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97/129

97-姉弟

カルラは水を飲み干すと、両手で自分の頬を叩き、


「よし!頑張るか!さてとアタシもご飯ご飯♪」


気合を入れながら笑って部屋を出て行こうとする。それを見て、


「なあ、姉ちゃん、本当にやるのか⁈」


チルルがぽつりとつぶやく。


「当然よ♪アタシは負ける勝負はしないのよ♪」


カルラがウキウキでそう言うと、チルルは少し俯き、少し非難するような口調で話し始める。


「なあ、姉ちゃん、お別れが辛いからもうパートナー作らないんじゃなかったのか?俺は、万一姉ちゃんがまた結婚するとしたらシリウスだと思っていた。アイツなら強さも申し分ないし人格も優れてる。何もよりによってあんなへっぽこを……」


「うーん、歳を取って好みが変わったのかもね⁈♪昔は能力人格最高峰!な男女しかお断りだったんだけどね!♪」


そう言いながらケタケタ笑うカルラ。

すると、


「イチの奴……この世界に来たばかりの時のオリオンに似てるよな、筋肉は足りてないが……なんと言うか……雰囲気が」


チルルがぽつりとつぶやく。

少し俯き無言になるカルラ。そして少し考え事をして、そのまま椅子に座った。

部屋の明かりがゆっくり揺れてカルラの顔に影が差す。

窓を見るカルラ。外は暗い。二つの月が今日はまだ出ていないからだろうか。

カルラはしばらく窓の外を見た後、チルルにゆっくりと向き合うと、懐かしいものを見る目をしながら会話を始める。


「やっぱりそうよねえ、この世界に来た時の先生に似てる。まっすぐで優しくて、先生の方が断然イイ男だけど。頭は良いのにお人好し、よく村の悪ガキに騙されて側溝に落ちてたっけ。背は高くて体格は良かったけどどこか牧歌的だし、顔は良いのにやる事がどこか変で抜けてる、やっぱり学者先生はどこか変だよねって皆で笑っていたわよね」


「竜人が現れて牙を剝いてきた時、こちらがオロオロしてたら、いきなり完全武装してきて『戦い方を教える!』と言ってきた時はビックリしたな。これがあの側溝に落ちてた若先生か?って」


「そうそう!顔つきも変わっちゃってね、あんなに優しかったのに全く笑わなくなって」


「でも竜人たち、こちらを完全にナメてたのに、先生が遠目に見えた瞬間に、腰を抜かして逃げ出していたもんな。あれは今思い出してもケッサクだったぜ」


「あはは!思い出した!あれはおかしかったわね!でも結局、先生は別の世界に飛ばされてしまったけど竜人たちを100年震え上がらせているもんね。さすがだわ!でも、いつも『すまない、ありがとう』って言ってたっけ。この世界の人間でもないのに必死で戦ってくれている先生にこそこちらがお礼を言いたかったのにね……」


先生をしのびながら少し沈黙するカルラとチルル。

しばらくすると扉の隙間から階下の夜食の匂いが漂ってきた、良い匂いだ。

立ち上がろうとするカルラ。するとチルルが制止するかのように重い口を開いた。


「姉ちゃんすまない、俺がヘマしなければ『魂の蘇生結晶(レイヤール)』は盗られなかった……」


「何度も言っているでしょ⁈取引しなくても負けて盗られていたわ。あそこで取引しないと貴方まで失う所だったのよ。弟の貴方がいたからアタシは100年耐えられた。いつも助けてくれてありがとうね」


「先生が帰ってくるまでにこの世界を取り返すつもりだったのにな……」


「もう難しそうね。でもイチくんたちみたいな子が来たのも何かの縁よ、さあ、未来に希望を繋ぐために働きましょう⁈」


イチたちが未来の希望と言う現実に苦笑いするチルル。そして、


「それにしてもイチが俺の事を『兄さん』と呼びだした時はやめてくれと思ったよ。お前の実力で!この俺様を!義兄さんって呼ぶんじゃねえ!ウチの姉ちゃんはもっと高嶺の花だぞわかっているのか!ってな。それなのになあ……」


「形だけよ。もうイチくんには素敵なパートナーがいるみたいだからね。どちらの娘さんを選ぶかはわからないけど♪」


チルルはリコとフォレスタの顔を思い出しながらまた苦笑いした。

二人とも顔は良いんだけど実力が……みたいな顔をした後に、


「そう言えばあの綺麗な嬢ちゃん……フォレスタだったか。あの群を抜いた美しさにイイ性格……姉ちゃんの16番目の妻だったシルビーにそっくりだったよな。シルビーの方が性格も実力も規格外だったが」


「そうなのよ!本当にアタシが結婚したいのはフォレスタちゃんね♪アタシの好みど真ん中!もし竜人皇に勝てたらゆっくりねっとり口説きたいわあ♪」


そう言いながら心底楽しそうにケタケタ笑うカルラ。それを見て『姉ちゃん懲りねえなあ……』と言う顔をしながら苦笑いし続けるチルル。

それを見てカルラは


「もう、またそんな顔をして!今度は大丈夫よ!さあ行きましょう、スープが冷めちゃうわ」


そう言い、チルルは


「ああ、わかったよ姉ちゃん。気の強い女の子口説くのも、逃げる娘さん追っかけるのも好きだもんな!また服を焼かれるなよ!」


憎まれ口を叩き、カルラに引っぱたかれて床に落ちた。

そして笑いながら階下に降りて行った。













しばらくして、カルラの屋敷に生えていた一本の木の枝が落ちた。

落ちた枝は地面を転がって止まった後……ゆっくりと形を変え一匹の蛇になった。

そしてその蛇は屋敷の敷地を離れ……夜の闇に消えて行った。




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