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99-黒虹彩剣

「……⁈わかりましたでありんすが……よろしいのでありんすか⁈」


「なに、あいつらもすぐには動けないさ。もう少し泳がせて大きな魚になるのを待とうじゃないか。」


黒百合の疑問の声に返しながらエリトはほくそ笑んだ。


「(まだこのカードは温存しておく、せいぜい潰し合ってもらうとしよう)」


イチたちが善戦すれば竜人たちが勝っても勢力は弱まるはずだ。運が良ければ竜人の将軍の一人や二人倒してくれるかも知れない。一番良いのはイチたちと竜人皇が共倒れになってくれる事だがこれは難しいだろう。


だがイチは妙に大物潰しの才能がある気がする。


竜人皇を少しでも弱らせてくれれば、その隙をついて竜人皇を仕留める事ができる可能性がある。その後に上手いこと竜人皇の跡目争いと、竜人の支配体形が弱まった領で人間たちの反乱でも起きれば乱世がやってくるかもしれない。


「(いいぞ、面白くなってきた!俺様が異世界で王になれる可能性が見えてきたかもしれない!)」


思わず立ち上がってしまうエリト。その時、部屋の小さな明かりが彼の横顔を照らし影を落とした。その光と影のコントラストが彼の中の闇を強調するかのように笑顔を邪悪にする。それを見て黒百合は心底幸せそうな笑顔を浮かべた。


だが、同時に懸念事項がエリトの頭に浮かぶ。


「(ちょっと待て⁈たしか黒百合が報告してきた魔女カルラの発言の中に……)」


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「竜人皇は相当に強力な守りの力を持っているの。そもそも竜人兵は一人一人が本当に強いから数で劣るこちらは戦士タイプじゃないと近づくのも難しいわ。黒虹彩剣があれば遠くからでも守りを突き破る狙撃ができたかもしれない。でもそれも失われた以上、もう……」


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「(そんな発言をしていた気がするぞ⁈守りの力⁈狙撃⁈もしかして竜人皇は何かに守られているのか⁈)」


だとしたら並みの攻撃力ではトドメを刺せない可能性があるぞ⁈手元に黒虹彩剣はあるが……。



確認するか。



「黒百合、森の民の集落の戦いでシリウスがギラードに重傷を負わせたあの必殺の狙撃。お前は出せるのか⁈」


「勿論でありんす。お前様があちきを上手く使ってくれればでありんすが……」


事もなげにケロッと返す黒百合。よし!いいぞ!竜人皇を仕留められる可能性が出てきた!

そう思った瞬間に、


「ただ、あの時より威力は落ちるでありんすね」


さらりと聞き捨てならない事を言う。


「何故だ⁈」


「あの時の戦いでイチにあちきの一部を切り落とされてしまったでありんす。だからあの時のような威力はもう出せないでありんす」




「またイチか!」




叫んだ瞬間、エリトの脳内にイチに右手を切り落とされた時の記憶と痛みが蘇った。あの時、確かに黒虹彩剣でガードしたはずなのにイチは易々と黒虹彩剣ごとエリトの右手を切り落とした。


「本当にアイツは!アイツは!アイツは!いつも俺様の邪魔をしやがって!」


歯を食いしばり右手首を押さえ、額に血管を浮かべながら呪詛のような言葉を上げ続けるエリト。そのエリトの半狂乱の姿を見て背筋がゾクゾクしているらしく黒百合は恍惚の表情を浮かべている。


ひとしきり叫んだあとエリトは深呼吸した。どうやら冷静になったらしい。

エリトは静かに尋ねる。


「狙撃を元の威力に戻すにはどうしたら良い?切り落とされた欠片を取り戻せば良いのか⁈」


「あの欠片はどうやら集落の誰かの手で浄化されてしまったみたいでありんす。もう一度闇落ちさせないと融合できないでありんすよ」


ダメか!クソ!詰んだか!そう思った時に、


「他に黒虹彩剣の材料があればそれと融合して同じ力は出せるでありんすよ⁈」


黒百合がぽつりとつぶやいた。他の材料⁈


「(そう言えばオリオンの剣、黒虹彩剣オブアイリスは呪いの塊のような謂れのある大宝玉を削り出して作ったと聞いた事がある。どこかにまだ大宝玉の材料が残っていればそれを回収して……)」


