88-生き残りの魔女
「魔女カルラがオリオンの生徒⁈……いや⁈それより……⁈」
続きを言いかけて口をつぐむイチ。
「(勇者オリオンは100年前の勇者だぞ⁈カルラさん一体何歳なんだ⁈)」
皆も同じことを考えていたのだろう、口ごもっていると、
「なんだ、エロ魔女かと思っていたのにババアじゃないでゲスか」
ゲス郎がサラリと発言した。お……お前!
イチの拳骨とフォレスタのチョップが合体技の様にゲス郎の脳天に吸い込まれる。悲鳴を上げて倒れこむゲス郎。しかし、
「はいは~い♪魂の魔女カルラ114歳でーす!ちょっと若作りしてまーす♪可愛いから許して♪」
またさっきみたいにふざけた感じの表情に戻ってケタケタ笑いながら言う魔女カルラ。ヒー!すみません!
「長く生きてると色々なものが見れて良いわよ~♪まあ、先生に頼まれたミッションを達成できずに長生きしちゃっただけなんだけどね」
また少し寂しそうな顔をする魔女カルラ。そして続けた。
「先生……オリオンは戦うための勇者として召喚された訳じゃなくて、この世界の困りごとを解決してくれる知識人として呼ばれたんだ。先生は、色々教えてくれた。効率的な農作物の作り方、品種改良、水路や金属加工、魔法の知識も授けてくれた。一緒に汗を流してくれる人でいつも土の匂いがした。アタシの先生のイメージは戦う勇者じゃなくて、穏やかなお兄さんだった。この世界はどんどん発展してみんな先生が大好きだった」
カルラの表情が曇り始めた。
「ある日、竜人たちが現れた。最初は友好的だったのに、急に豹変してこの世界を侵略し始めて、沢山人が死んだ。オリオンは先生を止めて、私たちに戦い方を教えてくれた。農具を手放し自ら二剣を持って。私たちも戦ってあと一歩と言う所まで竜人皇を追い詰めたけど……負けちゃったんだよね」
「そのお話は知っています。竜人皇がどんなに強くて恐ろしかったかは、色々な伝承が残っています」
リコがそう言うとカルラは首を横に振った。
「それは竜人たちが100年かけて広めた嘘だよ。実際には竜人皇なんてオリオンの敵じゃなかった。オリオンと彼に知識と戦い方を仕込まれたこの世界の戦士たちの力は圧倒的で、あっという間に竜人皇は追い込まれた」
「じゃあなんで負けたのさ」
フォレスタが口をとがらせる。カルラは続けた。
「竜人皇は召喚の逆をやったんだ。最後の戦いでオリオンをどこか別の世界に弾き飛ばした。総大将と最大戦力を失った人間たちは徐々に追い詰められていったんだ」
「え⁈徐々に……ですか⁈人間たちはあっさり負けたって聞かされていますが……」
リコがそう言うと、
「それも竜人たちが流した噓。竜人皇も深手を負ったし、オリオンが残した戦士たちもメチャクチャ強かったから、人間と竜人たちとの戦いは結構長く続いたよ。でも竜人兵の基礎体力の強さに人間たちの仲間割れなど、色々な事が重なってどんどん追い詰められて人間たちは負けたんだ。そのあとオリオンに関する伝説はどんどん抹消されて、竜人たちに都合の良い物語が広められた。そうして年月が過ぎ、歴史を忘れたころに竜人の支配体制は完成された」
「え……じゃあ」
カルラの話にフォレスタがそう言いかけると、
「カードが揃えば人間はまだまだ竜人たちに勝てるよ。だいぶ追い詰められたけどこの世界の人口はまだ人間の方が遥かに多いんだ。それにオリオンの呪いがある」
「オリオンの呪い⁈」
イチが問うとカルラは続けた。
「オリオンは二剣を使っていたのは聞いているかな⁈呪いの剣の黒虹彩剣オブアイリスと守りの剣の翠亀剣ライタートル。違う世界に飛ばされる直前にオリオンはオブアイリスを砕いてこの世界の竜人たちに呪いをかけた」
「呪い……それはなんでしょうか……?」
リコの問いに、ニヤリと笑うカルラ。
「時間をかけた毒だよ。この世界の竜人たちの出生率を少しずつ下げていったんだ。去年生まれた竜人の数を知ってる⁈たった3人だよ⁈今年に至っちゃ0人さ。竜人はゆっくりと滅ぶはずだったんだ」
「そんな呪いがあったんでゲスか⁈」
「最初は誰も気付かなかった。でもある日出生率の急激な低下に気付いた。竜人たちはさすがに焦ったんだろうね。エリート竜人や優秀な人間を攫ってきてかなり研究させたりしたけど……この呪いを解く術はこの世界にはないという結論に至ったんだ。そこで外の世界の知識に救いを求めた。次のオリオンを出さないために長年禁止していた勇者召喚をガス抜きという名目で人数制限付きで許可して、見込みのありそうな勇者が召喚されるのを待ったんだ」
「それが勇者ドラフトだったのか……でも狙った能力がくる保障なんて無いのに……」
イチがそう言うと、
「それだけ追い詰められていたって事だし、召喚された勇者の能力は、狙ったモノ以外にも有用なものが多かったから使える能力を持った勇者はどんどん狩って魔道具にして自分たちの世界の安定に使おうとした。だからどんどんドラフトの人数は増えていった。そして今年……」
魔女カルラの顔が険しくなった。今年のドラフト勇者の中にそんなに凄い人がいたのだろうか⁈シリウスさん達は確かに凄いけど……。
そう思った瞬間だった。
オタ芸と盆踊りをミックスさせたような意味不明なダンスを踊るトンチキお姉さんの姿が頭に浮かんだ!
「エルマさんの『解呪』!」
「そう、竜人の悲願の『呪いを解く』に特化した能力者。オリオンの仕掛けたオブアイリスの呪いは強力だから効果があるかは実証しないとわからないけどね。ただ今年のドラフトは例年になく凄い能力持ちの勇者たちが召喚されたから人間側にもチャンスがあった。何より竜人にはもう時間が無い」
カルラさんは一気にまくしたてたあと、
「今年は最後の戦いになるんだよ。人間にとっても、竜人にとってもね」
低い声で静かに呟いた。




