107-脱出
イチが翠亀剣を振り下ろそうとした瞬間だった。
バキバキバキバキバキバキ……!
人工『魂の蘇生結晶』を置いていた台車が弾け飛んだ!そして鋭い牙と大きな口を持った、フグとワニを足したような異形の怪物が飛び出してくる!
シャギャ―――――――――――!ブボボッ
フグワニ怪物は咆哮を上げた後、風船のように膨らみ、あっという間に4mくらいの大きさになった。そしてそのままイチを丸呑みにしようとする。その流れを見て勝利を確信したザーレはニヤリと笑った。
だが……
「やはり罠か!」
イチは今までの儀礼で頭にきていた。だが彼の筋肉は驚くほど冷静に、垂直方向に翠亀剣を振り下ろした。
スッ……ストン
「できた!オリオン斬り!」
『アクセル255』を使わなかったのが幸いしたのかもしれない。翠亀剣は型通りのブレの無い綺麗な軌道でフグワニ怪物を容易く真っ二つにした。
「(一撃で仕留めた!威力は……50%ってところか⁈だが過去最高だ!)」
イチが心の中で自画自賛している時、
「ば……馬鹿な!そいつは竜人皇様の身体の一部だぞ⁈それを紙みたいに容易く斬ってしまっただと⁈ありえない⁈」
予想外の展開に明らかに狼狽するザーレ。そして彼は見た。フグワニ怪物の切断面がバターのように溶け始めてドロドロの液状になっている事に。
「……あの剣技は⁈いかん!兵たちよ、勇者イチを殺せ!決して生かしてここから出してはならん!」
顔面蒼白になったザーレが竜人兵に総攻撃を命じた!呆然と今の光景を眺めていた竜人兵たちが我に返り剣を抜く!だが、
ブンッ!ドオオオオオオオオン!
一足早くイチが薙ぎ払いを繰り出した!劇場前列の竜人兵たちが吹っ飛ぶ!その勢いに怯む竜人兵たち。
隙ができた!
「せっかくだ!逃げる前に大物は狩っておく!」
『アクセル255』発動!視界がエメラルド色に変わる!標的はただ一つ、竜人貴族ザーレの首!
「くたばれザーレエエエエエェ!」
弓から放たれた矢のように真っ直ぐザーレの方に跳ぶイチ!
「ヒ……ヒイ―――――――――――ッ!」
情けない声を上げながら背中を見せて逃げるザーレ!翠亀剣を振りかぶるイチ!
仕留めた!そう思った瞬間だった。
「おっと、そうはさせねえな!くたばれイチ!」
瞬時にエリトがイチの目の前に飛び出し、その右手をイチの顔の前に突き出す。『アクセル255』発動中のため掌が明るく光るのがスローモーションで見えるイチ。
「(ヤバい!)」
歯を食いしばって全体重を左に傾け、射線からの回避に全力を出すイチ!
ドオオオオオオオオン!
その直後に雷の大砲が飛び出した!間一髪、回避成功!
だがイチは気付いた。
「(エリト……僅かに照準を外していた⁈……そう言う事か!)
すぐに警戒するような大きな動きで逃げ回りつつ後退するイチ。それを見てほくそ笑むエリト。
「(そうだ、それで良い。命拾いしたな、イチ。お前は本当に運が良いのか悪いのかわからんな。ほら!上手く逃げろよ単細胞!)」
ドオオオオオオオオン!ドオオオオオオオオン!ドオオオオオオオオン!
エリトは雷の大砲をワザと少し逸らしながら撃ちまくり劇場内を大混乱にする。その隙にイチはリコたちのところに戻り叫んだ。
「早く出口へ!逃げろ!」
ハッとなって出口に駆けるリコたち。その脱出ルート確保のため大暴れするイチ。3人が劇場を出たのを見届けると、目ざとく落ちている人工『魂の蘇生結晶』を拾いポケットに入れ、薙ぎ払いを二発撃って劇場を滅茶苦茶にして脱出した。
そしてそのまま廊下を駆ける。そして先に逃げていたリコたちに追いつくと。
「ゴメン!みんな!やっちゃった!」
大声で皆に詫びる。そしてその後、
「この埋め合わせは必ずする!竜人皇に勝ってみせる!だからみんな俺に命を預けて!」
真剣な、迷いの消えた良い笑顔で言うイチ。
いや、やりたい放題やって勝手な事を言うなだよな……と心の中で冷や汗をかいていたら、
「えへへ!私……スッとしました!イチ様、私、どこまでもついていきます!」
「も~!儀礼の最中ずっと『こんな辱めを受けるなら戦って死んだ方がマシだ!』と思ってたよ!ボクも戦うよ!一人でも多く仕留めてやる!」
「本当に……本当に……バカねえ……でも、騙したのはあっちが先!従っても結果としては同じなら仕方ない!アタシも覚悟決めるわ!さあ行きましょう!」
リコたちは、笑いながらそう言った!
