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115-竜人皇の恩賞

「(コイツが……竜人皇⁈)」


思わず心の中で呟くエリト。目の前にはとても竜人には見えない見目麗しい青年が立っていた。

竜人らしい鱗はほとんどなく、羽根の様な形をしたヒレが耳の辺りにある。頭部からはイエローダイヤモンドのように輝く2本の角が生えており、髪は燃えるように赤い長髪。身体は筋骨隆々の樽の様な厚みと太さのある戦士の身体ではなく、どちらかというと陸上競技のトップアスリートみたいなバランスの良い体格をしていた。



美しさと強さが黄金比のようなバランスで同居している。



それが第一印象だった。



美しくて恐くて強い、関わると危険なのに思わず目で追ってしまう。エリトが昔、少しだけ会わされた事がある元の世界の超上位層、それらの人物の100倍くらいのカリスマを感じる。陸に揚げられた魚のように口をパクパクさせるエリト。


「で、報告は⁈早く申さぬか。余の時間は貴重なのだぞ?」


「あ、はい。そ……それは……」


竜人皇の言葉に慌てて答えようとするエリト。だが上手く喋れない。すると、


「私からよろしいでしょうか。竜人皇様、申し訳ありませぬ。悪い報告です。」


ザーレが助け舟を出した。それを聞いて、


「ザーレ、なんだ、申せ」


「恐れながら、見せしめに始末しようとした勇者とその一味を取り逃がしました。おまけに人工『魂の蘇生結晶(レイヤール)』まで奪われました。私の責任です」


ザーレの報告を聞いて不思議そうな顔をする竜人皇。


「それが……何か問題なのか⁈あれは一回使えば壊れる試作品だろう?金はかかるがまた作れば良いではないか。その金を調達できぬお主ではあるまい⁈」


「その見せしめ予定の雑魚勇者が問題でして……竜人皇様の分身を斬られました」


その言葉を聞いて目つきが鋭くなる竜人皇。


「そうだ、それで余は来たのだ。何故、余の分身が斬られた上に生命反応が消えたのだ。あの分身は将軍クラスでも倒せるような代物ではないのだぞ⁈検分する。余の分身の死体はどうした⁈」


ザーレは文官竜人に目配せする。

それを見ておそるおそる報告する文官竜人。


竜人皇様の分身の死体は……残念ながら2時間ほどで溶けて無くなってしまいました。


「ほう?何故だ⁈」


冷静かつゆっくり、だが言い訳をさせない低い声で問う竜人皇。


「は……はい!……それは!そこの元勇者エリト様が報告してくれるそうです!」


怯えながらキラーパスを出してきた文官竜人。血の気が引くエリト。するとまたザーレが助け舟を出してくれた。


「エリト君。勇者イチは竜人皇様を斬ったあの忌まわしい剣技をなんて呼んでいたか、報告してくれたまえ」


「(剣技だって⁈そんなのアイツ名乗っていたか⁈アイツの剣技は『薙ぎ払い』だろ⁈あと変なナイフによる貫通技、あとは……)」


その時、黒百合が報告していた、イチがずっと特訓していた剣技が脳裏に浮かんだ。


「未完成と言っていましたけど……『オリオン斬り』って」
















空気が爆発したような圧がホールを包んだ!

















「オリオン……あの忌まわしい剣か!」


あまりの圧に気を失いそうになるエリト。ザーレは倒れそうになるエリトの背中を支えると、代わりに報告を済ませる。


「報告は以上でございます。このエリトの申す通りあの剣技は未完成、今のうちに叩くべきかと」


それを聞いて、冷静になったのだろう。竜人皇は静かな口調で命じた。


「そうだな。完成したオリオンの剣技なら溶けるのに2時間もかからぬ。瞬時に気化するだろう。よくぞ報告してくれた、いまなら十分に間に合う。すぐに追跡部隊を編成し始末せよ。その勇者イチと関わった人間は全て殺せ。あの剣技をこの世から消さねばならぬ」


「ははっ!ですが追跡部隊ではなく軍を動かすべきかと。勇者イチとその一味は我々が以前研究していた、戦士の魂を用いて動かす土人形兵の開発に成功しております。まとまった数が増えれば、小隊規模の編成では返り討ちに遭う危険があります。ちなみにその土人形兵の情報もこのエリトの報告でございます。私としては彼にそれに見合った恩賞を与えたいと思われますが」


ザーレの報告を聞きながら、


「(あ、ザーレの野郎!土人形兵を取り逃がした責任を、さらりと不可抗力だったみたいな言い方をして回避しやがった。まあ、俺様の手柄になるなら構わないけどよ)」


心の中で呆れながら感謝するエリト。すると、


「余に逆らった戦士の魂が今さら余に逆らえるとは思えぬが……まあ確かに有益な報告だな。オリオンの剣技の話もあるし、恩賞は弾むべきだろうな」


そう言うと竜人皇は文官竜人の方を見た。すると文官竜人は書類の様な物を出し、竜人皇に渡す。それを一瞥すると、


「エリトとやら。お前にはワーミ領の領主ではなく、カサオ領の副領主をやって貰う。名目上はカサオ領の領主の部下だがアイツはお飾りだ。あそこはザーレの管轄だからザーレの下で働け」


そう告げた。


「あ……ありがとうございます!」


「(カサオ領の副領主!3大領の一つじゃないか!ワーミ領みたいな貧乏領より100倍良い!しかもザーレの下で働くって事は『魂の蘇生結晶(レイヤール)』の黄金の丸薬の取引に関われるかもしれない!大出世だ!)」


想定以上の恩賞に喜びを隠せないエリト、その姿を見て、


「おめでとう!エリト君!キミは仕事ができる人間だ。バリバリ働いて貰うから覚悟してくれたまえ!」


笑いながら話すザーレ。


「はい!一命にかけて!」


「おお!頼もしい!ところで、早速聞きたい事があるのだが……」


はしゃぐエリトに、にこやかに尋ねるザーレ。


「何か他に報告する事はないかね⁈」


「え……いや、他には特に……」




エリトがそう言った瞬間だった。




バシーン




文官竜人が鞭の様な物を取り出してエリトの右手を打った!





「きゃああああああああ⁈」


「黒百合⁈」





エリトの右手の変化が取れて蛇の姿が現れる!そして大口を開くと、ギラードの右腕を吐き出した!



文官竜人はゆっくりエリトに近づくと、胸に着けていた階級章の様な物にそっと触れる。

すると……シルエットが変わり、片腕の竜人に変化した!


「ギラード……様」


呆然とするエリト。それを見て、


「変化の魔道具は一つではない。これはお前には見せた事はなかったな。私の片腕と魔道具、返してもらうぞ」


淡々と呟きながら自分の片腕を拾うギラード。ザーレはギラードとエリトを交互に見ながら、


「エリト君、これは、どういう事かな⁈」


そう言いながら邪悪な笑顔を浮かべるザーレ。


「(失敗した!)」


顔面蒼白になりながらエリトは心の中で絶叫した。


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