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92-望み

カルラはしばらく呆然としていた。しかし何かを決意したのか、口を強く閉じ額に皺を寄せながら階段を駆け上がって家屋の方に戻り、家中の収納を片っ端から開け始めた。


「もう駄目。今の戦力じゃ勝ち目がない。アタシとチルルは姿を隠す。貴方たちもどこかへ早く逃げて!」


そう言いながら凄い勢いで荷造りを始めるカルラ。そ、そんな⁈


「え⁈この状況で逃げてと言われても!それよりまだ勝てないと決まったわけじゃ……」


イチがそう言うと、カルラは作業に没頭しながら振り返りもせずに答えた。


「無理!本当はシリウスが死んだ時点で勝ち筋はほぼ消えてたの!でも貴方が生きていたからまだ可能性があったのだけど……でも貴方の能力だけじゃ勝てない!兵がいない、シリウスたちもいない、黒虹彩剣がない、これじゃ竜人皇に勝てない!」


「え⁈黒虹彩剣……⁈なんで⁈」


イチはその名前を口にした瞬間、シリウスさんが持っていた呪いの小刀を思い出した。恐ろしい力を持っていたが、持ち主の命を削る悪魔の小刀。森の民の集落でギラードと戦った時には禍々しいエネルギーに満ちた鋭利な2mくらいの漆黒の投げ槍と化して遠方からギラードを瀕死に追い込んだ必殺兵器。


「あの……シリウスさんが持っていた黒虹彩の小刀!……あれカルラさんが用意していたのですか!」


ここで初めてカルラは手を止めた。だが振り返りはせず、声を落として返事をする。


「シリウスには悪い事をしたとは思っているわ。竜人皇の守りを破壊するにはあれしかなかったの、危険だったけどシリウスなら使いこなしてくれると信じて渡したわけ。でも……でも!シリウスも黒虹彩剣ももうないの!もう逃げるしかない!」


そう言いながらまた荷物を纏め始めるカルラ。その発言を聞いて、


「あんな恐ろしい物をシリウスさんに使わせておいて!貴女はみんなを見捨てて逃げるの⁈」


カッとなったフォレスタが強く怒鳴りつけながらカルラの肩を掴んだ。だがカルラは怯むことなく振り返り、フォレスタを強く睨みつけながら返す。


「平気だと思う⁈アタシだって……アタシだって100年この時を待っていたのよ⁈アタシの今までの30人の夫や妻も竜人との戦いで失ってきたわ!悔しくない訳がないでしょ!でもね……こんな危機は今まで何度もあった!ならもう一度やり直すだけ!」


そう言いながらもう一度カバンに薬品などを詰め込む作業に没頭するカルラ。チルルは何も言わずそんなカルラを見つめている。そして簡単な荷造りが終わるとカルラはイチたちの方を振り返り、


「じゃあ生きていればまた会いましょう⁈大丈夫よ『魂の蘇生結晶(レイヤール)』には耐用年数があってそろそろ壊れる筈よ。アタシが何年か……いや10年くらい逃げ回れば竜人たちは老いて詰むわ!じゃあね、さよなら!」


そう言って地下室へ向かって歩いていく。そ……そんな!と思いながら同時に、


「(待って⁈『魂の蘇生結晶(レイヤール)』には耐用年数があったの⁈そんなの聞いていないよ⁈それじゃ俺の願いは……いや今はそれどころじゃないのは分かっている!でも!でも!)」


