第三十一話
<京都府警本部3F会議室C>
「米澤クン、それもう少し右側じゃないか?」
「あ、ここに繋がるんですね、早乙女先生」
「……そうそう、これはまたすごい精度じゃないかね?」
「伊能忠敬もびっくりですね、これは……」
被疑者が急に眠り込んでしまったおかげで取調べが全く進まない。今日は早く上がれるはずだったのに、帰れる雰囲気が全くしない。これホントに面倒な事案かも。押収品の鑑定をお願いした専門家さんたちは、ブルーシートの上に広げておいた古文書を見るなり大騒ぎしはじめて、せっかく綺麗に並べておいたのに向きぐちゃぐちゃにし始めて、ホントわけわかんない……。
「それにしてもこんな方法で……」
京都大学文学研究科考古学研究室から派遣された早乙女猛教授は腕を組み唸った。大和クン……窃盗事件の被疑者が蒐めたという多量の古文書。データで見せられたことはあったものの、こうして実物が平面に並べられて初めて判ることがあるとは……。
米澤クンが表紙の“シミ”がどうやら近畿地方の地形の一部のようだと気づいたのはつい10分前のことだった。そこからシミを繋げるように並べ替えていくと、国土地理院の標高地形図もかくやというほどの絵図の全体像が見えてきた。ところどころに欠損があるものの、その精度は瞠目に値するものだった。表紙に書かれた文字は、遠目に見るとどうやらそのまま断層帯を表現していることもわかる。
既知の三方・花折断層帯や有馬・高槻断層系はもちろん、これまで調査が行われてこなかった京都や奈良の市街地直下にあたる部分や、琵琶湖と思しきエリアにも文字が並んでいる。大和クンの言うように平安期の地震学は相当に進んでいたのかもしれない。それにしても……、
「どうしてこんな方法で隠匿しなければならなかったんだろうか?」
「えぇ、まったく……」




