94-魔法の武器
「そうだ!忘れる所だった!」
イチはそう言うと『大貨物船』を起動させる。イチの頭上に観音開きの小さな鉄の扉が現れると、ゆっくり開き、武器が何本か飛び出してきて床に転がった。森の民の集落で長から受け取った武器だ。それらを見て顔がパアっと明るくなるカルラさん。
「武器も持ってきてくれたんだ!シリウス、ちゃんと話を付けてくれていたんだね!うわ!よく手入れされている!これがあればウチの土人形たちでもかなり戦えそうだよ!ありがとう!」
「そうです、凄いんですよ!『魔力を帯びてそうな武器』まであるんです!」
そう言うと、イチの頭上に白銀色の扉が出現した。『大貨物船』の『貴重品』の船倉の扉だ。扉は古いカメラのシャッターみたいに中央から回転するように開くと、うっすら光っている鉾が出てきた。それを空中で掴み、カルラさんに手渡すイチ。
その鉾を受け取ったカルラさんの顔色が変わった!
「これは……!イチくん、こういう武器、まだ他にもある⁈」
「え……⁈あ、はい、数は少ないですけど、あります。出しましょうか⁈」
そう言いながら『魔力を帯びてそうな武器』を全部出した。全部で9本。鉾や剣に槍、死神が使うような大きな鎌に、どう使うのかわからないヘンテコなものもあった。カルラさんは一本一本を隅々まで確認すると、
「この武器たちはウチの土人形たちには勿体なさすぎるね。ちゃんとした使い手のためにとっておいて」
そう言いながら返してきた。しかし、
「ごめん、これだけはアタシが貰って良い⁈」
そう言いながら、先端に丸い突起が付いた80㎝くらいの長さの棒は回収するカルラさん。この『魔力を帯びてそうな武器』中でも群を抜いて強めの魔力を感じた棒だ。
「別に構いませんけど……」
「ありがとう。これなら……」
そう言いながら慣れた手つきで棒を軽く振るカルラ。すると先端の丸い突起が赤く光り火花が飛び出したかと思うと、その火花は空中で弾け、膨らみ、炎の玉となって空中に漂い始めた!
「うわ!凄い!ファンタジー物語で良く見る魔法使いの杖みたいだ!」
感嘆するイチ。カルラさんはその炎の玉を見てなんとも言えない顔をした後に、
「貴女たちも使えそうな武器は先に貰っておいた方が良いわよ。これらの武器は軽量化の魔法がかかっているから子供でも使えるのもあるわ。使いやすい武器は生存率を上げるわよ」
そうリコやフォレスタに向かって言った。
「ボクは父さんが作った弓矢があるからいらないよ。でもリコは⁈使えるなら貰っておけば⁈」
「え、でも私、武器の良し悪しはわかりません……」
リコが困っていると、
「ならこれが良いわよ」
カルラさんはそう言いながら、20㎝くらいの長さの、先端が少し曲がった細めの薄緑色の筒を掴み、リコに手渡した。色は翠亀剣に似ているけどアレも武器なんだろうか。どちらかと言うと武器というより細めの水道管の様にも見える。
「リコちゃん、その筒の先端の曲がっている所の少し上辺りを強めに握ってみて」
「はい……」
リコはカルラさんに言われた通りの場所を恐る恐る強めに握ってみた。すると、筒の先端が花の蕾が開く様に展開し、傘みたいな形になった!
「ちょっとした盾代わりになるよ。リコちゃん、試しに今度は同じ場所に親指から魔力を注入してごらん⁈」
「は、はい。こうですか⁈……きゃあ!」
ぼふん!
