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異世界召喚勇者ドラフト47位で指名されました  作者: 三村守修司
第八章 ドラゴニア対決編
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104/131

104-哀愁

「何を言うんだ!カルラさん!そんな事したら……」


そう言いかけてカルラさんの方を向く。だが、彼女の目を見て何も言えなくなってしまった。優しい瞳だった。


そして、


「私も……大丈夫です……」


「ボクも……いいよ……」


リコとフォレスタも、次々とOKを出した。満足げに頷くザーレ。


「決まりだね。素晴らしい、賢い女性は好きだよ。では明日『魂の蘇生結晶(レイヤール)』引き渡しの手続きをしよう。今夜は最後の晩餐を楽しみたまえ。では、この辺で」


そう言って、部屋を出て行こうとするザーレ。すると部屋を覗き込んでいるゲス郎と目が合った。


「あ、いえ、アッシは覗いていたわけじゃないでゲス!」


ザーレは無視して帰ろうとしたが何か思いついたらしく、声をかけた。


「おお、報告があった勇者一行と行動を共にしている荷物持ちか。たしかゲス郎くんだったね⁈」


「ヒ、ヒイッ!アッシは何もしていないでゲス!」


「怖がらなくて良い、ここまで生き残っただけでもたいしたものだよ、そんな勇敢なキミには是非やって貰いたい事があるんだが良いかな⁈」


そう言いながらザーレは腰の小物入れから小さな袋を出すとゲス郎に渡した。

恐る恐る中身を確認するゲス郎。すると、


「し、白金貨が30枚も⁈こ……これはなんでゲス⁈」


「君の口から勇者イチたちに言って欲しいのさ『負け犬の群れから抜ける事ができてせいせいする、あばよ!』ってね⁈簡単だろう⁈」


「ヒッ⁈さすがにそれは……⁈」


「やらなくても良いよ⁈その場合どうなるかはご想像にお任せするが⁈」


ニッコリと笑うザーレ。だが目は笑っていない。


「ギャッハッハッハ!」


二人のやり取りを聞いて爆笑するエリト。品の無い笑い方だ、


「(この野郎!)」


イチがまた激昂して立ち上がろうとした瞬間に、


「ゲス郎……良いのです。言いなさい」


リコが優しく諭した。寂しい笑顔で。

それを見てスッと気持ちが萎え、そっと座り直すイチ。

そして、


「そうだな……ゲス郎……構わないよ。身の安全を取れ」


力なく言った。

そんなリコとイチの言葉を聞いて、


「へ……へへへ、じゃあお言葉に甘えて……へーんだ!負け犬の群れから抜ける事ができてせいせいするでゲスよ!あばよでゲス!ケッ!」


掌を返して言われた通りのセリフを言い放つゲス郎。


「ギャッハッハッハ!ヒー!腹が、腹がよじれる!……………………ん⁈」


「うむ、素晴らしいよゲス郎くん。実に感動的だ。さあ、どこにでも行きたまえ、君は自由だ!」


「へっへっへ、じゃあアッシはここで……」


エリトの嘲笑とザーレの感嘆の言葉を浴び、ゲス郎は逃げるように館から逃げた。


「(…………………………………………そういう事か)」


ゲス郎の後ろ姿と門の方を交互に見た後、エリトは何かを察した。

そして考え事をし始めた。




ゲス郎は館を出るとトボトボと肩を落として歩き始めた。

そして門を出る直前に立ち止まり、そっと館を振り返った。泣きそうな瞳で。




そんな時だった。



「聞こえたぜ⁈名演説じゃねえか。で、仲間を売っていくら貰えたんだ⁈通行料として俺達にも分けてくれよ」


門の前に待機していた二人組の竜人兵に声をかけられた!


