91-誤算
「ちょ……ちょっと待ってください!」
盛り上がる一同を前に慌てて声をかけるイチ。
「どうしたの⁈イチくん」
「土人形5000体を今から作るのですか⁈絶対に無理です!」
悲鳴のような声を上げるイチ。
「『重力制御』は使えます!でもあまり得意じゃないって言ったじゃないですか!俺にはそんなに土人形を作る力はありませんよ!!」
つい『得意じゃない』と言ってしまったが、嘘だ。本当は超苦手と言っても良い。『なんとか使える(苦手)』と『得意』の間には深くて広い溝がある。
「泣き言言ってるんじゃねえ、ガキが。心配するな、一人で作らせるとは言っていない、ついて来い」
チルルはそう言うとふわりと舞い上がり、隣の部屋に飛んで行く。ついて行くとチルルは床に降り立ち『重力制御』で床に置いてあるラグの様なものをめくれあがらせた。すると地下収納庫のような扉が現れた!そのままチルルは『重力制御』で扉を開ける。
ぎいいいいいいい。
「こっちだ」
扉の下には深い竪穴が続いている、かなり深そうだ。
「梯子がある。ついて来い」
言うが早くチルルはその竪穴の底へ向かって飛んで行った。戸惑いながらもイチたちは梯子を伝い地下へ降りて行く。そして5メートルくらい降りたら、底に到達した。非常灯の様な小さな明かりがあちこちにあるが良く見えない。この小さな部屋が底かな⁈と思ったら奥に更に階段があり地下へと続いているようだ。そのまま階段を降りていく。
階段を降りて今度こそ底に着いたようだ。
かなり広そうだがここには非常灯がないみたいで真っ暗だった。行き止まりではないようだが……。
「(空気の流れを感じる……まだ奥があるのだろうか?でも暗くて何も見えないな)」
心の中で呟くイチ。するとゲス郎の声がした。
「いい加減底に着いたでゲスか⁈何も見えないでゲスよねえ、明かりが欲しいでゲス!」
「ちょっと待ってね~♪ライティア!」
暗闇の中でカルラの声がした。その瞬間、カルラから光の玉が複数飛び出し天井に張り付いた。すると、周りがパッと明るくなり視界が開けた。魔法の明かりみたいだが、映画で見た軍隊の照明弾にも似ている。
そして明るくなって気付いた。
地下室だと思っていた空間は思ったより大きな空洞で、よく見ると壁のあちこちに穴が開いている。そして穴はそれぞれどこかに通じているようだ。
「(まるでアリの巣みたいだ……ここは一体⁈)」
イチがそんな事を考えていた時だった、
「みんな~出ておいで~♪」
カルラがそう言うと壁にある各穴の中から1メートルより少し大きいくらいの土人形がワラワラと出てきた!一応人の形をしているがずんぐりむっくりしている。手は大きくてツメがあり、指を閉じると大きなシャベルになるみたいだ。モグラに似ている。土を掘りやすそうだ。
「うわ!これは⁈かわいい⁈」
「きゃあああ⁈かわいい!かわいい!かわいい!」
フォレスタとリコが歓声を上げる。すると各穴からモグラ土人形はどんどんどんどん湧いてきた!そしてカルラの前に綺麗に整列する。たしかにかわいい。総数は……200体くらいだろうか⁈
そんなモグラ土人形たちを観察していたらチルルがイチの肩に留まり話し出した。
「どうだ、なかなかのものだろう⁈80年かけて俺が作った土人形たちだ。土木工事に特化した奴で戦闘力は高くないが、かき集めれば500体は超えるぜ。」
ドヤ顔のチルル。
「(ありがたい……けど何か言い方に棘があるよなこのメズメ!いや、先輩だから仕方ないけどさ!なんか悪意を感じるな!おのれー!)」
イチがそんな事を考えてモヤっていたらカルラが続けた。
「どう⁈可愛いでしょ~♪この子達の力で、時間をかけてこの街のあちこちに地下道を掘ったんだ。いざと言う時の脱出口とか、色々な用途に使えるようにね!」
たしかに凄い!これなら!そんな事を考えていたらチルルはニヤリと笑い、イチの耳元でこう言った。
「どうだ⁈大したものだろう⁈これを機に先輩である俺様を敬う事だなドラフト下位勇者くんよ⁈ちなみにシリウスの奴は3000体は土人形を作ってみせると豪語してたぜ⁈そのくらいやって見せたら俺様もお前を認めてやるよ。仕事のできるシリウスの事だから土人形はもう作成してどこかに隠し済みだと思うが……なんか聞いてねえか⁈」
「え⁈自分は何も聞いていないです。リコ、フォレスタ、何か聞いている⁈」
イチは寝耳に水だという顔をして、リコとフォレスタの方を振り返り尋ねる。
「すみません……何も聞いていないです」
「ボクも何も聞いていないなあ……」
「え?何も聞いていないの⁈そ、そうなんだ。ま、まあ……そちらは後で考えるとして……」
リコとフォレスタの返事を聞いて動揺するカルラ。しかしすぐに気を取り直すと、
「……ともかく、イチくん、戦士タイプの土人形をあと1500体で良いから!大急ぎでお願いね~♪」
恐ろしいノルマを課してきた!
え……ええええええええええええ⁈
「せ……1500体⁈無理です!あと戦士タイプの土人形って⁈俺が作れるのは小さな土人形だけで、一体作っただけでヘトヘトになりますよ⁈」
「またまた~♪シリウスは1日で300体は作れると自信満々に言ってたよ⁈得意じゃなくても一日100体くらいは……」
俯くイチ。無言になるリコ、フォレスタ、ゲス郎。それらを見てカルラの顔色が変わる。
「え……本当に……『重力制御』苦手なの⁈」
ごろんごろんごろん……ごとっ。
カルラの発言の直後に何かが転がり落ちたような音がした。振り向くとイチたちが降りて来た階段の方向から30センチくらいの大きさの遮光式土偶に似た不格好な土人形がとてとてと歩いてきた、モモさんだ。
モモさんはそのままカルラの前に歩いてきて『真打登場!』みたいなリアクションをした。そして一同の前でキレキレのブレイクダンスを踊り出す。
青い顔をしたカルラが、震える声で尋ねてきた。
「これ……イチくんが作った土人形なの⁈試作品……だよね⁈」
「全力でこれ一体しか作れてません……」
「うそ……」
「シリウスさんが作った土人形はもっと大きくて強そうでした……が、作り置きがあるかは……聞いていないです、亡くなられたので……」
イチがそう答えると、
「ど……どうしよう……」
そう言いながらへなへなと座り込むカルラ。チルルは天井を見上げ遠い目をしている。
気まずい沈黙が辺りを包む。
そんな中モモさんが逆立ちして頭で回転するヘッドスピンを始めた。かなりの高等テクニックだ。いや、よりによってこのタイミングで披露しなくても。
するとモモさんのブレイクダンスに興味をもった200体くらいのモグラ土人形が次々とモモさんの真似をしだして200体のずんぐりむっくりのモグラ土人形たちによるブレイクダンス大会が始まった。巨大な空洞は一瞬にしてダンス会場になり、魔力が薄くなって点滅が始まった照明弾はミラーボールのように会場を包む。ダンシングオールナイト、イエ―。
「本当にどうしよう……」
カルラが呆然と呟き、皆はひたすら無言だった。




