114-報告
イチたちが大暴れした後は大騒ぎだった。
『宝竜閣』の劇場は半壊して立ち入り禁止になっている。その工事を仕切る竜人と、人間の職人たちが慌ただしく作業をしている。『宝竜閣』の周りも警備が厳重になっており、一般竜人兵だけじゃなくて指揮官クラスの竜人も警備に入っておりピリピリしている。
そんな『宝竜閣』のロビーを楽しそうに見回す人間がいた。エリトである。
「(上手くいったな♪)」
エリトは心の中で上機嫌で呟く。
「(竜人たちは大騒ぎだ。あんな芝居がかった式典をやったのに、イチたちを逃がしたどころか、人工『魂の蘇生結晶』は奪われるわ、ショーの生贄の予定だったドラフト最下位勇者がとんでもない必殺剣技持っている事が発覚したワケだからな。窮鼠に噛まれた猫の気分ってところか♪)」
ロビーの椅子に座り込む。ちょうど良い柔らかさ。さすが最上級宿、座り心地は最高だ。動物の皮の様なのにサテンのような光沢があるシートに、低反発のクッション。この椅子だけで白金貨10枚は下らないだろう。いつか自分で買っても良いなと思える椅子だった。
そんな最高の椅子に座りながら昨日あったことを思い出し思わず口角が上がるエリト。
「(おまけにザーレの野郎、魔女カルラの家の地下にあった土人形も取り逃がしたらしい。へへへ、いい気味だ、アイツもお終いだな」
そんな事を楽しく考えていたら、背が高くて線の細い、文官みたいな竜人が現れてエリトに声をかけた。
「エリト様、ザーレ様が参られました」
「ああ、ご苦労。すぐに行く」
エリトは横柄に返事しながらゆっくりと立ち上がると、ロビーの玄関までザーレを出迎えに行く。すぐに玄関にザーレは現れた。昨日は随分と憔悴していたが、今は落ち着いている様だ。ただ、服はいつもの貴族服は上着だけで、中には軍の礼服のような派手さの少ない落ち着いた格好をしている。
「やあエリト君、待たせたね」
「いえ、少しも。ザーレ様、おケガなどは無かったでしょうか」
本心を隠しながら労りの言葉を並べる。一応まだ上司だから礼は尽くすエリト。その姿を見て満足そうな顔をしながらザーレは続けた。
「ケガはなかったが私は散々だったな、キツいお叱りを受けるだろう。だが大丈夫だ。君のもたらした情報には白金貨10000枚の価値がある。特に勇者イチの危険度はすぐにでも竜人皇様に報告せねばならない最重要情報だ。エリト君。君への恩賞はもう少し上乗せしないといけないかな。今からすぐに報告と恩賞の話をするからすぐに一緒に大ホールに向かおうか」
「ありがとうございます。ですがザーレ様、その言い方だともしや……」
「ああ、竜人皇様が来ている。粗相のないようにな」
竜人皇自ら出向いてきた⁈
「(総大将が向こうからわざわざ来てくれただと⁈これはかなりの恩賞が期待できる!やったぞ!イチめ、暴れてくれてサンキューな!)」
笑いをかみ殺し無言になってしまうエリト。それを見て、
「あまりの事に声も出ないようだね、無理もない。竜人皇様が出向く事は滅多にないからな。大丈夫だ、竜人皇様は公平な方だ。今の君の立場で恐れる必要はないよ、ははは!」
ザーレはそう言って笑うとエリトと文官竜人を連れて大ホールに向かう。3人を見つけた指揮官クラスの竜人兵が立ち止まって最敬礼をする。皆背筋も指先も伸びていて緊張感マックスだ。
そして大ホールに着いた。
……が、誰もいなかった。
体育館のように広くて天井の高いホールだ。周囲を注意深く見回すエリト。
「あの……竜人皇様はこれから来られるのでしょうか⁈」
「ははは、注意深いキミでも見つけられなかったか、目の前をよく見たまえ」
エリトの問いに笑って答えるザーレ。もう一度改めて周囲を見回すエリト。そして気付いた。足下に銀色のピンポン玉の様なものが落ちている事に。
ころころころ……とんとんとん……
なんと足元のピンポン玉はひとりでに転がっていったかと思うと……いきなり跳ね始めた。
「え……え……⁈」
エリトが困惑していると、そのピンポン玉はいきなり停止したかと思うと、今度はみるみるうちに3メートルくらいの大きさになって、フグとワニを合わせたような生き物になった!
「(こいつは!イチを飲み込もうとした……!)」
目を見開き、思わず後ずさるエリト、すると、
「いや、今日は祝いの席でもあったな。別の姿にしよう」
ゾッとするような低い声が響く。同時にフグワニは少し縮むと竜人の形に変わり、逆三角形の筋骨隆々の姿になった。
「ヒッ!」
思わず悲鳴が出てしまうエリト。そのくらい目の前に現れた竜人の圧は凄かった。
「(……声が……出せない!目が開けられない!)」
エリトが震えていると、今度は低音だが優しい声がした。
「おっと、やりすぎてしまったな。加減がわからなくてな。構わん、目を開ける事を許す」
その言葉を聞いてやっと心の金縛りが解けるエリト。おそるおそる目を開けると……
「竜人皇だ、私を出向かせる報告があると聞いてきたぞ。さあ、申せ」
目の前に、竜人と言うよりほぼ人間の姿をした、美しい竜人が立っていた。




