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117-呪いの復活

「(はあ、はあ、早く遠くへ逃げなくては……)」


姿を消しながら『宝竜閣』の廊下を駆けるエリト。ホールの方に駆けて行く竜人兵とぶつからないように注意しながら進む。先程の爆発で『宝竜閣』内部は大騒ぎになっている。竜人や人間たちが慌ただしく全館の封鎖が始めたが、間一髪外に出る事ができた。


すぐに物陰に隠れ、座り込みながら透明化を解いて一息入れる。


「(透明化をしながらの長時間の激しい運動はキツイからな……少し休みを入れないと。今のうちに幌付きのスーホ車でも奪ってドラゴニアから出なくては)」


そんな事を考えつつ息を整え終えると、腕をまたクロスさせて姿を消した。そして物陰から出ようとした瞬間、


ヒュッ!バシッ!


エリトの顔の目と鼻の先に矢が刺さった!


「なっ⁈」


矢が飛んできた方を向くエリト。すると、いつの間にか沢山の武装した民衆に囲まれていた!


「ザーレ様の言っていた通りだ!やはり出て来たぞ!賞金首の元勇者エリトだ!殺せー!」


「バカな⁈なんで俺の姿が見えるんだ⁈」


ハッとなって慌てて自分の右手を確認するエリト。すると、右手が取れかけている事に気付く。黒百合は手の形を保てなくなっており、ゲル状になりかけながら荒い息を吐いている。


「おい!黒百合⁈どうした⁈こんな時に!」


右手をバシバシ叩いて黒百合を起こそうとするエリト。その隙をつかれた。


ボカッ


「グワーッ!」


後頭部に激しい痛みが走り思わず倒れこむエリト。そのまま民衆にタコ殴りにされる。


ボカボカボカボカボカボカボカボカボカボカボカ


「ぎゃあああああああああああああああああ⁈」


暴徒たちにこん棒で全身を殴られまくって意識を失いかけるエリト。


「今だ!一気にやっちまえ!」


「前から竜人に尻尾振って気に食わなかったんだ!この裏切り者勇者!」


「勇者の癖にずっと良い思いしやがって!最期くらい俺達に賞金で良い思いをさせろよな!」


ボカボカボカボカボカボカボカボカボカボカボカ


意識を失いかけながら、走馬灯のように元の世界の事を思い出すエリト。

カースト頂点で校内外の女たちを好きに出来て、男たちはみんな自分の意のままに動く奴隷。優秀な奴は手駒として良い思いもさせていた栄光の日々。


それをただ『幼馴染を泣かせた』と言う『たったそれだけの理由』で歯向かってきて俺様の築いた王国を粉砕したイチ。


それだけじゃない。敗北したことで今までの自分の所業で美味しい思いをしていたはずの連中までが、




「悪いなお前とはつきあえねえ」


「本当はお前の事嫌いだったんだ、もうお前と関わるのは嫌だ」


「ごめんなさい、さようなら」




そう言って離れて行った。


「(俺が裁かれるならカースト上位のお前らも同罪だろ!立場が弱くなった途端に掌返しやがって!こうなったのも全部イチのせいだ!いや、裏切った奴らも同罪だ!こんなやつら全員……)」


「……ゴミ共があ!俺様に触るなあ!」


怒りのあまりアドレナリンが全身を駆け巡る!意識が覚醒する!エリトはゲル状になった右手で頭を庇いながら左手を暴徒の一人に向けて突き出すと全力で雷の大砲を撃った!


ドオオオオオオオオン!


「ぎゃあああああああああああああああああ!」


電撃がエリトの頭を狙った暴徒の全身を撃ち抜くと、そのまま貫通して数名を瞬時に黒焦げにした!

ざわめく暴徒たち。


「こ……こいつ!勇者の癖に、守るべき人間に向かって撃ちやがった!」


慌てて引き始める暴徒。それを見て、


ドオオオオオオオオン!ドオオオオオオオオン!ドオオオオオオオオン!


明確に『殺すつもりで』民衆に雷の大砲を撃ち続けるエリト。次々と黒焦げになる暴徒たち。


「うわ!こいつイカれてる!逃げろー!」


暴徒たちは恐れをなして逃げていった。暴徒の中に転んで逃げ遅れた人間がいた。見た事がある顔だ……と思ったら、竜人の敵になりそうな奴に毒入りを差し出してきたカルコス屋の親父だ。カルコス屋の親父は必死で命乞いをしてきた。


「ヒイイイイイイイ!す……すみません!もうこんな真似をしないから許して下さい!」


「俺様は裏切り者は信用しないんだよお!」


ドオオオオオオオオン!


瞬時に黒焦げになるカルコス屋の親父。自分の事を棚に上げているが勿論エリトは気付いていない。


「はあはあ……どいつもこいつも……舐めやがって」


肩で息をしながら右手を撫でるエリト。すると気付いた。


「(右手が……輝いている⁈)」


驚いているとそのまま右手は地面に落ちた。そして人間体の黒百合の姿になる。


思わず目を見張った。


黒百合は全身に血が巡ったかのように肌も髪もツヤツヤだった。目の下のクマは相変わらずだが瞳は濡れており、着物は黒一色ながら絹織物の様な光沢があり、金色の刺繍が各所に入っていて、質感だけならまるで喪服を通り越して婚礼衣装のようだった。


「黒百合……なのか⁈」


呻くように尋ねるエリト。それに対して艶っぽく頷く黒百合。


「お前様……遂にここまで成長したでありんすね。あちきは嬉しいでありんす」


そう言うと今度はエリトの頭の怪我を愛おしそうに撫でる。


「ケガをさせてしまい申し訳なかったでありんす。もうあちきは動けるでありんす」


「あ……ああ……。竜人たちのビッグ3とやりあったんだ、まあ仕方がない、生きているのが奇跡だ。それよりここから逃げる方法を探せ」


「はい、わかったでありんす」


黒百合はそう言うと右手の小指を切り離し、分離して黒蛇の姿にして放した。そのまま裏路地に入って行く黒蛇。暫くすると路地奥から男の悲鳴が上がり、咀嚼するような音がした。そして黒蛇は小さなスーホ車を先導しながら連れて戻ってきた。


黒百合はエリトを気遣うように、手を引きながら幌車に乗せる。


「お前様、こちらに」


「ああ。運転は任せる。俺様は休みつつ車から追手を撃つ」


そう言うとエリトは幌車に乗り、座り込んだ。疲労と流血で意識を失いそうになるもこらえる。黒百合は、御者となってスーホ車を走らせ始める。


「お前様、どこへいくでありんすか⁈」


「街道はほぼ封鎖されているだろうな。それなら比較的安全なズカ領の方へ行く」


「わかったでありんす!飛ばすでありんすから気をつけてくださいでありんす!」


そう言うとスーホ車は全速力でズカ領の方向へ走り出す。


「今に見てろ竜人皇、ザーレ、ギラード、ドラゴニアの連中!必ず復讐してやるからな!」


目を血走らせながら怨嗟の言葉を叫ぶエリト。そして、


「(そして最後に狩るのはイチ、お前だ!)」


心の中で固く誓うエリト。それを見て、


「(ああ……熟したかも)」


うっとりとした目をしながらスーホ車を駆る黒百合。

そのまま二人はズカ領の方へ落ち延びて行った。

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