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93-やるべきことをやろう

カルラは、しばらく腕を組んだまま檻の中のクマみたいにぐるぐる歩き回りながら考え事をしていたが、思考がまとまったらしく皆の方に向きなおった。


「今はやるべきことをやろう!いい?みんな聞いて!まずは……」


そう言いながらカルラはイチの方に視線を送る。


「イチくんはチルルの土人形の改造作業をやって!具体的には土を掘るために特化している土人形の手を『重力制御』で武器を握れる形に改造して欲しいんだ!」


「改造……ですか、それならできるし数をこなせるかも。いや、やってみます!」


イチがそう返すと、


「効率の良い方法を俺が教えてやる。一から土人形を作るより遥かに楽なはずだ。出来ないとは言わせねえからな、それからもう一つ」


チルルはそう言うとさらに続ける。


「これから俺の事を師匠と呼べ。イチ、お前は俺が見てきた勇者の中で一番見込みがないが、見捨てるほどでもない、やってもらうぞ、良いな⁈」


「は……はい、師匠」


思わずそう返事をしてしまうイチ、チルルは当然だという顔をする……が、


「えっらそうに~♪チルルに色々教えたのはアタシよ⁈アンタなんてアタシの出来の悪い弟子みたいなもんでしょ⁈イチくん、師匠はアタシ!コイツの事は兄弟子とかで良いわよ♪」


カルラさんがニヤニヤ笑いながらチルルにツッコむ。言われたチルルはバツの悪そうな顔をしている。

なんだ、チルルも弟子だったのか、なら師匠と呼ぶのはなんか違うかな⁈ならば、なんて呼ぼうか⁈


その時、TVでお笑い芸人や落語家が兄弟子を呼ぶ時の映像が浮かんだ。

うん、これだ!


「じゃあ、兄さんと呼びますね。よろしくお願いします!チルル兄さん!」


兄弟子と言ったらこれでしょ!

そう思った瞬間だった。


イチの身体がふわりと浮いたかと思うと3回くらい回転してトドメに背中から床に落ちた。そして桶の様なものが降ってきて頭にすっぽりとハマった。チルルの奴が『重力制御』でぶん投げてきやがった!


「いっててててて!何するんですか、ちょっと!」


「お ま え に 兄さん呼ばわりされる筋合いはない!この桶頭が!」


「なんだと!この鳥野郎!焼き鳥にしてやる!」


こ……こいつ!兄弟子として一目置こうと思ったのに!やっぱり嫌な奴だ!コノヤロー!

そう思っていたら、カルラさんが二人の喧嘩を見て腹を抱えてケタケタ笑っている。


「(カルラさんに笑顔が戻ったのは良いけどなんか腹立つな~!)」


そんな事を考えていたら、カルラさんは何かを思い出したような顔をしたかと思うと、イチに向かって右手を差し出してきた。


「イチくん、翠亀剣を貸して」


そう言いながらカルラさんはイチから翠亀剣を受け取ると、刀身に付着していた黒虹彩剣のかけらを筆の様な器具で丁寧に擦り落とし始めた。そしてその粉末みたいなかけらを集めると、念入りに封をして瓶詰めし、水を少し加えた。


「何をしているんです?」


イチがそう尋ねると、


「せっかく黒虹彩剣のかけらが残っていたんだから培養して増やそうと思ってね。実はコイツは水と空気があれば自然に増えていくんだ」


カルラさんがそう返す。え?ちょっと待って⁈


「え⁈培養できるのですか⁈黒虹彩剣ってたしか呪いの塊のような謂れのある貴重な大宝玉を削って作ったって……しかもおそらくこの世界にはもうほぼ材料がないって聞いたような⁈」


イチが驚きながら確認すると、カルラさんは


「うん、貴重品。この世界のどこかにはぽつぽつある気もするけどほぼ一品モノ。だから養殖して増やした方が良いの」


そう返し、さらに続けた。


「呪いの大宝玉はこの世界の物じゃないのよ。昔々天から落ちてきたんだって。見た目は宝玉で物凄く硬いけど、正体は未知の生物なんだ。見つけるのは大変だけど栄養を与えれば増えるから培養した方が早いって先生が言ってた」


イチの疑問に答えるカルラ。呪いの大宝玉は空から来たの⁈隕鉄みたいな物なのかな?

それにしても戦力にはなるかもしれないけど、あんな恐ろしいものが水と空気で増えるって怖いな……。

そんな事を考えていたらリコがおずおずと質問してきた。


「あの……聞きたいのですけど、そのかけらを呪いの小刀くらいの大きさにまで増やすのにはどのくらいの時間がかかるのですか⁈」


「うーん……自然に任せたら10年以上は……オリジナルの黒虹彩剣オブアイリスくらいの大きさに育てるなら100年はかかるかも……」


恐ろしい数字をサラリと答えるカルラさん。


「ええええええええええええ⁈」


「100年⁈とても待っていられないでゲス!」


「ボクも無理だと思う!」


皆で一斉にツッコむ。だが……


「何を驚いているの⁈呪いの大宝玉は生物だって言ったでしょ⁈」


カルラさんは不思議そうな顔をしている。

そして続けた。


「今年のドラフトには生物を早く育てる能力持ちの勇者がいるって聞いているけど⁈その人に培養してもらうつもりよ⁈」









その瞬間だった。









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「私が貰った祝福は『成長促進』なんだ。植物や家畜を早く育てたりする事が出来るんだよ。ちなみに応用すれば、身体の機能を高めてケガを早く治す事も出来るんだよ!」


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社長と初めて会った時に説明してくれたセリフを思い出した!


「社長の『成長促進』!そんな使い方もできるんだ!」


イチがそう言うと、


「まあどのくらい時間がかかるかは実践してみないとわからないけどね!イチくんたちは呪いの小刀で怖い目に遭っているみたいだからコイツを使うのは複雑かも知れないけど……良いかな⁈」


そう返し、イチの目をジッと見つめるカルラさん。

周りを見ると、リコやフォレスタたちもイチを見つめている。

それは『貴方の判断に従います』と言う視線だった。


……森の民の集落一度はあの小刀で壊滅しかけているからなあ。でもこのままだと人類滅亡のカウントダウン始まるし……。



仕方ない、覚悟決めるか。



「正直コイツに頼るのは危険だと思う。でも切り札は一枚でも増やしていきたい。さっきカルラさんも言っていたけど今はやれる事全部やろう!」


イチがそう言うと、皆、静かに頷いた。

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