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130/131

130-竜人皇の準備

 その頃、ドラゴニアの街は物凄い緊張感に包まれていた。


 続々と完全武装の屈強な竜人兵が集まってきており、いつもは賑やかな市場に人影が全くない。これから大きな戦が始まるという噂が流れ、住民が怯えて家に閉じこもっているのだ。


 そしてその緊張感の中心がここ『宝竜閣』である。少し前に勇者たちが大暴れしてあちこち崩れていたのだが、竜人皇が泊まるこの建物を無様な姿にしておくわけにはいけないと、メンツをかけた突貫工事が行われて、崩れた劇場や大ホールなどはだいぶ修繕されていた。


 そしてその修繕された『宝竜閣』の大ホールの中で1人の竜人が豪奢な装飾の椅子に座っている。椅子の手すりは炎竜の頭が彫刻された上に金箔も施されていて、クッションは血のように赤い。『宝竜閣』には一級品の家具しかないが、その中でもとびきりの椅子だ。その椅子の前で2人の竜人が片膝をついて頭を下げている。


 座っているのはイエローダイヤモンドのように輝く2本の角と燃えるような赤い髪の筋骨隆々の美丈夫で、片膝をついている二人は冷たい空気を纏う長身の竜人と豪奢な貴族服に身を纏った竜人である。


 竜人皇とギラードとザーレ、竜人たちのビッグ3だ。


 竜人皇は目を閉じて瞑想しているように見える。見ると竜人皇の輝く2本の角の周りにはオーロラの様に色が変化する空気の膜ができており、時折チカチカと小さな火花も散っていた。


「ふふふ、見つけたぞ。ズーミども、キガラ古戦場跡にいるわ」


 ライミの通信を傍受した竜人皇が不敵に笑う。それを聞いたギラードの顔に緊張が走る。


「よりによってあの因縁の地にですか……すぐに兵士を集め討伐隊を送ります」


「いや、どうやらザーレの言っていた土人形軍団が揃ったらしい。その数2000を超えるようだ」


「その程度、物の数ではありません。私自ら討ち取って参ります」


 そう言って立ち上がろうとするギラード。だが、竜人皇がその動きを手で制する。


「座っておれ、ギラード。まだ右腕が痛むであろう。ザーレ、ギラードの右腕が完治するにはどのくらいかかるのだ⁈」


「はっ。普通なら半日もあれば元通りになるのですが……どうやらギラードの右腕は切り落とされた後に翠亀剣で何度も斬りつけられたようです。ギラードの右腕が100年溜めていた膨大な魔力がすっかり抜け落ちてしまっていました。あれでは本来の力は出せないでしょうし、完全に元に戻るには一ヶ月はかかるでしょう」


 ザーレの言葉を聞いたギラードの顔が苦痛に歪む。落とした右腕と『隕石落とし』の魔道具は取り返したが、右腕からは本来の力が消えうせていた。なんとか腕はくっついて日常生活に不安はないが戦いとなると話は別だ。勿論、今の状態でも並みの将軍よりは遥かに強いが『隕石落とし』の連発はできなくなったし、使えば激しい痛みも伴う。


 そんなギラードの表情を見て竜人皇が話しかける。


「無理をするでないギラード、出陣までもう何日か時間を置くとしよう。なに、戦場には余も出る。勇者どもがいくら準備しようが案ずることはない」


「竜人皇様の手を煩わせなくても我々が必ず仕留めて参ります!それに……勇者一行は逃げ足も速いです。万一逃げられでもしたら……」


心配するギラードを見て笑う竜人皇。


「ははは、その辺りは大丈夫だろう。どうやら勇者どもは古戦場跡の砦を修理しているようだ。あの地を死に場所と定めたようだな。ふふふ、良い趣味をしているではないか。それに奴らを逃がす事はない、そうであろう⁈ザーレ⁈」


「はっ、既に隣のズカ領へと続く街道と橋を封鎖するように宝玉通信でダイコーン将軍に通達しました。更にキガラ古戦場跡には斥候を向かわせて、万一勇者どもが逃げ出しても追えるように手を打ってあります」


「さすがはザーレだ、それとも最近失態続きだから、汚名返上に必死なのかな?」


「……返す言葉もございません」


 珍しく殊勝なザーレを見て、


「ははははは、久しぶりに謙虚な物言いをする貴公を見たぞ。良い良い、許す。なにせ50年ぶりの戦だ。そなたたちでだけでなく余も身体が鈍ってきているからな、じっくり身体を仕上げてから向かうとしよう」


 珍しい物を見た楽しさで少し機嫌が良くなる竜人皇。だがすぐに表情を引き締め、


「そう言うわけだ、少し休めギラード。心配いらぬ、戦場にはちゃんと連れて行く。各地の将軍たちも集めて万全の体勢で勇者どもを殲滅しようぞ。オリオンの残滓はここで全て消さねばならないからな」


「はっ。必ずや腕を治し、戦場では十二分に働いて参ります」


「ふふふ、50年ぶりの実戦だが、同時に100年ものオリオンの呪縛を解く戦いでもあるからな。慎重すぎでちょうど良いぐらいだろう。まあ今回の勇者はオリオンやシルビーに比べればゴミみたいな相手だが、きっちり掃除しないと竜人社会の屋台骨が揺らぎかねないからな、心してかかれ」


「はっ!」


「お任せを」


 ギラードとザーレはそう言いながら立ち上がり、恭しく礼をしてホールを後にした。竜人皇はその二人の後姿をずっと見ていたが、不意に立ち上がり、


「……今度こそ根絶やしにしてやるぞオリオンの尻尾ども」


 古戦場跡の方角を睨みながら呟いた。




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