「ヒイッ!アッシは……」


悲鳴を上げるゲス郎、するともう一人の竜人が、


「放っておけよ。もうコイツ人間側にも竜人側にも居場所はないんだぜ!正直哀れでカツアゲする気にもならねえよ!ほら!俺達の気が変わる前に行っちまいな!ケケケ!」


嘲笑しながら『クズはあっちに行け』とばかりに手をひらひら振る。


「へ……へえ、ありがとうございますでゲス!」


そう言いながら走って逃げるゲス郎。

その背中には哀愁が漂っていた。





どれくらいの時間が経ったのだろう。

ザーレ達が帰った後、ずっと重い沈黙が部屋を包んでいた。


沈黙に耐えられなかったイチが口を開く。


「あの……」


そう言いかけた時に、カルラさんがぼそりと呟いた。


「……さっきのズーミの死体に入っていた魂は元オリオン戦士団の一人の『火昆のアルジャ』って人なんだけど……アタシの最初の夫なんだ」


「―――――――――――――――――――!」


余りの事で声が出ない。そしてカルラさんは続ける。


「気はきかないけど……強くて優しい人だったわ。そして竜人を心から憎んでいた。でもそんなあの人がザーレの命令にホイホイ従い、ズーミの死体なんかに入って、二度目の死まで経験させられているのを見て……なんか……心折れちゃった」


声が震えている。


「ま、仕方ないか!もう完全に詰んじゃったもの!皆の命があるだけめっけもの♪さーて、頑張って生きるぞー!アタシはしぶといんだ♪」


急に明るい声で笑うカルラさん。続けて、


「うん!私も使用人道を究めてみます!ワーミ領も、ここに来る前に食べていけるように色々手を尽くしましたし領民の皆さんも優しい人ですから、次の領主様がどんな人でも大丈夫、やっていけます!イチ様、今までありがとうございました!イチ様の幸せとお姉さんの子供が生き返る事を祈っていますね!」


「ま、ボクも命があるだけマシか♪ボクの夫になる人たちは……あのガマガエルみたいな親父達だろうね、まあ仕方がないか♪せいぜい搾り取って、森の民のみんなの生活を楽にしてやるさ!ハハハ!イチ!ありがとう!こちらの事は気にしないで良いからね!」


3人とも気丈に笑っていた。私は大丈夫だと。


でもイチはこの笑顔を知っている。


元の世界で集団いじめの標的になって耐えていた幼馴染の女の子。


『私が悪いんだから!ちょっと私が我慢すれば良いだけ!きっとみんなわかってくれるから!大丈夫、心配しなくて良いからね!』と笑っていたあの娘。


悪人に食い物にされることが確定したような、気丈に振舞っているようで全てを諦めている、善人の卑屈で切ない笑顔。イチがこの世で一番嫌いな笑顔。





「(こんなの見て見ぬふりできるわけないだろうがあ!)」





その切ない笑顔を見て、イチはカースト上位のエリトとやりたくもない冷戦を戦う事になったのだ。





「やめろ……その笑顔は……やめてくれぇ!」


イチは涙声でそう言うと、いたたまれなくなって庭に飛び出した。





「クソ!クソ!クソ!」


翠亀剣を無茶苦茶に振り回す。意味なんてない、でも心の中がぐちゃぐちゃで振り回さずにはいられない。


リコやフォレスタ、カルラさんを守れなかったのが悔しい。

何よりこれから地獄に落ちる3人の優しさが辛い。

何より3人の優しさに甘えてしまった事と、ザーレの提案を拒否できなかった自分が情けなくて不甲斐なくて死んでしまいたいくらい辛い!




そしてこれが一番合理的だと思っている自分が本当に赦せない!




「う……ウウウウウウ―――――――――――――――――」


泣きたいのに声が出ない、胸が潰れる。




「……もう、どうして良いのかわからんわ……」




絞り出すようにそう言うと地面に突っ伏し、声も上げられず泣く。








ぽん







不意に……誰かに肩を叩かれた気がした。



「……⁈」



振り返るイチ。だが誰もいない。

すると足下にA5サイズくらいの小さな板と細い棒が置かれている事に気付いた。

そして細い棒は立ち上がると、板に何か文字を書き始めた。


『声を出すな、落ち着けよイチ』


ハッとなって翠亀剣を手に取り、刀身を見る。

すると……見知った顔が映っていた!


「(エリト!)」


すると小さな板の文字が消え、新しい文章が書かれる。

子供の頃に遊んだ、磁石の力で何度でもかいたり消したりできる、お絵かきボードに似たものだろうか⁈


『話がある、門から離れろ。見張りの竜人兵がいるからな。その後、この板で筆談するぞ』


イチはそっと目立たない場所に移動すると地面に座りこんだ。すると新しい文章が板に書かれ始める。



『気に食わない事があってな……イチ、俺と手を組まないか⁈』



エリトから共闘を申し込まれた!



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