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True or False? ~ 恋愛ゲーム?いいえ、参戦致しません   作者: 久條 ユウキ
IFルート(本編12話まで読了推奨)
20/20

後日談:遊園地に行こう

IFルートラストです。


「うーん……どうしようかな」

「どうしたんだい、珍しい。また妙な女に絡まれたとか、変な男にナンパされたとかそういうことか?」

「あ、兄さん。え、っとそうじゃなくてね」


 久遠紗夜18歳。

 ようやくこの愛しの妹に『兄さん』と呼んでもらえるようになった千晴は、もうなんでも言ってくれ、ドンと来い!という気持ちで向かいのソファーに座り、傾聴姿勢で返事を待っていたのだが。


 返ってきたのが「最近朔弥と会えてないから、どうしようかと思って」という相変わらずリア充爆発しろな内容だったことに、ため息をつきたいのを必死に堪えた。


(……確かに、桐生には最近仕事を任せっぱなしだという自覚はあるが)


 朔弥はK・S・Sを正式に退職し、今は桐生家の当主としての勉強も兼ねて千晴の仕事を手伝っている。

 元々は桐生朔弥という人物の顔を売るためにあちこち連れ回していたのだが、最近は彼独自の伝手を得たり自ら進んで社交の場に顔を出したりと、朔弥なりに名家の社交界でやっていけるようにと積極的に動き回っているようだ。


 加えて、紗夜は大学を卒業してから恩師であるシャーロット・リエ・クローディアスの研究室に助手として雇われており、調査の補助だったりレポートを纏める手伝いだったり、時には授業の助手まで務めさせてもらっているのだと聞いている。

 そんな忙しい二人だ、中々会う時間も取れずにいるのだろう。


 少なくとも半分は自分の所為でもある、という自覚もあった千晴はふと思い出して手帳をめくってそこに挟んであったチケットを取り出し、そして紗夜にこう提案した。


「それじゃどうだい、今度の休みに二人でデートに行ってみたら。桐生ならかろうじてまだ予定は入れていないだろうし、紗夜も次の休みならどうにかなるだろう?」




そして週末

思い立ったが吉日とばかりにすぐに連絡を取り合ったこともあって、時間を合わせた紗夜と朔弥は国内外的に有名なテーマパークに来ていた。


「また随分と意外性のあるお誘いでしたね。紗夜はこういった遊園地が好きなのですか?」

「ううん、正直あんまり騒がしいところは好きじゃないんだけど……兄さんがね、梧桐さんからここのファストパスチケットを貰ったらしくて。それに、ここなら()()()も待ち伏せしようがないだろうから、って」

「…………あぁ……なるほど」


 ファストパスというのは、乗り物などに待たずに乗れるという優先チケットのことだ。

 拓真のことだ、由梨絵のためにと購入してあったのがなんらかの理由で無駄になり、そこで千晴にと譲られたのだろう。

 千晴は千晴で、一緒に行く相手もいないものだからと紗夜にそれを譲ってくれた、というわけだ。


 紗夜も朔弥も、どちらかというと静かな場所を好む。

 本当なら植物園や図書館辺りでゆっくりと過ごす方が性に合っているかもしれないが、譲られたチケットということもあるし何より千晴の言うようにここには『邪魔者』が追いかけてこられない、というメリットもある。


 そう、未だ諦めた様子のない奈津美は暇を見つけてはしつこく朔弥に付きまとうか、もしくは紗夜に暴言を吐いて帰るということを繰り返しているのだ。

 何度追い返されようと、何度冷たくあしらわれようと、彼女はめげない。

 朔弥の態度は照れてるから、紗夜は悪役令嬢のお邪魔虫、そう主張して譲らないのだから、その思い込みの激しさには恐れ入るばかりだ。



(邪魔が入らない、というだけでもまぁよしとしますか)


 最近忙しくしていて紗夜に会う時間が取れていなかった、という自覚は朔弥にもある。

 だが今のうちに足場固めをきっちりしておかないと、いざ紗夜を娶る段階になって彼女にいらぬ苦労をさせてしまう可能性があるのだ。

 そうならないよう、名家との付き合いはそれなりに、この悪目立ちする綺麗な顔をいつ使うの?今でしょ!とばかりに社交界に顔を売りまくった。

 仕事上では千晴のサポートのみならず時には両親の実家であるシュナイダー、クリストハルト両家の方にも繋がりを持ち、そうしてようやく桐生朔弥という名を社交・ビジネス両面で知らしめるに至ったばかりだ。


