120-揺れる心
エリトは語り始めた。
「まずそもそも竜人皇は守りの力が桁違いだ。俺は竜人皇に雷の大砲を撃ったが、放つ寸前に一瞬でかき消された。撃つ事すらできなかったんだ」
それを聞いて慌てるイチ。
「ちょ……ちょっと待てくれ⁈バリヤーみたいなものがあって弾かれる訳じゃなくて、お前の雷の大砲が撃てないのか⁈まさか一昔前のゲームのボスみたい遠距離からの攻撃は無効化されるとかじゃないだろうな⁈」
「それはないわ、100年前の戦いではオリオン戦士団の攻撃は竜人皇に通ったわよ。微々たるものだっただけど。純粋に火力が足りないと弾かれるんだと思うわ。そしてその守備範囲が広いんだと思う」
イチの発言を聞いて考察するカルラ。それを聞いてエリトは続ける。
「ああ、黒虹彩剣の攻撃は通った。竜人皇の上半身を吹き飛ばしたからな。だがすぐに再生されやがった。奴を滅ぼすには……忌々しいがイチ、お前のオリオン斬りしかない。だがオリオン斬りは中々出ないのだろう⁈黒虹彩剣は必要だ。それも完全体になった黒虹彩剣オブアイリスが」
「黒虹彩剣オブアイリスはもう失われているけど……私たちに再生しろって事⁈」
「ああ、竜人皇はハッキリと言った『オブアイリスだったら余もただでは済まなかっただろう』ってな。100年経っても竜人皇はオリオンとあの剣を恐れている証拠だ。それと、これだ。まず俺様の腕の拘束を取れ」
「ダメよ、まだ貴方は信用できない」
エリトの発言を聞いてフォレスタが冷たい目をしながら風切りのナイフを構える。それを見て舌打ちするエリト。
「話がわからない女だな。まあ良い。おい、俺様の小物入れの中を調べてみろ」
フォレスタが調べようとしたのを手で制して、イチがエリトの腰の小物入れを調べた。中身は……水飴に救急キット、他には特に大したものはなさそうだ。
……そう思っていたら小さな小瓶を見つけた。どこかで見た事がある、液体の入った小瓶だ。よく見ると中身は光っている。ハッとなるイチ。
「おい……これ……まさか⁈」
「強者の魂の入った小瓶だ。ザーレのどてっ腹殴った時に奪った。これが欲しかったんだろう⁈くれてやるよ」
ワッと歓声があがる。そして思わず、
「エリト……ありがとう」
エリトに礼を言ってしまう。それを聞いて、
「ふん、これで貸し借りなしだ」
ふてぶてしく返してくるエリト。
いや、お前への貸しはまだ唸るほどあるよ⁈エリトの野郎、俺達にどれだけ迷惑かけたと思っているんだ⁈と思ったけど黙っていた。
そして小瓶をカルラさんに渡す。カルラさんは震える手で小瓶を受け取り、そっと頬ずりした。
「……みんな……やっと……帰ってこれたね」
思わず座り込んで涙ぐむカルラさん。リコやフォレスタももらい泣きしてる。無理もない。戦力としてありがたいのもあるけど、カルラさんの最初の旦那さんや大切な戦友の魂だ。感無量だろう。
エリトの方を見る。不貞腐れてるが……少し心が動いているようにも見えた。彼の中で何かが変わった気がする。
イチは少し考えた後に、エリトの後ろに回り腕の拘束を解いた。そして思い切って声をかけてみた。
「なあ、エリト……一緒に戦うか⁈」
不貞腐れて明後日の方向を向いていたエリトは、目だけ動かしてイチを見ると、
「俺様の主導で戦えるか⁈勿論黒虹彩剣は俺が持つ事が絶対条件だが⁈」
「さすがにそれは受け入れられない」
「なら絶対にごめんだ、じゃあな!」
そう言うとエリトは立ち上がり部屋の外に向かって歩き出した。そして右手を刃物に変えイチに見せつける。
「こんな拘束いくらでも解けたんだよ。ばーか」
そう捨て台詞を言ってエリトは部屋を勝手に出た。周りを見てここが砦の中だったと気づく。周りの風景を見て当初向かう予定だったズカ領への道中にあった古戦場跡なんだとわかった。
「(俺がチョビにやられたのはもっとドラゴニア寄りだったはず……偵察かなんかで俺様を見つけて、わざわざこの砦まで運んだのか……ご苦労なこった」
エリトはもう一度ゆっくりと周りを見渡してみた。沢山のずんぐりした土人形が砦を修復している。いざと言う時には戦闘要員になるのだろう。竜人兵と戦うには心もとないが、さっき強者の魂を手に入れた。強化された土人形兵がどのくらいの数と強さかわからないが、少なくとも簡単にやられる事はなさそうだ。
ふと振り返ると小さな土人形がエリトにぴったりついてきていた。たしかイチたちがモモさんと呼んでいた奴だ。小さいが隙が無い。こいつもかつては強かったのだろう。そして森の民の集落で戦った相撲取りみたいな土人形を思い出していた。もし強者の土人形があいつくらい強かったら……
「(この砦と強い土人形があれば戦力の差は多少は埋まるな。その間に俺様とイチで竜人皇を急襲すれば……)」
そう思いながら、近くにあった岩に座った。勝ち筋がない訳ではなさそうだ。
「(さて、どうするか……)」
エリトは頭の中で計算しながら元の世界での過去の事を思い返し始めた。




