことがニュースになって流れていた。


「セラ、本当に良かったの?あのまま逃げて。」


輸送船ジャックのサタンのコロッサスはイノセとアルカナが撃破したが、ニュースではこれはジユニオンの手柄となって報道されていた。


サタン制圧後、ジユニオン軍のコロッサスがイノセに向かって来る様子が見えた。

しかしセラに言われイノセは船内から飛び出してきたセラを回収し、そのまま輸送船には乗らずにセラの言う座標までアルカナでその場を去った。もちろんたかがコロッサスを振り切ることなどアルカナの性能なら造作もない。


セラとイノセは座標に駐在していた船へ乗船して現在、地球へと密入星するために遠回りをして目的地までの航路を辿っている。


「良かったよ。あのままだとジユニオン軍の基地に連れて行かれて長いこと事情聴取、おまけにアルカナは没収。私たちは死刑さ。」


タブレットから目も離さずそう話す。セラにイノセは興味なさげにふーんと返す。


物心つく前から木星で育ってきたイノセにとってジユニオン軍も捕まった後どうなるのかなど想像もつかない。会話からわかっているのはセラの言うように逃げていて正解ということだけだった。


コンコンとイノセたちの部屋のドアがノックされる。セラが立ち上がりイノセを見る。イノセが首をフルフルと横に振ったのを確認し、ドアを開けて中に客人を招き入れた。


「よォ、よく眠れたか?」


褐色肌で赤毛の短髪、おまけにガタイがいい男性がパンを頬張るイノセを見て「この子か、パーソナルアーマーの適合者は」と興味深そうに呟いた。


「そう、私の自慢の養女さ。イノセ、この人はティマイオスのリーダーのグエンだ。」


「グエン・バーチェスだ。リーダーなんて呼ばれてはいるが、君の義母にこき使われるだけのただのお飾りさ。よろしくな」


ニカっとライオンのような笑顔だなとイノセは思った。ただ、悪い人ではないということは一目瞭然で「よろしくお願いします。」と差し出された手に同じように差し出して握手を交わす。


「それで、帝国の様子はどうなんだ。」


この地球をは『アークトリア帝国』という国がほとんどの国を掌握している。表向きは戦争を嘆いた国が統一し、秩序と繁栄をもたらすなど掲げているが、その事態は帝国のトップ達が利権や絶対的権力を握るために他国には圧政を強いている。他国の政治家達は帝国から献金を得て脱退をしない、もしくは武力によって潰されることを恐れている。


今回、帝国に飲まれないよう反発している国の一つをコロッサスを用いて制圧しようと動いている。これ以上、犠牲者や帝国の軍事力を増やさないためにティマイオスはこれに武力で介入し、帝国の戦力を削ることが目的だ。


「相変わらず、地球のトップは腐っているな」


セラがマグカップでコーヒーを飲みながら渋い顔をする。


「そうだ、奴らはこうしている間にもどんどん力をつけている。ここら辺で俺たちが戦わないと犠牲者がどんどん出るぞ。」


「わかっている。だからこそ私たちも木星から出てきたんだ。」


セラはイノセを見る。イノセはセラを見るとコクンと首を縦に降った。


「その子が本当にサタンを壊滅させたのか俺にはにわかには信じられん。」


グエンの前にはまだ若い、しかも少女がいる。普通に考えればこの頃の少女が戦場に立ちあの巨大なロボットを操り、戦闘するなど全く想像がつかなかった。その時


「あ、セラ。この先の航路やばいかも」



———————————-



「こちら第5班、ティマイオスの船が通ると思わしき地点に来て5時間経過したが、一向に船が通る気配がない。」


「くそ!どう言うことだ!」


悔しそうに机に拳を叩きつけるスーツ姿の男は信じられない報告に息を荒くする。


「なぜだ、確実に尻尾を掴んだはずだ!なぜいない!」


その頃、イノセの言葉通りに本来カモフラージュで通るはずだったデブリ帯の航路を変更し、小惑星ほどの岩の裏からその様子を見ていた。


「驚いた。本当に帝国の軍があのデブリ帯にいるとはな。」


数分前、突然イノセが「この航路やばい。」と言い出した。この航路は宇宙から地球に戻る際に使う帝国の網にも引っかからない数本の中のルートだった。今回も帝国の動きからこちらが安全だろうと判断して使用していたのだ。