 なので正直、息抜きとして紗夜とゆっくり出かけられるというのは、彼にとって何よりのご褒美だった。


「千晴様にお土産を買って帰らないといけませんね。ひとまずぐるっと一回りしてみましょうか?」

「うん」


 漸く笑顔になった紗夜に微笑み返すと、朔弥はお手をどうぞとごく自然に手を繋いでゆっくりと歩き出した。




 指を絡めるように繋がれた手。

 それぞれの右手薬指には、二人で選んだエンゲージリングがその存在を主張している。

 名家同士の婚約とあって豪華なものをと宝石店にはそう勧められたのだが、紗夜がまだ年若いこと、二人とも街を歩くだけでスカウトやナンパが寄ってくるほどの美形であることもあって、いつもつけていられるほどの控えめなデザインを、と指定して選んだものだ。

 そしてその言葉通り、二人はどこに行くにもこれを外さない。

 外すとすれば家に帰って風呂に入る時くらいだ。


 その同じ指輪をした二人が、時折同じショーウインドーを覗き込み、お土産を手に談笑したりしている光景は、『夢の国』に来ている人達をも一瞬夢から現へと立ち戻らせるほど絵になっている。


「思ったんですが、どうしてこういう所に来ると自分の名前を刻んだアクセサリーが欲しくなるんでしょうか?どこへ行っても長蛇の列ですし、そういったアクセサリーなら外の店でも買えると思うのですが」

「……やっぱり来場の記念に、って思うんじゃないのかな?特にその時期限定のものとかもあるだろうし」

「そうですね……まぁ来た人はそれでいいとしても、それをお土産にするというのはどうなんでしょうね?」

「さぁ……貰った人の好み次第っていう要素もありそうだから、なんとも言えないね。普段からそういったものに興味がない人だと、むしろお菓子とか消費できるものの方がいいと思うんだけど」


 当の二人はそんな『絵になる光景』などどこ吹く風。

 これはどうなんだ、あれはどうなんでしょう、と朔弥はビジネスを手がける立場から、紗夜は心理学を勉強中という立場からああでもないこうでもないと言葉を交し合っている。

 

 拓真や由梨絵などがこの光景を見たら、さぞかし夢がないと嘆くかもしれないが、だがこれが二人なりのコミュニケーション方法であり、何より彼ら自身が楽しそうなのだからそれでいいのかもしれない、と千晴なら苦笑しながらそう言ってくれるだろう。




「そろそろ食事にしましょうか?」


 と朔弥が立ち止まったのは、中央のイベント会場から少し離れたセルフサービススタイルのカフェ。

 テーマパーク内では定期的にあちこちでイベントが発生する為、そのイベント会場から距離のあるお店は昼時といえど比較的空いていた。


 紗夜も応じて中に入りかけたものの、ふと忘れ物を思い出したらしく「あ、」と一瞬固まった後、朔弥に先に入っていて欲しいと言い出した。

 どうやらせっかく買った由梨絵へのお土産を店のレジ横に置いたままだったらしく、まだ残ってればいいんだけどと言いながら「席、取っといてね」と可愛らしいお願いも付け加えて、前の店へと駆け戻っていった。


(紗夜が楽しんでくれているようで良かった………)


 騒がしいところを基本苦手としている彼女だが、まだ18歳という年齢の所為なのかそれとも意外と行動的なところがあるのか、遊園地にいても全く違和感はない。

 はしゃいだりすることはなくても、時折サプライズ的にはじまるイベントを目にしては楽しそうに瞳を輝かせているし、お土産店にいてもあれやこれやと見て回っている姿に疲れは見られない。

 積極的にアトラクションに乗ろうとしないのは、朔弥を気遣っているのかもしれないが、それを差し引いても楽しそうな笑顔を絶やさない彼女に心が温かくなった、そんな時



「あのー、お一人ですか?」

「良かったらご一緒しません?」


 二人連れの女の子が声をかけてきた。


 頭にはキャラクターの耳を模ったカチューシャ、手には写真撮影で使ったと思われるぬいぐるみ。

 いかにも『あたし達、今夢の国に来てまーす』といった装いだ。


(夢の国に来てまでナンパですか。ロマンがないですね……残念すぎます)