そして目配せすると、そのまま走って『宝竜閣』を飛び出す。すると、
「あいつらだ!賞金首だ!殺せー!」
『宝竜閣』前の広場に沢山のドラゴニアの民衆が武器を持って待ち構えていた!
それを見て鼻を鳴らすカルラさん。
「ほーん?もし逃げ出したら民衆に嬲り殺される勇者達というドラマを作るつもりでコイツら呼んでいたのね。ザーレ、本当に芝居がかった嫌な奴だこと!」
リコとフォレスタは、
「――――――!相手は人間です!しかもこの人数では……イチ様、私たち……」
「ゴメン!ボクらの武器はカルラさんの館に置いてきちゃった!イチ、お願い!」
「わかってる!」
そう言いながら躊躇う事無く翠亀剣を構えるイチ。
「(上等だ!腹は括った!なってやるよ、人殺しにでもな!)」
そう心の中で絶叫して、民衆に向かって薙ぎ払いを繰り出そうとした瞬間だった!
「どけどけどけどけどけどけでゲス~!」
民衆の隙間をこじ開けながら1台のスーホ車が飛び込んできた!そしてそのままドリフトするとイチたちの目の前に横着けして急停止した。
「早く乗るでゲス!」
「武器も載せてきた!早く!」
ゲス郎とチルルだ!
「ゲス郎!チルル!来てくれたのか!」
返事するよりも早く、リコとカルラがチルルの『重力制御』で幌車に放り込まれた。続けてフォレスタとイチが幌車に飛び込む。
「しっかり捕まってるでゲスよ――――――――――――!」
そう言いながら4人が乗り込んだタイミングで全速力でスーホ車を急発進させるゲス郎。突然乱入してきたスーホ車に民衆が混乱している隙をついて無理やり押し通る!
堤防の様だった人垣を抜けた!
「は、ははははは!やったー!ざまあみろ!ありがとうゲス郎、助かったよ!でもどうしたんだこのスーホ車⁈」
そんなイチの質問に、
「買ったんでゲスよ!白金貨30枚で!」
自信たっぷりに歯を光らせ、キザな笑顔で返すゲス郎。
「ゲ……ゲス郎―!」
「ゲス郎……貴方って人は!」
思わずゲス郎に抱き着くイチとリコ。でへへへへと鼻の下を伸ばすゲス郎。涙が出るくらい嬉しい。
そんな感動で満ち溢れた空間でチルルがコッソリ教えてくれた。
「本当はな、スーホ車の店で鳴いて喚いて値切りまくって白金貨20枚で買っていたぞ、コイツ」
その言葉を聞いて皆の注目がゲス郎に集まる。聞こえないふりをして顔を背け、口笛を吹きだし誤魔化そうとするゲス郎。
「ゲ……ゲス郎……」
「ゲス郎……貴方って人は……」
皆でジト目でツッコむ。そのあと皆で大爆笑した。そのゲス郎のセコさが今はたまらなく嬉しかった。
そしてひとしきり爆笑した後に我に返った。今から俺たちは逃亡者だ。どこに向かおうか⁈
そんな時、幌車の中から大声がした。
「そのまま真っ直ぐ進んで!噴水まで走ってください!」
今のは誰だ?そう思いながら声をした方を向く。すると見慣れない小学生くらいのショートカットで浅黒い肌の女の子が同乗しているのに気付く。え⁈誰かの知り合い⁈そう思い顔を見合わせていたら、
「お会いするのは初めてですね、ドラフト5位勇者、ライミです」
ニッコリ笑って名乗られた。