イチがそんな事を考えてパニックになっていたらカルラさんは何かを思い出したのだろうか。立ち止まり先ほどカバンに詰めていた薬品をもう一度取り出すと、イチに渡した。


「忘れる所だったわ、これを渡しておくわね。森の民の集落に戻ってこれを『解呪』の能力者……エルマさん……だっけ⁈その子に飲ませて!」


そう言いながら小瓶を渡してきた。紫色の蓋が付いており、表示の様なものはない。


「カルラさん……これは?」


「苦しまずに死ねる毒よ。竜人たちに魔道具にされる前に、それを飲ませてこちらの手で始末して!」


「(こ……この野郎!)」


カルラさんの発言に髪の毛が逆立つ感覚を覚え、思わずカルラさんの肩を掴み、


「ふざけるな!そんな事出来るか!アンタやはり噂通りの悪女……」


そう声を荒らげようとしたイチはカルラの目を見て言葉に詰まってしまった。

カルラはさめざめと泣いていた。


「アタシだって、アタシだって、その薬で夫や妻を……死なせてきたのよ……みんな、秘密を守るために……飲んでくれたわ……」


無言になるカルラ。だが一息したあと声を落として続けた。


「恨んでくれても構わないわ……アタシはどうせ地獄行きだから……でも……でもね、お願い、わかって。この世界を救うにはもう他に方法が無いの」


「そんな……」


沈黙の中カルラの嗚咽が響く。リコも泣きながらカルラに問う。


「カルラさん……本当に……他に方法はないのですか……」


「ごめんなさい……」


「もしかしたら、シリウスさんの作った土人形が見つかるかもしれないじゃない!ボクが森の民の集落に連絡して探してもらうよ!まだ諦めないで!」


フォレスタがそう言うとカルラは力なく首を横に振った。


「その可能性に賭けたいけど……シリウスが土人形を作っていたら必ずあらゆる手を使ってアタシか誰かに伝えていた筈なのよ。勿論伝言できなかった可能性もあるけど、もし無かったら皆ここで全滅してしまうわ」


シリウスさんの事を思い出したのだろうか、カルラさんは少し声に詰まった後、続けた。


「シリウスは土人形作りが上手かったけど、一番の強みは戦士タイプを作れた事だったのよ。その戦士タイプの土人形に、昔、先生が鍛えた少数だったけど最強の戦士団の人たちの魂が入れば、黒虹彩剣を使わなくても力技で竜人皇の守りをこじ開けられたかも知れなかったんだけど……」


そんなにかつての戦士団は強かったのか⁈でも……


「その戦士タイプの土人形がいないと勝てないのですか⁈」


イチがそう問うとカルラは、


「竜人皇は相当に強力な守りの力を持っているの。そもそも竜人兵は一人一人が本当に強いから数で劣るこちらは戦士タイプじゃないと近づくのも難しいわ。黒虹彩剣があれば遠くからでも守りを突き破る狙撃ができたかもしれない。でもそれも失われた以上、もう……」


「黒虹彩剣は……他にないのですか」


「この世界にはまだ何本かあるかもしれない、でも探している時間が無いの。アタシは逃亡しながら別の黒虹彩剣を探してみるわ」


「もう……ダメなのですか……」


「ごめんなさい、もうそんな余裕が無いの」


イチとカルラはやりとりのあと無言になった。

リコやフォレスタ、ゲス郎もチルルも何も言わなかった。

詰んだのだ。


イチは近くの椅子に疲れたように座りこむと腰の翠亀剣に手をやり、無言で鞘から抜くと、刀身をぼんやりと眺めた。


「こいつが……黒虹彩剣だったら、まだ可能性があったのかな……」


言ってみただけだった。黒虹彩の小刀を使ったシリウスさんがどうなったかはよく覚えている。強すぎる呪いで自分じゃ振る事も出来なかっただろう。つまり土人形の量産が出来なくなった時点で詰んでたのだ。



終わった……。



そう思っていたら、















カルラさんが目を見開いて翠亀剣の刀身を眺めていた。

そしてその刀身に近づき、彼女の白魚の様な細い指でおそるおそる触れたかと思うと、刀身に付着していた小さな汚れの様な物を指先で何度も何度も撫でている。まるで貴重な物質を見る研究者のように。


「あの……カルラさん⁈」


「イチくん……貴方……黒虹彩剣を斬ったのね⁈『オリオン斬り』使えるの⁈」


「『オリオン斬り』⁈いや、シリウスさんに型は教えてもらったけど、一回も使えた事は……」


その瞬間思い出した。

森の民の集落でエリトと黒百合と戦った時の事を。



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まるでゼリーでも切るかのように、翠亀剣は黒虹彩剣の剣先と、エリトの右手をストンと切り落とした。

エリトの右手はそのまま地面に落ち、黒虹彩剣の切っ先は遠くに弾け飛んだ。


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「もしかして、アレが『オリオン斬り』だったのか⁈」


「――――――――――――使えるのね!」


「いや……出せたのはアレ一回きりで、もう一度出せるかと言われると……」


しどろもどろになるイチ。だがカルラは鋭い目をして考え事をし始め何かをブツブツ呟いている。

そして何かを決意したのかイチに向かって力強く言った。


「ありがとう!勝ち筋が出てきた!力を貸して!」


生気の戻った力強い瞳でイチを見ながら握手をしてきた!


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