103-苦悩
「信用できるか!大体だ!貴重な『魂の蘇生結晶』をお前たちが差し出す訳が無いだろ!」
もうすぐ使用期限が切れるとはいえ竜人の命運を握る宝だ。渡す訳が無い。しかもなんだ、この条件は⁈リコたちは命が保証されていても地獄じゃないか!舐めやがって!
激昂するイチ。だがその怒りをザーレは軽くいなしながら、
「勿論本物は渡せないよ⁈ただ、我々竜人は勇者魔道具を参考に作られる人工魔道具の製造と研究を長年行っている。作れたのは3ランクくらい型落ち性能だがね。だがその人工魔道具は我々の社会を豊かにしてくれているよ!ドラゴニアの環境を見ただろう⁈」
イチはウっと言葉に詰まった。一見中世のようなドラゴニアだがインフラはたしかに目を見張るものがあった。あれは人工魔道具の技術なのか⁈
「良い物は研究して大量生産は基本だ。そして当然『魂の蘇生結晶』も研究対象でね。我々は多額の予算をかけて80年研究している。ちなみに私が総責任者だ」
そう言うとザーレは懐から高級そうな布に包まれたミカンを出した。え⁈ミカン⁈
……いや違う⁈オレンジ色の水晶玉だ。
大きさと色からいってミカンにしか見えないが。
「これは『魂の蘇生結晶』の型落ち品の試作品だ。死者を7割の確率で蘇らせる。欠点として一度使ったら壊れてしまうがね。オリジナルの『魂の蘇生結晶』の能力は『死者を生き返らせる』と『魂のエネルギーを食わせる事で若返りの素を出す』なんだが、若返りの素の製造能力は残念ながら再現できなかった。ちなみにカルラは良く知っているだろうがこれが若返りの素だ」
そう言いながら今度は腰の小物入れの中から黄金色の丸薬を3個出した。それを見てエリトの目つきが変わる。
「(これが竜人の若返りの秘密か。そういえばアンとチョビが飲んでいたな。なるほど、あいつらが変身した時に、あれほどの力を何故使わなかったのかと思っていたが、力を使いすぎると老化が進行するってわけか。この丸薬はそれの回復役ってところか)」
ザーレは少し見せた後に人工魔道具の『魂の蘇生結晶』と黄金色の丸薬をすぐに回収した。まるで大事な宝物のように。それを見て、
「(ザーレの反応を見る限りこの2つはかなりの貴重品だな。ザーレはこいつを仕切って貴族になったってところか……なるほどな)」
エリトは表面上は興味のないフリをしながら、考え事をする。しかし、イチが止まらない。
「皆を見捨てて帰れるか!大体、どうやったら元の世界に帰れるっていうんだ!そもそも帰れる保証はどこにある!」
「召喚ができるんだ。当然帰す方法もあるに決まっているだろう?そもそも勇者オリオンは我々が元の世界に飛ばしたのだよ⁈」
ザーレがこともなげに言った。
「え⁈」
そう思いながらカルラさんの方を見ると彼女は無言で頷いた後、
「その話は本当よ。アタシも竜人の研究者と接するからその技術があるのは知っているわ。ただ、飛ばしたのは別の世界だと思っていたけど元の世界だったのね⁈どうやらやり方は秘密みたいだけど。そしてそこの人工魔道具の『魂の蘇生結晶』の話も本当。でも驚いたわ。その人工魔道具『魂の蘇生結晶』竜人の年間研究予算の3割を使ってやっと一つ作れるかどうかでしょ⁈そんな貴重品をよく渡せるわね⁈」
「言っただろう⁈素晴らしい仕事には最高の報酬で返さねば!が私の信条だと。たとえ怨敵であってもね!」
カルラさんの言葉に余裕たっぷりに返すザーレ。
それを聞いたイチは、
「帰れるんだ……」
心がぐらついていた。それを見て畳み掛けるザーレ。
「いかがかね⁈勇者イチくん。君の望みは、お姉さんの子供の命を助ける事だと調べはついている。今、君がここで引けば元の世界に帰れるし、型落ち品だが『魂の蘇生結晶』も手に入る。姉の子が生き返る可能性は7割だがね。だがここで戦うのならそれら全てを失うのだよ⁈」
「―――――――――――――――――――!」
なんて取引を持ち掛けるんだ!でも……!姉さんの子を生き返らせるのは悲願なんだ!そのために戦ってきたんだ!
でも!でも!でも!
リコを!フォレスタを!カルラさんを!社長たちを見捨てて帰れるわけがないじゃないか!
でもたしかにもう勝ち目はない!
だったら……!
歯を食いしばり額に皺を寄せ人生最大級に苦悩するイチ。
すると、
「その話、私は受けるわ。その代わりイチくんを帰してあげて」
カルラさんが決意に満ちた目でザーレに返した。