「ウワーでゲス―!」
筒の先端から空気の弾が飛び出し、ゲス郎を壁際まで吹っ飛ばしてしまった!頭は打たなかったみたいだが勢いで床を転がるゲス郎。慌ててリコが追いすがる。
「ゲス郎、大丈夫ですか⁈」
「姫様!ヒドイでゲス!」
それを見てカルラさんはケタケタ笑い、説明した。
「ごめんごめん♪その筒は殺傷能力はないけど相手を吹っ飛ばす空気弾も撃てると教えたくてね♪ちなみに投げればかなりの威力の投擲武器にもなるから護身用にちょうど良いよ~⁈」
「……!たしかに小さくて軽いですし、これなら私でも使えそうです!」
リコが魔法の筒を握りながら嬉しそうにはにかむ。たしかにこれはありがたい。リコは前面に出られる戦士じゃないから、護身用に何か欲しかったんだ。それを見て、
「アッシも!アッシにも何か欲しいでゲス!」
ゲス郎も魔法の武器を要求する。抜け目ないな!だが、
「却下♪ごめんね~♪貴方にはあげられないの♪」
無碍なく断るカルラさん。
「何故でゲスか!アッシも強力な武器が欲しいでゲス!吹っ飛ばされ損は嫌でゲス!」
必死で抗議するゲス郎。それに対して、
「お前がこんな業物持っても何の役にも立たないだろう、無駄だ無駄。これは意地悪で言うんじゃない。お前は逃げ足が速そうだから、付け焼刃の武器は逆に気を取られて命取りになる。お前は危険が迫ったら全力で逃げろ。それが最適解だ」
チルルが淡々と答える。それはたしかにある。いつも我が身可愛さに真っ先に逃げているゲス郎だけど、危機察知能力は高いからなんだかんだで生き残っている。正直戦いの場にいるより離れていてくれた方がありがたい。
そんな事を考えていたら、
「そうだね、じゃあ、お詫びにゲス郎くんにはアタシからこれをあげるよ♪身に着けてごらん」
カルラさんは戸棚を開くとクッキー缶の様な小箱を取り出し、その中に転がっていた小さな指輪をゲス郎に渡した。一見、宝石も装飾もないただの金属の指輪に見えるが……。
「カルラさん、これは⁈」
イチが尋ねると、
「ちょっとだけどスタミナが増えて足が速くなる魔道具だよ」
「魔道具⁈ありがたいでゲス!魔道具ならいざと言う時には高く売れるから大助かりでゲス!」
カルラさんの言葉を聞いて、さっきまでの不機嫌はどこにやら、ゲスい事言いながら大はしゃぎするゲス郎。
こ……こいつ~!
と、思ったのだが、それ以上に気になる事があった。
カルラさんに近づき、そっと耳打ちするイチ。
「(あの……カルラさん、魔道具って事はこれ、かつての勇者の変わり果てた姿では……そんな貴重な物をゲス郎に渡して良いのですか⁈アイツ結構ゲスですよ⁈)」
「(大丈夫大丈夫♪アレはただの身体軽量化の魔法がかかっている子供のオモチャレベルの人工魔道具だから♪売っても飲み代くらいにしかならないよ♪)」
さすがカルラさん、一枚上手やでえ。
いや、でもちょっと待ってくれ。
「魔道具って、人の手で作れるものなのですか⁈」
「勇者魔道具を参考にこの世界で作られた人工魔道具ってのがあるんだ。勇者が変わり果てたものみたいな強力なものは作れないけど、3ランクくらい型落ち性能の人工魔道具はこの世界のトップ魔法使いなら作れるよ、あまり流通してないけど」
そう言いながらイチの指に嵌められている変化の指輪を指さすカルラさん。
「その変化の指輪もアタシが作ったんだ。ギラードの野郎に依頼されて渋々ね。イチくんたちが持っていたのを見て『ははーん⁈ギラードの野郎、負けて奪われやがったな⁈ざまあみろ!』と思ったよ!」
そう言いながらケタケタ笑うカルラさん。
こんな高性能な変化の指輪が型落ち品⁈って事は……、
「この変化の指輪のオリジナルの魔道具ってどんなに凄かったんですかね……」
「凄かったよ、今でも覚えている。50年前のドラフト一位勇者シルビー。雷を吐き空を飛ぶ、城くらいの大きさの銀龍に変化できたドラフト中期最強の勇者。余りに強くて竜人皇直々に倒しに来た。負けたけど竜人の将軍もかなりやられて竜人たちが暫く大人しくなった。あの時はチャンスだったのになあ」
しみじみ振り返るカルラさん。ひえ~オリジナルはやっぱり本当に凄かったのね。でも、
「そんな強い勇者が召喚されたのによくドラフト制度存続できましたね……」
「竜人たちも背に腹は代えられなかったんだろうね、でも一時期ドラフト人数が極端に少なくなったよ」
ドラフトに歴史ありか……そんな事を考えていたら、イチの身体がふわりと浮かされて地下室の方向に運ばれ始めた。
「皆、作業するぞ。時間が無いからまともに寝られると思うなよ⁈ほら、動け!この桶頭!」
「わ、わかったよ兄さん!」
「兄さんって呼ぶなァ!」
チルルが『重力制御』でイチを風車の様にぐるんぐるんと回転させる。それを見てゲラゲラ笑うカルラさん。イチを助けようと慌ててイチの脚にしがみつくリコ。カオスである。
数分後、
何十回転もされて目を回し意識朦朧となりながら地下室に連行されていくイチ。するとカルラさんがそっと近づいてきて、
「あとで少し良いかな⁈」
耳元で優しく囁いてきた。