「嬢ちゃん、予知でもできるのかい?」


セラの隣にちょこんと座るイノセにそう問いかけると「予知というか、そんな気がしたというか」とあまり自分でもはっきりしていない様子だった。


「こいつの勘はよく当たる。頼りにして損はないぞ」


こちらにいまだ気づかない帝国の小部隊を警戒しつつ、ティマイオスの船はゆっくりと地球への航路を辿る。


——————————


「早速で悪いが、明日の作戦会議をしよう。」


そう言われグエンに案内された部屋にはすでに数名分のモニターが付いており、それぞれにティマイオスの兵士たちが映し出されていた。その中には女性もいる。


「よし、揃っているな。まずは紹介しよう、俺がわざわざ宇宙に出てまで迎えに行った戦力だ。」


グエンから他の兵士たちにセラとイノセが紹介されると、スキンヘッドの糸目の男がセラに好意的に話しかける。


「そうか、あなたがあのセラさんですか。あの時はどんなイかれた野郎かと思ったが、こんなに綺麗な女性だったとは。」


実は数年前からセラはティマイオスの活動を影から支援していた。政府の圧力と戦っていた彼らには戦闘の術しかなく、技術力や指揮能力などはほとんどない。そこにセラがコンタクトを取り、作戦立案からティマイオスが持てるガラクタで武器などの対抗手段を開発してやったのだ。


「その声はマグド隊長か。あの時は作戦に乗ってくれてありがとう。おかげでティマイオスは帝国に対抗できる力を得ることができたよ。」


他にもセラのおかげで成功した作戦がたくさんあった。それについて次々に兵士から感謝が伝えられる。


「さて、早速だが今から作戦会議をする。イノセ、君はどうする?」


「必要なことはセラから教えてもらえればいい。」


グエンはそうかと言い、他の兵士に向き直り明日の作戦について話し出す。


1人、部屋の外に出たイノセはアルカナが保管してある格納庫へと向かう。

地上で銃を使ってコロッサスに対抗していたティマイオスがここまで大きな宇宙船を得られたのにはセラや帝国に取り込まれたくない国の協力もあったからだ。いまだに統一できていないところを見るとティマイオスのこれまでの戦いも無視できない勢力になりつつある。


「相変わらずすごいなセラは。ね、アルカナ。」


木星ではタブレット、パソコンの前でイノセにはわからない文字を操り、何かを開発して遠くから多くの人々を救ってきた。こうやって突然来た自分達を快く受け入れてくれたのもセラの支援があってだ。

木星の暮らしも良かったが、イノセは既にここも心地いい場所だと感じて地球での生活に胸を弾ませていた。


「そこで何をしている。」


アルカナの方に乗り地球へ胸を高鳴らせていると低く落ち着いた声が聞こえた。

声の方を見ると兵士だろうか、長身で筋肉は無駄なく引き締まった体をしていて、鋭い切れの目がまっすぐこちらを見ているのが印象的だった。褐色の肌に白髪の短い髪、何より赤い瞳が彼によく似合っていてイノセは純粋に綺麗な人だと感じた。


「えっと、セラが作戦会議で暇なのでアルカナと話そうかなと」


ありのままを伝えると青年の顔は怪しいと物語った表情になる。慌ててアルカナから降り、青年の近くに立つ。


「このアルカナのパイロットのイノセと言います。今回の作戦から参加するので、よろしくお願いします。」


「そうか、昨日の。俺はレイジだ。」


レイジ・アシハラと名乗ったその青年はティマイオスの兵士だという。珍しいパーソナルアーマーが格納庫に収容されているというので見にきたところでイノセと鉢合わせたのだという。


「パイロットとしてどれほど優秀かは知らんが、明日は無理をせず撤退をオススメする。何、君くらいの年頃なら誰も責めはしないから安心しろ。」


そういうとレイジは格納庫を去っていった。その背中が見えなくなるとイノセはアルカナを見上げる。


「もう会議終わったかな、セラにやること聞かなきゃ。」


明日の作戦など失敗しないと確信しながら、イノセも格納庫を後にした。



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