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龍のせぼね  作者: 飯田橋ネコ
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第二十八話

「なんで私がこんな運転代行みたいなことしなきゃなのよ……」


 午前0時。生憎の曇り空に月も星も姿を見せず、文字通りの暗闇に包まれた国道308号線。大阪南港から自走してきた全長7m全幅2m総重量15トンのバイブロサイス震源車(米国Industrial Vehcles International社製 中型バギー(タイプ))の運転台に座る長野は、後ろからついてくるジムニーを運転する佳子の苛立ちをほとんど肌で感じ取っていた。

 大阪と奈良を結ぶ国道308号線は本来、第二阪奈有料道路の阪奈トンネルを経由し、ものの数分で生駒山直下を通過できるルートだったが、先日の地震の影響でトンネルが不通となったため、一般車両は北に通る府道8号線へ大きく迂回することを余儀なくされていた。

 阪奈トンネルの南を通るこの旧国道308号線(大阪府道・奈良県道702号大阪枚岡奈良線重複区間)は、奈良時代に難波と平城京を最短距離で結ぶ道として整備され、江戸時代においては参勤交代の(メインストリート)としても使われた由緒正しき街道である。国道指定こそ外れていなかったものの、最急勾配31%というS字カーブと、車幅制限1.8mという狭隘に過ぎる線形のため、地元の普通車以外の通行は困難という文字通りの酷道であった。トランシーバー越しに佳子の声が飛んでくる。


「稔、もうちょっと右寄せて! 民家の庇にぶつかるわよ!」

「こんくらいかな……」

「うーんそんな感じ……って、そっちの標識にぶつかる!!」

「あ゛……一時停止曲げちった」


 数少ない地元住民も寝静まった刻限。標高455mの(くらがり)峠頂上部の石畳までようやく辿り着いた震源車は3トンを越えるベースプレートを路盤に押し当て、比較的静かな人工震源波を地下20kmの深みへ向けて放射した。辺りには極めて低い周波数の音が満ち溢れ、路傍の小石や砂が小刻みに飛び跳ねる。


「……こんなおっきな音出したらヤバくない?」

「爆薬使うよりは余程マシだってことで開発されたんだぜ、ある程度は仕方ねえよ」

「あ、スゴい! こんなにくっきり見えるのね」

「もともとは石油を探すために作られたセンサーだからな、断層や破砕帯くらいなら結構イケるんだぜ」


 峠を下りながら数箇所で観測を繰り返していくうちに、街道沿いの民家から叩き起こされたらしき住民が遠巻きに眺めてくるようになった。安全第一のヘルメットを目深に被り、うつむき加減に作業を続ける作業服(←工学部研究所から借りてきたやつ)姿の三人。震源車の前面と側面にデカデカと掲げた「災害派遣」のプレート(←ベニヤ板にセンターのボロレーザーで出力した文字を貼り付けただけの急造品)の効果は絶大で、丑三つ時の市街地に配慮ゼロな騒音を撒き散らす闖入車にわざわざ近寄って文句を言う者などいなかった。


「ね、この格好なら平気でしょ」

「……お前こんな手を使っていろんなところに入り込んでいたんだな」


 観測したデータはスマホの4G回線を使ってそのままセンターへ転送して解析してもらう。こんな夜中に後藤先生が一人で一生懸命働いて(まぁ演算するのは吉田のスパコンだけどね……)くれている。残業代も出ないブラック職場だけど好きでやってるんだから仕方がないわよね、っていう世の中はいい加減どうにかしたほうがいいような気もするけれど……。


「この調子なら夜明けまでには京都まで行けるかもなぁ」

「流石に明るくなればどう見ても災害派遣じゃないコト、バレちゃうからね」

「稔〜、なんだか凄い眠いんだけど……」

「なんだよ、まだ午前3時だぞ」

「……もうね、年なのよお姉さん」


 東の空が白み、京都盆地へ最初の陽光がなだれ込むその少し前、センター脇の駐車場に辿り着いた一行は、2階の所長室のソファへなだれ込むとそのまま眠る。しばらくして解析を終えた後藤助教が三人に毛布をかけ、その脇に倒れ込むように横たわる。


「君たち、すごいものを見つけたな。あとで教えてやるから、な……」

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