第二十四話
数刻後。駅前のコンビニで女物の下着(←今日は全部Mだ)を買い揃えるオレ。よせばいいのに昨日と同じ時間帯だから同じ店員がレジ打ちながらニヤニヤほくそ笑んでるし。そーゆう浮ついた展開じゃないっつーの!! だいたいからして新幹線乗るのに有り金全部使い果たしたとかどんだけ貧乏な生活送ってるんだよ桂子? 後藤先生だって東京から人を呼んでおいて宿の一つも用意してない(←いやぁ、給料日前だからねぇ……)とかあり得ねぇだろ。香住はなんだか妙に不機嫌になっちまうし、佳子は「ねぇ稔、今度はこんなお子様相手にしてるの?」とか耳打ちしてくるし、挙げ句の果てに着替えも用意しないでシャワー浴び始めて詰んで騒ぐとかどいつもこいつもお子様以下だよ実際!
三人分の洗濯物が所狭しと吊り下がる仄暗い2DK。エアコンをドライ-2℃に設定してもなかなか下がることのない湿度。疲れ果てている筈なのになかなか寝付けぬ午前2時。急に賑やかになった日常生活が鬱陶しくて心休まる暇もないのに少しだけ楽しいのは、結局のところ4年間の一人暮らしの間に折り重なった人恋しさなんだろうか? それとも底知れぬ明日への不安の裏返しなんだろうか?
瞼の裏に降りていた常夜灯の明かりが不意に消える。俄に人の気配が近寄り、右腕を温かな体温が包み込み、右の耳を微かな吐息と声がくすぐる。
「……久しぶりー」
「なんだよ……」
「ね、怒ってる?」
「何をだよ?」
「急に出ていったりして」
「あれからもう4年も経つんだ、怒るも何もねぇよ」
「ふーん、そうなんだぁ」
「……もういいから寝てろよ」
「相変わらずなのね、稔」
つと身を離す佳子。少しの間をおき、続ける。
「私ね、今度結婚するの」
「……そうか」
「……ないの? おめでとう、とか」
「……おめでとう」
「ほんと、相変わらずね」
「わるかったなぁ……」
めんどくさそうに寝返り、背を向ける稔。その背中に話し続ける佳子。
「とにかく稔が元気そうでよかった……ね、あの子とのこと、ちゃんとするのよ。向こうは結構その気なんだから」
「お前に何がわかるんだよ……」
「半年も一緒に暮らせば大体のことはわかるようになるわよ」
「……なんか、大人になったな、佳子」
「伊達に年くっちゃいないわよ……明日、朝帰るから、ね」
「あぁ……って、金はどうすんだよ?」
「……ほんとごめん、ちょっと貸してくれるかな」
「……やっぱり子供じゃん」
稔の背中を小突く佳子の手は少しだけ震えている。それに気づかないフリをする稔。部屋の時計の針の音がやけに大きく響き、4年越しの和解の時を刻んでいた。




