第二十三話
なんだかんだいってもこうやってマンパワーかければ意外とイケるのよね。結局センター中のヒトの手を借りてここ二千年分の近畿地方の地殻運動のシミュレーションを作ることに。私がその上に史料上の記録をプロットしていって、データ不足の部分を補足するAIを仕込むのが稔くんの仕事。後藤先生と米澤さんは隅っこの方で件の数式をこねくり回している。
「にしても、なんでこんな簡単なこと思いつかなかったんだろうな?」
「入学する時に文系と理系を分けるからよ。ホント馬鹿げてるわよね」
「……まぁみんながみんなお前みたいな奴ばかりじゃないからな」
「あ、平安時代のこの地震、やっぱり規模が過小に記録されてるんじゃない? この程度じゃここの断層帯の歪みが開放しきれないってAIさんが言ってるし」
「ん? ってことはこの日時がズレてる記録、それぞれ別々の地震なんじゃないか?」
「あ〜、そうすれば辻褄が合うわね」
「……M7クラスがこんな頻度で起きてたなんて」
「っていうかホントにM7かどうかも怪しいものよね実際……」
にしてもやっぱり不足しているのが奈良と京都の地下構造データ。歴史的建造物が多すぎてロクにトレンチ調査もできていないし、爆薬を使った反射波による探査なんてもっての他。既知の活断層帯だって、不完全な史料とここ百年分の地震波解析からどうにかこうにか想定しているような代物だから、実際のところどんな化物が眠っているのか知れたものじゃない。
「せめて人工震源でも使えればねぇ」
「そんな予算ドコにあるんだよ? だいたいそんなもの運用できるの気象庁か東大くらいなもんだろ?」
「……長野くん、君たしか妙な免許持ってたよね」
突然背後から声をかけてくる吉田所長。そんなしたり顔してどうしたの?
「いちおう大型と大型特殊までは持ってますけど、それがなにか?」
「明日の深夜、大阪南港に東大発注の地下資源探査車が届くんだ、人工的に地震波を起こして地下探索するタイプの最新型が、船便で」
「まさか……」
「東大には“ウチの若いのに運ばせますよ、道知ってますし〜”って言っちゃったんだ。悪いけど取りに行ってくれるかな?」
「別にいいですけど、オレに取りに行かせるってことは……」
「そう、どうせまともなルートじゃ生駒山を越えられないから、旧道を使って奈良周りで来てくれるかな? ついでに何箇所か観測してみちゃったりして……」
「そんなことしたら大騒ぎになりますよ! 寺社まみれの市街地で未明からあんな大型震源車起動したら!!」
「いいのいいの、ついでだから。責任は向こうでとってくれるし、たぶん」
「所長って結構いい加減なヒトだったんですね」
「せーっかく君たちが欲しいデータを観測できる段取りつけたのになぁ……やっぱり止めとくかぁ」
センター中に響く声が二人分。
「やりますっ!!」
隅から負けじと上がる声。
「できたぁ!!」
「これは、すごいな……」
後藤先生と米澤さんの数式ができたみたい。なにがスゴいのかしら?
「いやな、この数式、いろいろな地域の地震の発生時期を予め想定できるよう組まれたようなのだけれど、精度が凄まじく高いんだ」
「ほら、ここ。陸奥の国の龍が“暴れる”時期が1530年、そして2670年と出ているの」
「2670年? そんな先のことなんですか?」
「あぁ、この年数表記は皇紀ね。西暦で言えば870年と2010年ってこと」
「えぇっ? それぞれ一年くらいしか違わないじゃないですか!?」
「な、すごい精度だろ。ほかにも海溝型の巨大地震や内陸部の大地震は大方想定できているんだ。これはとんでもない発見だぞ……」
「……じゃぁ、この2678年のは?」
「うーん、これだけはどこの龍か記述がないのよね」
「やっぱり……隠された龍がいるのかぁ」
とりあえず手持ちのデータとリソースで辿れるのはここまでのよう。気がつけば時計は22時を回っている。センターの皆もお疲れモードでぞろぞろ帰宅し始めた。みなさんホントお疲れ様でしたぁ、っていうかさ、
「……っ、家庭教師忘れてた!」
「……荷物っ! 警察まで取りに行かなきゃなのに!」
「……稔、悪いけど泊めてくれる? 何の準備もしないで来ちゃったのよ今日」
「ゑ??」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔が二つ並んでいる様子を眺める佳子さん。
「なんなのよ、あなたたち……?」




