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125-命の選択

「お待たせしましたー」


 少し席を外していたライミが戻ってきた。リコとフォレスタがこの世界の人間の上層部と話し合いをするための通信の下準備のためだ。よく見ると服の汚れとかを少し落としてきた感がある。リコとフォレスタもだ。戦時状態だから見てくれを気にする場合じゃないだろうとも思うけど、よく考えたら領主クラスのお偉いさんたちともお話するのだから当然かと考え直す。


「準備出来ました。始めましょう」


 リコがそう言うとフォレスタとカルラさんが目を見合わせる。それを見てライミが両手を合わせた。合掌の構えだ。そして今度はそのまま花のように手を開く。もしかしてこれがアンテナだろうか。

 そう思っていた時だった。


「待て待て、先にやる事があるだろ。黒虹彩剣の俺様が完全体になるのが先だ」


 エリトが割って入ってきた。こちらとしては会談を先に済ませたかったのだが、


「勝つために必要だから言っているんだ!つべこべ言わずにこちらから先に済ませろ!」


 エリトが頑として譲らないので、仕方なく予定を変更してライミに森の民の長と社長に通信してもらうように手配してもらう。エリトと組むとそれだけでストレスが溜まるな、と思ったけど黙っていた。


 そうしていたら通信テストを始めた。まずは仲間内通信だ。だがリコたちは通信に手こずっていたみたいなので自分流のやり方を伝授する。皆、最初は苦労していたがしばらくして、


「あ、できました!頭の中に声が響きます、イチ様これ凄いです!ライミさんの能力凄い!」


「うわー!遠くにある物が目の前にあるように見える!ボクこんなの初めてだよ!」


 初の通信に成功して湧くリコとフォレスタ。そして、


「これがライミの能力か……わかっていたつもりだったが本当にチートじゃないか。中世に一人スマホ持ちがいるようなものだ、クソっ」


 剣エリトが舌打ちする音が聞こえる。剣に舌があるのかとか、剣が通信に参加できるのかとか思ったけど、喋り方の方が気になった。言葉の端々から野心を感じる。


「テストは成功ですねー。じゃあ皆、改めて社長たちに繋ぎますー。目を閉じて感覚を研ぎ澄ませてくださいねー。良いですかー、始めますー」


 そう言いながら、ライミは重ねた両手を上に突き出して手を花の形にした。


ひゅーんひゅーんひゅーん…ピポッ


 久しぶりに脳内に極小の回路ができた音と感覚がした。新しい受信者が増えたからだろうか、繋がるまでが少し長い。目を閉じてしばらく待っていたら懐かしい声が脳内に響いた。


「こ……この感覚は⁈な……なんだこれは⁈」


「その声!父さん!フォレスタです!」


「なんと、これはフォレスタの声か!いや、姿も見える!これは驚いた!これが勇者の祝福か!」


 新しい技にワクワクしている技術者みたいな嬉しそうな長の声が聞こえる。それを聞いてフォレスタも思わずはしゃぐ。その後に、


「ほー?これは凄い。映像付きとは……この能力は私たちの世界にもない凄いものだ。世界が変わりますね」


 何処か飄々としている、優しくて頼りになる社長の声が響く。


「社長!お久しぶりです、俺です!イチです!」


「おお!イチくんか!無事だったか!良かった」


「そちらはどうです⁈」


「小雪くんが集落を守ってくれているから平和だよ。ベラーもなんだか大人しいみたいだ。ただ他の領に向かう街道はダメみたいだね。食うには困っていないが小康状態だな。ところで我々に連絡してきたと言う事は現状報告だけじゃないね。何か困った事があったのかな⁈」


「さすがです!実は社長に相談したい事がありまして……」


 社長の心使いに飛び上がりそうなくらい喜びながら、イチは今までに起こった事をかいつまんで話した。長と社長は驚きながら聞いていたが……渋い顔をした。


「なるほどね、黒虹彩剣を完全体にするために、私に黒虹彩剣の欠片を増やして欲しいと言う訳か。イチくんたちの頼みならなんとかしてあげたいが……とてもそちらまで行けそうもない」


「ですよねえ……」


 ため息をつく社長とイチ。すると今度は長が怒気強めに割り込んできた。


「それだけじゃない、今は肉体を失って剣になっているらしいが、俺はエリトという男を強化する事には反対だ。そいつがこの集落に何をしたか忘れる訳がないだろう!フォレスタ!お前がいながら何故そいつをへし折ってしまわないんだ!」


「あ~……父さん……いや、長、色々あってね……」


 苦笑いしながらお茶を濁すフォレスタ。本音を言えばフォレスタは長と同じ気持ちだろう。今こそ休戦しているが隙あらばエリトの息の根を止めてやりたい、と目で語っている。イチ自身も複雑な気持ちだし油断もしていない。


 そんな中、空気を読まずにエリトが口を挟んできた。


「ふん、やはり無理か。ならもう一つの手だな。おい、俺様の声は聞こえているはずだ。黒百合の残りの欠片、そこにいるんだろう。出てこい」


 エリトがそう言うと、


 ひゅーんひゅーんひゅーん…ピポッ


 誰かが通信に入ってきた音がして、


「……呼んだでありんすかー」


 銀髪で柘榴石のような瞳、白蛇童女の小雪が現れた!


「小雪ちゃん!」


久しぶりに声を聞けたリコが嬉しそうに小雪に話しかける。小雪は一瞬、にぱーと笑ったが、すぐに昏い顔をした。


「お前は姐さんじゃないでありんすね、なんの用でありんす?」


 小雪の声を聞いて、ふん、と鼻を鳴らすエリト。


「お前が黒虹彩剣の最後の欠片か。要件はわかっているはずだ。命令だ、俺の中に吸収されろ。お前が同意すれば距離がどんなに離れていても俺様は完全体になれるのは知っている」


「……姐さんに聞いているはずでありんすよー。あちしは浄化されているから、呪いの剣であるそちらとは合わないでありんすー」


「また呪われれば良いだろう⁈できるはずだ」


「…………………………」


 口をきゅっと閉じ、無言になる小雪。気まずい沈黙が場を支配する。嫌な予感がしたイチが口を挟む。


「おい、エリト。それはどういう……」


「黙ってろイチ。おい小雪、今すぐ刃物になれ。そして……たしかその集落には呪いを解く能力持ちの女がいたよな?たしか……エルマだったか」


 急に小雪が目を閉じて俯いた。なんだ⁈エルマさん⁈エリトはエルマさんに何をさせる気なんだ⁈凄く嫌な予感がする!


「おい、エリト!何をさせる気だ!」


 思わず怒気をこめてイチが叫ぶが、


「小雪、命令だ。刃物になって勇者エルマの首を搔っ切れ」


 エリトは冷たく言い放った。



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