96-31番目のパートナー
「(31番目のパートナー⁈カルラさんの夫にって事⁈……そ……それは⁈)」
カルラさんの宣言にイチは一瞬驚いたものの、
「(あ、そうか、これ冗談だな)」
と思い直し、
「あはははは、カルラさん!ありがたい話ですが遠慮しておきますよ!」
笑いながらやんわりと断った。
だが、
「あ、持参金とか気にしている⁈心配いらないわ、アタシ金持ちだし、家も土地も一杯あるから身一つで婿入りしてくれれば大丈夫よ⁈」
なんかスマホの新規契約を説明する店員みたいに、優しいけど有無を言わせない口調で説得してきた。
もしかして冗談じゃないのか⁈
いや、それ以前に何か話が通じていない気がするぞ⁈
「あの……カルラさん⁈」
「結婚式とちゃんとした手続きは戦いが終わってからになるけどね、大丈夫よォ⁈戦いが終わったらずっと三食昼寝付きで養ってあげる♪徹底的に管理するけど甘やかしてあげるから!遠慮する必要はないわ♪戦いで死ぬかもしれない勇者の当然の報酬よ♪」
きゃぴきゃぴ跳ねながら優しく説得してきた、が目はトロンとして危険な兆候を感じる。
なんだろう、甘い言葉の様で、どこか不穏な雰囲気になって来たぞ⁈
「戦いが終わったらサ、毎日毎日ちゅっちゅして肌をあわせましょう♪この世の天国を見せてあげるわ!ちょっと多めに色々吸うから寿命が30年ほど縮むけど……良いわよね⁈♪」
全然大丈夫じゃないんですが⁈って、待って待って⁈
「寿命縮むんですか⁈それ魂吸い取るのと大差ないんじゃないんですか⁈」
「そんなことないわよ⁈魂には手を出さないから命の無事は保証するわ。ただアタシ、純粋に好きになると止まらなくて四六時中くっついていたい人間なの。ちょっと愛が重いのかな⁈そのせいかパートナーが凄い勢いでやつれていくのよ~♪安心して♪アタシ栄養学には通じているから!徹夜で愛し合っても平気なくらい精のつく食事作れるから♪」
何一つ安心できない!……というかもしかして⁈
「あの……今までのパートナーって竜人たちとの戦いで命を落としたんですよね⁈まさか、愛の営みが激しくて精魂尽き果てて亡くなった人とかいませんよね⁈」
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――いないいない♪そんなひと い な い ♪大丈夫よォ♪」
物凄く長い沈黙を挟みつつカルラさんはイチの目を真っ直ぐに見て言った。一応真剣な目だ。だがさっきと違うのは真剣にウソをつく目だった事だ。目はキラキラと輝いており、唇はツヤツヤしてる!なにより顔に『逃がさない♪』と書いてある気がする!こわいこわいこわい!
そう思っていたら、
「戦いに勝つために……生きるために……必要なのよ。アタシはイチくんから若いエネルギーを貰い、引き換えにアタシの100年分の知識の中から、役に立ちそうなものをトレードでイチくんの脳内に送るわ。何より、もうパートナーを死なせないという誓いの為にね」
急にトーンダウンして、
「もちろん愛もあるよ、命預けるし当然よ」
ゆっくりと、優しい笑顔で語りかけてきた。
そうか……僕らの為でもあるのか。
時間もない以上、知識の数は大事だよな、なら取引としての結婚はアリか⁈
そう考えた瞬間に、
脳内にイチが死にかけた時、必死で自分に回復魔法をかけてくれたリコの顔が浮かんだ。
「ありがとうございます、本当に嬉しいです。でも、遠慮しておきます、俺、その……」
大事な人がいますから……と言いかけた時に、
「知識で不足だったら、追加でお金あげるわよ、どう⁈貴方の若い精との金銭トレード⁈お得じゃない⁈」
何もかもぶち壊しの一言を言うカルラさん。ちょっとちょっと!
