123-傲慢者
「これが……黒虹彩剣オブアイリス!」
思わず手に取ろうとして、慌てて手を引っ込めるイチ。シリウスさんを呪い殺した黒虹彩剣の本家本元だ。迂闊に触ったらどうなるか想像もつかない。
すると、カルラさんが掌や指先に鉄板のようなものがついている手袋を取り出し、彼女の両手に嵌めて、オブアイリスを慎重に触り、調べ始めた。最初は笑顔だったが、
「完全体にはなれなかったみたいね。あの黒百合って蛇、エリトを材料にして完全体オブアイリスになろうとしたらしいけど、まだ仕込みが足りなかったみたいね。オブアイリスの先端が欠けているわ、材料不足よ」
そう言いながら渋い顔になるカルラさん。それを聞いてイチが尋ねる。
「そう言えばカルラさんの館で回収していた黒虹彩剣のかけらありましたよね⁈あれから少しは培養できました⁈」
「いくらアタシでもこの短時間で培養できるわけないでしょ!前も言った通り、社長だっけ⁈短期間でやるならその人の能力で増やしてもらわなきゃいけないんだけど……」
「今から森の民の集落に行くのは無理だ……」
カルラさんの言葉にイチがため息をつく。すると、
「ボクは大人の知恵を借りるのが良いと思うな。社長に連絡してみようよ⁈ねえライミ、森の民の誰かに連絡できる⁈」
フォレスタがそう言うと。
「森の民なら長と社長なら連絡取れると思います。前、集落行った時にアンテナ立てておきましたからー」
「アンテナ⁈」
「イチさんならわかると思いますけど、森の民の集落で頭の中に何かできた感じしたでしょ⁈あれを社長と長に飛ばしておいたんで、向こうがOK出してくれたら簡単にTV電話できるんですー」
「TVって……何⁈」
ライミとの会話によくわからない単語が出てきて混乱するフォレスタ。
「ライミ、この世界にはTVがないからわからないよ。つまりねフォレスタ、ライミの能力は通信だけじゃなくて、遠くにいてもまるで目の前にいるみたいに姿や風景を観たままお話できるんだ」
「え、会話できるのはさっき聞いたけど姿もわかるの⁈それって、凄くない⁈」
イチの解説でフォレスタがようやくライミの凄さをちゃんと理解したらしい。目を大きく見開いて驚いている。ライミは少し得意気だ。そして続けるイチ。
「ライミが執拗に狙われる理由だよ。ただ、今、通信をやるとね……」
「そうですね、あーしの居場所は完全に竜人皇にバレます。この場所に竜人たちが押し寄せて来るでしょうね。それでもやりますか⁈」
沈黙する皆。だがイチは少し考えた後、
「やろう。遅かれ早かれバレる。どうせバレるなら、ついでに世界各国の領主や反竜人の実力者に連絡をとってみよう。俺達はこれから竜人皇相手に最後の戦いをします。手助けして下さいって」
皆がざわついた。イチは皆の顔を見渡しながら続ける。
「以前ゲス郎に教えてもらったけど、竜人に抵抗すると後々に凄まじい報復を受けるし、竜人の支配は100年続いていて、もう体制は盤石過ぎて、抵抗する事も出来ないって言ってたよね。正直もう戦うなんて嫌だ、支配を受け入れれば生かしてもらえるし、多少の不便はあるけどある程度の自由もある。この世界の人達は現状維持なら今のままで良いやって思っていると思うんだ」
「でもそもそも人間は竜人達の100倍はいるんでしょ⁈それに竜人たちが呪いを解いたら、次はもっと苛烈な事が起こるよ。カルラさんも言っていたけど、今回が最後の戦いだって。それをみんなに伝えてみよう」
「リコがさっきエリトに言っていたよね。『元々私たちの世界の問題は私たちがなんとかしないといけないんです』って。俺達はこの世界を救うために召喚された。でも俺達だけじゃ勝てない。100年も支配してくる相手と戦うんだ、この世界の人間にも立ち上がってもらうのが筋だよ」
イチは皆に一気にそう伝えた。すると、
「ライミさん通信をお願いします。私はこんな年齢ですから発言力はないかも知れないですけど。それでもワーミ領の元領主……いえ!領主です。他の領主たちと話ができる立場です。話してみます!」
「ボクも森の民の次期長だよ、話してみる!」
「ならアタシが若い子たちのサポートをするわ。アタシの評判は最悪だから説得力は低いかも知れないけど、竜人の側にいて知っていた事を『誇張なく正直に』話すわ。たぶんそれが一番効くと思う」
リコ、フォレスタ、カルラさんが次々と声を上げる。いいぞ!皆が自信を取り戻してきた!
「(結局、今まで竜人にもっとも奪われていたのは人権とか経済とかじゃなくて、勇気と自信だったのかもな)」
そう思っていたら、通信で話し合うための準備をしようと駆けだしたカルラさんとぶつかった。その時、カルラさんが持っていたオブアイリスに肘が当たる。
「うわ!ヤバい!黒虹彩剣に触っちゃった!」
慌てて腕を引っ込めた……が、その時気づいた。
「(あれ⁈全身が総毛立つ、あの恐ろしい感覚が無い⁈)」
シリウスさんに初めて黒虹彩剣を見せてもらった時、触ろうとしたら、毛穴が開いて汗が噴き出し、全身の細胞が信じられないくらいの拒否反応を示した。それがない⁈
まさか……⁈
「カルラさん!オブアイリス借ります!」
「え⁈ちょっと⁈危ないわよ⁈」
カルラさんが止めるのも聞かずにオブアイリスの柄を握った。
拒否反応がない!
いや、少し手が痺れる感じはするけど……扱えないほどじゃない!
そう思った瞬間だった。
「汚え手で触るなよイチ」
剣から声がして電流のようなものが柄に流れ、思わずオブアイリスを取り落とすイチ。するとオブアイリスは地面に落ちずに、空中で停まり……ふわふわ浮き始めた!
「お……お前……まさか……」
「ようやく気付いたか、バカイチが。そうだよ、エリト様だ。まったく、才能が有るってやつは罪なもんだな。黒虹彩剣の中にいた呪いや怨霊、ついでに反抗してきたアンとチョビも含めて全員制圧してやったぜ。今や、俺様がこの剣の主人だ、ハハハ!」
黒虹彩剣から傲慢さに溢れたエリトの声が響いた!