そう考えたが、すぐにかぶりを振った。どこにあるかわからない物を探す時間なんてない。この手はダメだ。







いや、待て。

本当にダメか⁈







黒百合の報告の中にたしか……。


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「呪いの大宝玉はこの世界の物じゃないのよ。昔々天から落ちてきたんだって。見た目は宝玉で物凄く硬いけど、正体は未知の生物なんだ。見つけるのは大変だけど栄養を与えれば増えるから培養した方が早いって先生が言ってた」


「今年のドラフトには生物を早く育てる能力持ちの勇者がいるって聞いているけど⁈その人に培養してもらうつもりよ⁈」


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確かそんな内容の事を言っていた筈だ!ならば!


「イチの持っていた黒虹彩剣の欠片を社長に培養させてそれを奪えば!いや、それよりも社長を魔道具に変えて俺様自身がその魔道具を使って欠片を培養すれば良いじゃないか!おい、黒百合!」


「はい、お前様」


「黒虹彩剣の欠片を勇者の祝福で培養するとしたらどのくらい時間がかかる⁈」


「祝福で培養⁈どのくらいの能力でありんすか⁈」


「たしか……社長の『成長促進』は3日あれば豆1粒を収穫まで持っていけるって言っていたな」


黒百合は目を閉じ少し考えた後に、


「やってみないと分からないでありんすが、欠片を元の大きさにするなら数日くらいかかるでありんすね……ただ……」


「なんだ⁈」


「お前様みたいに闇の才能がある人間が培養すれば数秒でできるでありんすよ⁈なんなら岩くらいの大きさにまで増やせるでありんす」


そんなにか!ならば⁈


「黒百合は小刀だったよな⁈もし材料がもっとあれば、融合して以前より大きな剣になる事はできるか⁈例えば勇者オリオンの使っていた黒虹彩剣オブアイリスくらいの大きさになるとか」


「――――――――!もちろんでありんす!」


エリトの発言の意図を理解した黒百合は、最高の笑顔で返した!


「正直に答えてくれ。その位の大きさの剣になれば……竜人皇の守りを崩せると思うか⁈」


エリトの質問に、


「完全体の黒虹彩剣オブアイリスに斬れない物はないでありんす。竜人皇の守りなんて……紙屑みたいなものでありんすよ♪」


黒百合はゾクゾクするほど蠱惑的な笑みを浮かべ返した!


「は……ははは!ふははははは!」


勝てる!勝てるぞ!俺様が王になるための条件がどんどん揃っていく!いいぞ!


邪悪な顔で高笑いするエリト。

だが、また冷静になったのか、すぐに表情を整えると、ベッドに横になった。


「当初の予定通りだ。ザーレへの報告は少し時間を置く、少し眠るぞ」


そう静かに言うと、エリトは目を閉じた……笑いをかみ殺しながら。

そして疲れていたのか、すぐに寝息を立て始めた。



その無防備な寝顔を恍惚とした表情で見つめる黒百合。



……いや、そんなものじゃない。艶っぽさは限界を超えている。

息は荒く、目はキマッている。もはや教祖を崇拝する信者のような笑顔を浮かべていた。


「(ああ!愛しい!愛しい!愛しい!……食べたい!食べたい!食べたい!)」


目は大きく見開き、眼球が血のように紅く染まっている。捕食者の目だ。そして飢えた獣のようにじりじりと近づきエリトの首筋に牙を立てようとする。だが、


「(まだ……ダメ!)」


すっと冷静になり、一歩下がった。そしてエリトに毛布をかける。

血走った眼球は雪のように白くなり、今度は哀れみと……慈愛に満ちた表情になった。


「あと一息……どうか裏切らないでありんすね」


黒百合はそう呟くと蛇の姿に戻り……そっとエリトの枕元に寄り添ってとぐろを巻いた。


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