「いや!お金は大事かもしれませんが!結婚となると!何より自分未成年ですし!」
そう言いかけた時だった。
カルラさんはスッとイチの隣を通り過ぎると部屋の扉に向かって歩いていき、振り返りつつ後ろ手にカギを閉めた。そして、にっこりと妖艶な笑みを浮かべる。
「あ……あの⁈カルラさん⁈」
「つべこべ言うな♪貴方たちを救うためなのよ♪ア タ シ は一度決めたら止まらないの♪というか、吸わせろー!もう辛抱たまらないんじゃー!」
そう言うと全力ダッシュして抱き着いてきた!
「いやあああああああああああああああああああああ⁈」
悲鳴を上げ、思わず『アクセル255』を発動させそうになるイチ!
だが、身体がへにゃへにゃになって動かない!
するとカルラさんは舌をぺろりと出した。
よく見ると下の先端にブラシみたいなものがついている。
「さっき首を吸った時に、回復効果があるけど眠くなる液体を塗らせてもらったわ♪さっきの食卓の団子みたいなやつね。大丈夫!(そんなに)変なことしないから♪(たぶん)」
「えううあうおおおあ、あらららいいえれいらんれうあ⁈」(眠くなるどころか身体が痺れて来たんですが⁈)
イチが抗議するも言葉にならない。段々意識が遠くなってきた。
「大丈夫大丈夫!年上のお姉さん(ぴちぴちの114歳)に任せなさ~い♪」
「アアアアアアアア⁈」
その言葉を最後にイチは意識を失った。
そして二時間後
トントン。
カルラの部屋がノックされた。リコとフォレスタだ。
「あの~イチ様、そろそろご飯にしませんか⁈」
「イチー。ご飯にしよう」
ぎいいいいいいい。
ゆっくりとドアが開いた。すると部屋の中から甘い匂いが漂ってくる。
そしてそこには、
頬がこけて体重が3㎏くらい減ってそうなイチが現れた。
「リコ……ご飯……食べたいな……」
この世の天国を見たような、同時に悟りも開いてそうな穏やかな笑顔を浮かべている。
「イ……イチ様⁈」
「ちょっと⁈何かされたの⁈」
イチの服に乱れはない。だが首筋には虫刺されのような跡が複数あった。ハッとなるフォレスタ。
「おい!魔女!イチに何をした!返答によっては!」
そう言いかけた時に……彼女は見た。
瞳が潤んだ、とんでもない色気を全身から出しているお肌ツヤツヤの美女を。
甘い匂いがして見ているだけで頭がボーっとしてくる。
そしてその美女は、
「大丈夫よォ、お嬢ちゃんたち♪未成年だもの変な事はしていないわ♪ちょっと……ほんのちょっとだけ色々吸っちゃったけど、ご飯食べれば元気になるからね♪……それにしても」
カルラさんは今度はフォレスタを頭から腰、脚の指先までゆっくり見て
「よく見ると貴女アタシの16番目の妻に似ているわあ、ねえ、ちょっとお話しない⁈♪」
艶めかしい目で見つめるカルラさん。
「え⁈……ボク⁈い……いえ!……遠慮しておきます!イ……イチ!行くわよ!」
いつも可愛い娘を狩る側だったフォレスタだが本能的に狩られる側になったのを察して、思わずイチの腕を掴んで逃げようとする。だが、
「ああ……世界はこんなに綺麗だったんだ。花も木も鳥も……みんな美しい……」
イチは穏やかな笑顔を浮かべ遠い目をしている。
「イ……イチ様!柔らかくて消化の良い食べ物作りますからしっかり!早く行きましょう!」
リコはイチの腕をむんずと掴み、凄い勢いで階下へ連れて行った。
そしてその直後にチルルが入ってきた。
「なんとなくこうなる気がしていた……」
チルルが呆れながらそう呟き『重力制御』で持ってきた水をカルラさんに差し出す。
「あっはっは、ごめんごめんごちそうさま♪あー若返った♪」
カルラさんはそう言って水を一気に飲み干し、上機嫌で背伸びをした後、
「よし!エネルギー満タン!ありがとう、大丈夫だよ。今度こそもう誰も死なせないからね!」
優しく、だが強い意志を持って階下の皆に向かって微笑んだ。




