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龍のせぼね  作者: 飯田橋ネコ
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第二十六話

 後の地震波解析によれば、断層の破壊はまず敦賀半島沖合5kmの若狭湾底地下2kmから始まり、そこから30秒あまりをかけ南南西方向へと進行。既知の浦底断層をおおかたなぞるように陸部へと進み、福井県敦賀市明神町1番地付近で地表に姿を表し、そのまま敦賀湾へと抜けるルートをとった。

 露頭した断層の変位はおおよそ南西方向に1m、上下に0.5mであり、この地域では比較的大きな活断層の、数千年ぶりの活動となった。地震の規模はM5.7。震源に近い敦賀市では震度5強を観測し、若狭湾沿岸には高さ1mの津波が押し寄せた。

 しかしながら、この地震で最も大きな被害を被ったのは、漁具の大半を流失した杉津漁港でも、半壊の憂き目に遭った敦賀赤レンガ倉庫でもなかった。明神町1番地に建造された厚さ7mに及ぶ強化コンクリートスラブが、活断層の活動により生じた変位により、その数万トンを越える質量の支えを失った結果、基部ならびに上部構造体、わけても核燃料冷却プール周縁に無数のヒビ割れが生じ、そのヒビから数十トンの冷却水が漏れ出し、地下3階の再循環サンプへと降り注いだ。瞬時に構内に響き渡るサイレン。2011年以来営業運転の停止が続いていた日本原子力発電株式会社敦賀原子力発電所2号機では鳴るはずのない放射線漏洩警報が建屋中のスピーカーから大音量で流されたものの、もとより躯体自体の損壊を想定した危機管理マニュアルなどあるはずもなく、必要最小限の人数まで削減されていた当直職員は慄然とした。

 東北地方太平洋沖地震ののち、全国の原子力発電所で実施されてきた原子力規制庁による再稼働審査の結果、敦賀原発2号機直下に発見された破砕帯D-1。“当該破砕帯は活断層である可能性が高い”との審査委員会見解を受け、日本原電側はさらなる折衝を重ね、再稼働への道筋を模索していた。その最中(さなか)、まさにその破砕帯で起きた今回の事態。

 強震により敦賀半島全体に発生した大規模な土砂崩れの結果、原発への唯一のアクセス道路、県道141号竹波立石縄間線は各所で寸断。急峻な蠑螺(さざえ)が岳山麓を南北に通る高圧送電塔が倒壊したため外部電源まで喪失。残り72時間分の非常用ディーゼル発電機のみで漏水著しい核燃料プールの冷却を続けなければならなくなった職員総勢20名は、それでも獅子奮迅の奮闘を展開した。

 格納容器冷却システムからポンプ系統を切り替え、配管を流用してなんとか再循環系を作り上げる一方、じわじわと拡大する躯体のヒビへ耐水コンクリートを注入してなんとか漏水を止ようと試みた彼らの日頃の訓練の積み重ねと職業意識の高さが、使用済み核燃料の大気暴露を辛うじて食い止め、放射性物質の敷地外漏洩を一定期間抑えることになるのだが、この時点ではこうした事情が所外へ知らされることはなかった。

 破砕帯の存在から再稼働審査が暗礁に乗り上げ、営業運転を再開する目処も立たないまま、年間数億円という膨大な維持管理費を飲み込みつつ一銭の利益も生まないこの負債施設に対する原電本社の関心は薄く、停電時における非常用通信手段すら確保されていなかった中央制御室から異常発生の報告がもたらされることもなかったため、初動が遅れ、電源車などの確保に手間取り、ついには格納容器の損傷へと至るこの過酷事故(インシデント)は、のちに内部告発により明るみにされ、相も変わらぬ隠蔽体質との批判に晒され、日本原電自体の解体へと繋がることになるのだが、それまでさらに数年の経過を要するうえ、本稿とは関係がないため割愛する、ね。

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