122-罪と罰
「ああアアアアアアアア⁈熱い!身体が燃えちまう!何故だアアアア黒百合⁈」
「エリト⁈どこから火が⁈」
漆黒の炎に包まれて全身が発火するエリト。イチが慌てて火を消そうとした瞬間、炎の中から妖しい無数の赤い光が瞬き、身体が痺れて動かなくなった。イチだけじゃない。魔道具で水を出して火を消そうとしたリコも、他のみんなも固まっている。
エリトは全身が燃えながら身体は黒い縄の様なものでぐるぐる巻きにされていた。そして気づいた。エリトの右手から7首の蛇が生えており、エリトの全身をぎゅうぎゅう締め付けている事を。赤い光はその蛇の瞳だった。
そしてその蛇の一匹がイチの方を向く。目が合った。その蛇は動けないイチを嘗め回すように見ると……大口を開けて嗤い、エリトに強く巻き付いた。
「ああ、愛しい愛しいお前様。それはだめでありんすよ⁈お前様は決して浄化されてはいけないのでありんす。悪の道に堕ちて、外道に溺れ、呪いを空気のように纏う人外にならないといけないのでありんす」
ギリギリギリギリギリギリ
黒百合は一層強くエリトを締め付けた。その姿は獲物を仕留める大蛇の様だったが……恋人に頬ずりする乙女のようにも見えた。
「そして最期にはみじめに死んで、あちきに飲み込まれてしまわないといけないのでありんす。ねえ、お前様⁈そうすればあちきの中で永遠に添い遂げられるのでありんすよ⁈それはそれはとても幸せな事でありんすよ」
「あ……ああああああああ!そんな⁈」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ
黒百合はさらにエリトを強く締め付ける。誰も動かない。金縛りもあるが、目の前で繰り広げられる黒百合の恐ろしいまで偏愛を見て怖くて動けないのだ。
エリトの頭の位置がどんどん下がってきた。足下から溶けているからだ。そしてエリトが溶けた液体の中から二人の竜人らしき上半身が生えてきた。どこかで見た事があるような顔だ。
「(思い出した!アンとチョビだ!)」
心の中で叫ぶイチ。そしてその竜人二人はエリトに向かって邪悪な笑みを浮かべ、
「へへへへへ、一抜けしようなんて水臭い事言わないでくださいよ、エリトさま!俺達と地獄で楽しく遊びましょうや♪」
「エリト様ァ、アンタとはお話したい事が山のようにあるんでさ!一緒に呪いの嵐の中で語り合いましょうぜ!永遠に♪ケケケケケケ!」
そう言いながらエリトに抱きつき、足元の液体に引きずり込もうとするアンとチョビ。エリトの頭の位置がどんどん下がってゆく。そして遂に、下半身は完全に溶けてしまった。
「ああアアアアアアアア⁈いやだ!死にたくない!俺は……まだ何もできていない……まだ何も!た……助けて!母さーん!」
その断末魔の声を聞いて目を細める黒百合。そして鎌首を上げて大きな口を開いた時……
ビシっ!
エリトの眉間に弾丸のようなつぶてが命中し……貫通した!
「……あ……あああ……」
エリトは消え入りそうな声を出して……絶命した。
パクリ
その直後、エリトは丸呑みにされ、ドロドロの液体が残ったかと思うと、そのまま気化した。
そしてエリトたちが消えた場所はゆっくりと発光して……晴れた日の水面のようにキラキラと輝きだし、ツヤツヤ輝く黒石でできた指輪が生まれた。魔道具だ!
その瞬間、イチたちの金縛りが解けた。振り返るとモモさんが立っている。その指には戦いに備えてモモさんのためにカセーツさんの魔道具で作っていた鉄豆がいくつか握られていた。
「モモさん……介錯してあげたんだね、ぜめて最期くらい苦しまないように」
モモさんは静かに頷き……少し俯いていた。なんとなく黙とうしているのだなとわかった。
そんな中、カルラさんがエリトの魔道具を拾い……鑑定し始めた。
「これは『透明化』の魔道具ね。でもエリトの魂は感じないわ。中身は空っぽよ」
そう言ってイチにエリトの魔道具を渡す。小指に嵌めるイチ……何の反応もない。エリトは完全に消えてしまったようだ。
「ロクな死に方しないだろうなとは思っていたが……本当に惨めな最期だったな……バカだよお前……お前は他の人が羨む物は殆ど持っていたのだから真っ当な生き方すれば幸せになれただろうに」
イチが指輪を見ながらそう呟いた時に、
ゴトッ
何かが落ちた音がした。音のした方を見ると漆黒の剣が落ちていた。ああ、エリトの持っていた黒虹彩剣の小刀か。持ち主が亡くなったから出てきたわけか。
そう思っていたら、
小刀の刀身はぐんぐんと伸び出し、全体の形も変わっていった。そして最後には先端の欠けた、鋸のような刃を持つ長刀になった!
「え⁈え⁈」
イチが戸惑っていると、カルラさんが息を飲みながら、
「先生の剣が……オブアイリスが復活した⁈」
消え入りそうな声で呟いた!




