127-選択
「な……何を言っているのさー!エルマさん!」
誰よりも早く声を発したのはどぶろくさんだった。イチたちも同じことを思っていたが、あまりの事に声が出なかった。だがエルマさんは優しい声でどぶろくさんに諭す。
「ありがとうね、どぶろく。でもね前から考えていたんだ。竜人たちがアタシの能力を喉から手が出るほど欲しがっているのは社長から説明されて知っているよね⁈ならアタシが自分で命を絶てば魔道具にもならないし、それだけであのクソ竜人たちに対する嫌がらせになるんじゃないかってね」
「ダメさダメさ!そんなのは絶対にダメさー!」
涙声で必死で止めるどぶろくさん。するとエルマさんはそっとどぶろくさんの顔を両手で掴むと、そっと自分の唇をどぶろくさんの唇に重ねた。声が出せなくなるどぶろくさん。エルマさんは優しく彼の目を見つめた後に優しく話し始めた。
「覚えているかな。アタシはさ、元の世界では酒ばかり飲みながらヒモ飼っていたんだ。おまけにそのヒモに殴られながらも『ラブぽよエンジェル教』なんてものの教義を能天気に広めていたという。まあ、生きたい様に生きているダメ人間だったんだよね。最期はそのヒモに川に突き落とされて死んじゃったんだけどさ」
そう言ってケタケタ笑った後、エルマさんは続けた。
「でもね、この世界に来たらさ、アタシのおかしな『ラブぽよエンジェル教』の話をみんな真剣に聞いてくれたのよ。勿論、呪いを解く力があったからだけどさ。でもおかげでアタシが死んでも『ラブぽよエンジェル教』は残りそうじゃない⁈アタシは元の世界では何も成しえなかったけど、もしこのまま死んでもこの世界ではアタシの生きた証は残せそうだから、まあ良いかなって」
エルマさんがそう言うと沈黙が辺りを包んだ。そうなのだ。エルマさんが攫われたり、魔道具にならなければそれだけで竜人たちには最大級の嫌がらせになるのだ。絶対にやりたくなかったから誰もがそれを言わなかったが。
そう考えていたら社長が言ってくれた、
「エルマさん、竜人たちは土地をおかしくさせる呪いの瘴気を撒き散らす事ができます。戦いに勝ってもこの土地を清浄化させるにはエルマさんの力が必要です。命を絶ってはいけません」
それを聞いたエルマさんは優しく微笑むと、
「ありがとう社長。やっぱり優しいね。でもね『解呪』の力を持つアタシだからわかるんだ。この力は特別な物じゃなくて、人間の中にある『誰かを幸せにしようとする心』を使えば誰にでも使えるって。勿論アタシみたいな大きな力は無いよ⁈でも『ラブぽよエンジェル教』の教義を持って代々伝えればだんだん強い『解呪』の力を持つ人は絶対に出て来ると思う。アタシがいなくなっても、たぶん100年位かければこの世界は浄化されるよ。アタシはこの世界の人たちを信じているから多分大丈夫」
そう言った。社長はそれを聞いて何も言わなかった。そしてカルラさんも何か気付いた事があるらしく、口を真一文字にして黙っている。そんな中、エリトが皆に言う。
「一応聞くぜ、代案があるなら早く言いな。聞くだけ聞いてやる」
沈黙が辺りを支配した。そしてその沈黙はエルマさんの案やむなしという空気であった。
「どうするんだ⁈イチ⁈」
エリトが『もうわかっているだろ、さっさと命じろ』と暗に言っている。たしかにもう結論は出たようなものだ。現に一番の大人である社長と長は何も言わない。
「イチくん……ダメさ……」
「イチ様……あの……あの……」
どぶろくさんとリコが涙声で何かを訴えている。
イチは何も言わない。ただ、小雪を見つめていた。
その小雪はイチをその赤い瞳でジッと見ていた。怒りも悲しみもない、凪一つない水面のように静かな瞳で。『どんな結果でも受け入れる』そんな意思を感じた。
皆、イチが心の中で苦悶していると思っていただろう。重い沈黙が辺りを支配していた。
だが、
「小雪もエルマさんも犠牲にするつもりはないよ、黒虹彩剣はこのままだ。今の戦力でいく」
驚くほど迷いのない瞳でイチは宣言した!




