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121-消えない過去

岩に座ってエリトは昔の事を考えていた。子供の頃の話。


常似襟人ことエリトが幼いころに父と母は離婚した。最初は悲しかった。だが『社会の上層たる常似家の人間は強くあらねばならない』と父に厳しく命じられ、泣くことは許されなかった。

幸い、エリトは能力は高かったので、どこにいてもすぐに自分のいるステージの中でトップになり、自然と人を使うようになり、家の力も強いのですぐにワガママが通る環境になり、エリトは出来る奴だが傲慢になっていった。


そして、気が付いたら周りは自分を恐れ、距離を置き始めていた。


父に『お前は強いから孤独なのだ、それは上に立つ者として素晴らしい事だ。能力が高ければ役に立つ人間は自然と集まるから気にしなくて良い』と言われた。そしてお前の母親は弱いからいなくなったのだとも告げられた。そうなんだろうなと幼心に思った。


小3のある時、塾の帰り道に、ふと思いたっていつもと違う道を通って帰ろうとしたら、ガラの悪い上級生に絡まれた。お前は生意気だ、前々から気に食わなかったと言われて袋叩きにされた。『俺様に手を出したらお前らどうなるかわかってるのか⁈』と脅しても『知らねえよバカ』と言われてボコボコにされた。その時、この世には話し合いの通じない奴がいると知った。


そのままボコられて意識を失いかけた時に、一人の女が飛び出してきて大声を出しながらカバンを振り回して上級生を追い払ってくれた。すぐに『あとで礼をするから家に来て欲しい。父は金持ちだ、謝礼ははずむ』と言ったら……抱きしめられた。そして、こう言われた。



「そんな言い方をしてはダメ!周りをみんな敵に回してしまうわ!貴方を心から愛してくれる人は必ず現れるから!私もずっと貴方を見守っているから!だから……だから……」



その女はそう言ってわんわん泣いた。エリトはその時初めて気づいた。母だった。愚かにも母親の顔を忘れかけていた。弱いからいなくなったと思っていた母はずっと自分を見守っていた。それに気づいた時……自分の押さえつけていた色々なものが溢れ、エリトはわんわん泣いた。


その後、母と少しだけ話をした。楽しい事、辛かった事、今まで誰にも言えなかった事がどんどん溢れてきて止まらなかったのを覚えている。しばらくしたら家の者が探しに来て、母親は追い払われた。そして父親に過去最高に怒鳴られて、エリトに絡んできた上級生は転校していった。


この体験がエリトを少しだけ生きるのを上手にした。強さを見せつけるのではなく、上手く集団の中で立ち回り、暴力を受ける事はなくなった。しばらく普通の優等生になっていたが……持ち前のエリート意識がまたエリトを傲慢にしていき、母親の事も気にかけなくなった。だがあの時一瞬受けた愛情はエリトの中に駆け引きを超えた何かを残した。


エリトは回復魔法をかけてもらった頭をさすった。暴徒にボコボコにされた身体の各部も見た。全部綺麗に治っていた。


「(さっきのリコとか言う女の回復魔法……沁みたな)」


リンチに遭って殺されかけて、人を争わせていたら裏切られ、何もかも失いかけていた時に向けられた優しさ。


「(馬鹿馬鹿しい。絵に描いたような分かりやすい飴と鞭じゃないか。こんなのに俺様がほだされてたまるものか)」


同時に、忘れかけていた母の愛を思い出してエリトは考えていた。生きるために人を上手く利用するのは当然だ。騙される奴、弱い奴が悪い。強ければなんでも許される。


「(でもあんなに弱そうなリコという女の言葉がこんなに俺を揺らがせる。もしかして今までの考え方は間違っている部分もあるのかもしれない)」


エリトは目を閉じ、深く考えて


「試してみるか」


そう言うと、さっきの部屋に戻り、イチに話しかけた。


「おい、イチ」


「なんだ?」


「一緒に戦ってやっても良いぜ」


「本当か⁈」


「お前の為じゃない。俺様の為だ。そこのリコとか言う女に感謝しろよ」


「リコの……⁈」


イチはそう言ってリコの顔を見た。リコは微笑みながら頷いている。改めてエリトの顔を見た。エリトの顔から先ほどの険しさが完全に消えていた。また嘘をついているんじゃないかと思った……が、明らかに今までと違う。何か憑き物が落ちたような感じがした。


「……わかった、信じる。よろしくな、エリト」


イチがそう言った瞬間だった。









「……約束を破ったでありんすね」









そんな声が部屋に響いたかと思うと、


「ぎゃあああああああああああああああああ⁈」


エリトの身体が漆黒の炎に包まれた!







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