 夢の国というコンセプトなのだから、それらしい格好をするのは全然構わない。

 どういう楽しみ方をするかはお客の自由なのだから、年齢、性別など関係なく一時の夢に浸ってはしゃいだり騒いだりするのは、むしろ普通の楽しみ方だろうと朔弥もそう思う。

 だが、ナンパはいただけない。

 夢の国なら夢らしく、異性を見つけても遠巻きに騒ぐくらいに留めておいて欲しいものだ、と彼は呆れながらもいつも通り紳士的に隙を見せない態度で彼女達に向き直った。


「すみませんが、連れを待っているところなので」

「え、じゃあそのお友達も一緒に!こっちも二人だし、ちょうどいいかな~なんて」

「そうそう。もし人数が合わなくても、あたしらなら問題ないんで」

「いえ、そういう問題では……」


 ないのですが


 と、反論を途中で断念したのには意味がある。

 一つは、彼女達の『いかにも狙ってます』という肉食オーラに圧倒された為。

 こういうタイプはやんわり断り続けたところで、きっと話を聞いてはもらえない。

 そう、普段ああだこうだと言いながら全く人の話を聞かずにストーカー行為を繰り返す、あの柊奈津美と同種の匂いを感じ取ったのだ。

 奈津美と同種であれば、反論したり抵抗したりするのも面倒くさい。

 かといってこのままずるずると流されてしまうわけにもいかず、彼自身さてどうやって切り抜けようかと今この段階でも思考をめぐらせているところだ。


 もう一つは、一緒に来たのが女性だと告げた場合のリスク。

 奈津美と似たタイプだということは、相手の女性を中傷して去っていくケースがあるかもしれない。

 そうなった場合に、紗夜が傷つきはしないかとそれが心配なのだ。




「朔弥()()、お待たせ。……あら、こちらどなた?お知り合い?」


 するりと腕に絡んだ手の感触にハッと意識を戻すと、いつの間に戻って来たのか紗夜がすぐ隣で微笑んでいた。

 しかしその微笑はいつもの無邪気なそれではなく、実年齢以上の大人っぽさを感じさせるものだ。


 なるほど、と彼はすぐに状況を察した。

 以前奈津美と相対した時も、紗夜は『大人の余裕』を見せ付けるようにして挑戦的に微笑み、「婚約者なので手を出さないでくださいね」と牽制までして見せた。

 これもその応用なのだろう、朔弥が困っている様子が遠くからもわかったので、『大人の女性』を装って目の前の二人組を牽制しているのだ。


 それなら、と彼も絡みついた腕を優しく引き寄せながらとろけるように微笑み、


「いや。一人なら一緒にどうかと誘われたので、断っていたところなんだ。さ、それじゃ行こうか」


 と、普段の敬語を崩してその演技に合わせ、ぽっかーんと呆気に取られる二人組のことなどもはや忘れ去ったかのように、腕を組んだまま入りかけた店を後にした。




 女の子達が悪態をつく声は聞こえない。

 もう少ししたら何か言い合うかもしれないが、その頃には二人ともそれを聞ける範囲から出てしまっている。


 ある程度店から距離を置いてから紗夜は立ち止まり、そこで漸く朔弥の腕を放した。


「………緊張、した……」


 駆け戻った先に幸い忘れ物はまだ置いてあり、ホッとして店に戻ったら朔弥がナンパされていた。

 とにかくどうにかしなければと考えているうちに、以前恩師に聞いたことのある話をふと思い出したのだという。


『女ってのは、とにかく敵わないと思ったらそれ以上抵抗しないもんだ。機会があればやってみればいいさ』


 夢の国に浸りきる、そんな無邪気さに対抗するためには大人っぽさを。

 そう考えて奈津美の時のように年齢不相応な大人の余裕を演出してみたものの、やはり内心では緊張しきりだったようだ。



 そんな婚約者の可愛らしい素顔に、朔弥はもう一度手を差し出した。


「私達もお土産を買って帰りませんか?以前壊れたストラップの代わりになるような……お揃いのお土産を。紗夜のセンスで選んでもらえたら嬉しいです」

「朔弥がつけてても違和感なさそうなもの、あったかな?」

「さあ……?見に行ってみましょうか」

「うん」


 差し出された腕に、紗夜は先ほどのように腕を巻きつけた。


『カクヨム』版が意外と評判よかったので、IFルートということでこちらに転載しました。

お読みいただきありがとうございました。


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