124-選択
「エリト……なのか⁈生き返っている……というわけではなさそうだな」
イチがおそるおそる尋ねると、剣となったエリトがふてぶてしく返してきた。
「ああ、忌々しいが完全に肉体は滅んじまった。意思のある剣として生まれ変わった感じだな」
そう言いながらフワフワ浮かんでいる黒虹彩剣。それを聞いて複雑な顔をする一同。まさかこんな形で再会する事になろうとは……。少しホッとした気はするが今までの所業を考えると喜んで良いかはわからない。何度も命のやり取りをした相手だ。
そんな感じで戸惑っていたらエリトが話し出した。
「ボサッとしてるんじゃねえよ、やる事があるだろうが、イチ」
「え⁈」
それを聞いてため息をつくエリト剣。いや、剣が息をするかはわからないが。
「え、じゃねえよ、本当にトロいなお前。俺は完全体じゃねえんだ、このままじゃ竜人皇に勝てないぞ!」
「あ、そうか!オブアイリスは完全体じゃないんだ。って、エリト、一緒に戦ってくれるのか⁈」
イチがそう言うと、少し沈黙が流れた。だがエリトは意を決したらしい。そのまま地面に刺さった。まるで胡坐をかいて座り込むかのように。
「……それは、お前次第だな。それとその名前で呼ぶな」
「え⁈」
「黒虹彩剣『オブアイリス』はオリオンの剣の名前だ。俺様は自分の黒虹彩剣に『黒百合』と名付けた。武器は名前を付ける事で力が増すんだ」
「そうなのか……じゃあ、改めて名前を付けるか……って、お前が宿っているなら名前は黒虹彩剣『エリト』になるんじゃないか⁈」
そう言うと
「お前にそう呼ばれるとお前に使われているみたいでムカつくんだよ!もういい、自分の名前は自分で付ける」
黒虹彩剣となったエリトはまた地面から抜けてふわふわ浮き、何かブツブツ言いながら考え事をしている。魔道具化した勇者とは違う。自分の意思で動いている。なんか不思議な光景だ。元の世界にも付喪神というものがあったけどあれに近いのだろうか⁈
「(付喪神って長い年月を経た道具や自然などに宿る妖怪か精霊なんだっけ。物に付喪神が宿るまでの年月はおよそ100年と聞いたから、まあ違うんだろうな。この世界の理的に魔道具の中の魂みたいなもんか。それにしても……」
付喪神は荒ぶり人を襲うものもいれば、反対に人に幸をもたらすものもいるというが、コイツはどちらかというと……そんな事を考えていたらカルラさんが横に来てぼそりと呟いた。
「びっくりした……黒虹彩剣が喋るなんて思いもしなかったわ」
「カルラさんたちでもオリオンさんについて知らない事があるんですね」
イチがそう言うと、チルルが飛んできて口を挟んできた。
「俺たちだって何でも知っている訳じゃない。だが言われて見れば先生はよく一人で何かブツブツ喋っていたな。時々『有能なんだが扱いにくい娘がいる』ってぼやいてた事があったけど、アレはオブアイリスだったのかもな。それで思い出した、姉ちゃんが『オリオン兄さんに女がいるかも⁈どこのどいつよー⁈』って血相変えて探していたっけな、ハハハ!」
「そんな話はどうでも良いでしょ!」
カルラがそう言いながら杖でチルルを追いかけ回す。皆、それを見て思わずクスッと笑う一同。少し空気が緩んだ。
そんな中、エリトが不意に呟く。
「決めたぞ。俺様の名前は」
「おう、なんて呼べばよい⁈」
「竜人皇は竜人の皇帝だ。皇帝はカイザーだったよな⁈俺はそいつを討つ剣だ。ならば」
エリトが一呼吸置く。
「黒虹彩剣『ドラゴンカイザーヤークトキラー・デスグレート・エリト』ってのはどうだ⁈」
「(ダセエエエエエエエエエエエエエエ⁈)」
心の中で絶叫するイチ。いや、名前くらい好きに名乗らせてやりたいが、その名前はないだろう⁈ヤークトはたしかドイツ語で『狩り』、んでキラーは英語なら『殺し屋』だったかな⁈この時点で変だが、後半の『デスグレート』はなんだ⁈脳みそが小学5年生か⁈そして同時に思った。エリトはなんでもハイレベルにこなす奴だったが、もしかしてネーミングセンスは壊滅的だったのか⁈『黒百合』は普通だったのに⁈
「す……少し名前が長いんじゃないかな……⁈」
精一杯気を使い、苦笑いしながらそう答えるイチ。
「なんだ⁈文句があるのか⁈イチのクセに⁈」
「いや……その……」
どうすれば良いんだ……と苦悩しながら口をもごもごさせるイチ。困っているとリコが口を挟んできた。
「あ……あの、私は長いと覚えにくいので……前半の、ドラ ゴンカイザー、ヤ ークト、キ ラーの頭を取って黒虹彩剣『ドラヤキ』とかでどうでしょう⁈」
それを聞いて大爆笑するイチと怒り出すエリト。自分が何か地雷でも踏んだのかとあわあわするリコ。
「アッハッハッハ!どら焼きかあ、俺は文句ないよ!よろしくな黒虹彩剣『どら焼き』!」
「ふざけんな!真面目に決めろ!」
そう言ってイチの頭を柄で殴るエリト。
「痛え!何をしやがる!」
「なんだ⁈やるのか、イチ!」
そのまま大喧嘩に発展する。一人と一剣。カルラさんとチルルが仲裁に入ってやっと収まった。それで結局名前は協議の末、黒虹彩剣『エリト』で決まった。
黒虹彩剣エリトはまだ腹を立てていて距離を置いて部屋の隅っこでフワフワ浮いている。イチも不貞腐れながら部屋の対角線上の隅っこに座り自分に回復魔法をかけていた。
「(少しは更生したかと思ったら、性格変わらないなエリトめ!それにしても呪いこそかけられなかったものの、刃物と喧嘩したらこうなるよな。いてて、エリトの奴覚えてろよ⁈)」
腕の傷が少しずつ塞がってゆく。回復魔法も多少は上達したみたいだ。そう思っていたらリコがいつの間にか隣に座り、追加で回復魔法をかけ始めてくれた。そしてイチに微笑みながら囁いた。
「エリトさんには正直、思う事は沢山あるのですが……少しだけホッとしました」
甘すぎる。そう思いながら、自分にも少しだけ同じ気持ちがあった事に気付き苦笑いするイチ。
「……優しいなリコは。たぶんリコが優しいからエリトも少しだけ心を入れ替えたんじゃないかな。俺にはできない。凄いよ」
エリトに聞こえないようにそっとリコに耳打ちする。だがその後すぐに、黒虹彩剣エリトを横目に見て、
「(だがエリトはいつ牙剥くかわからないから油断はできないけどな)」
険しい顔をしながら心の中で呟いた。




