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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第5章 地獄篇 グリード領ウルファンス山脈
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89話 持久戦

 「行くぞ!」


 そう言いながら、ソフィーが張っている結界を俺は勢いよく飛び出していく。

 スフィーは後続して俺についていき、ソフィーは魔物の視界から隠れた場所で、結界を張りながら待機する。

 俺は接近する魔物を無名の魔剣で退けて、スフィーは俺からある程度離れて遠距離攻撃を魔物に仕掛ける。

 ソフィーは隠れながら、これまた遠距離攻撃で魔物を撹乱させる。

 それが、あらかじめ3人で決めた戦闘のポジションだった。


 事前に強化した身体能力のおかげで、魔物に迎撃する時間を与えずに接近。

 足を大きく1歩踏み出し、腰辺りに構えていた魔剣をまっすぐ突き出す。

 俺の繰り出した先制攻撃は、吸い込まれるように白く小さき者達(ホワイトポーム)の分体の内の1頭へ当たる・・・と思ったのだが、スルリとすり抜けるようにかわされた。


 「こんの!」


 魔剣を突いた勢いを殺さないように前へ重心を置き、隙なく膝蹴りを入れる・・・が、これもかわされる。

 ・・・的が小さい。

 ひょいひょいと攻撃をかわしやがる。

 体が小さい分、身軽なんだろう。

 まるで空気を舞う埃みたいな動きだ。


 「当たれ当たれ当たれ!!」


 魔物達が素早く俺を取り囲もうとするので、手当たり次第に魔剣で斬りつける。

 だが、虚しくどれも空を斬る結果に終わる。

 やべえぞ。

 もうちっこい魔物が周囲にワラワラと展開してるし。


 突如、360度全ての方向からキリキリと音が聞こえ出す。

 ・・・取り囲んでいる全てのホワイトポームが、氷の小さな玉を生成していた。

 1つ1つの攻撃は小さいように見える。

 が、その数がやばいぐらい多い。

 これはかわせそうにない。


 「氷よ(イズ)!」


 氷の弾が、スフィーの手から連射される。

 その攻撃も難なく魔物にかわされるが、それでも周囲に固まっていた分体が分散する。


 ・・・うまい。

 魔物を散らせるように、最適の大きさで最適の場所に能力を放っている。

 おかげで無数の攻撃が中断され、逃げる隙が出来た。

 バラけた魔物の隙間を縫って、密集地帯から脱出する。


 「気を付けて!!」

 「悪い!」


 スフィーは能力をあまり多用出来ない。

 それは事前に聞かされていたことだ。

 だから、魔物に直接接近戦を仕掛けられる俺がリードしなければいけない。

 ・・・本来ならば、だが。


 この魔物の数に加えて、こっちの攻撃に対する回避率。

 スフィーとうまいこと相互補助しなければ、あっという間にこっちがやられる。


 俺は魔物にとって、最優先に狩りたい対象の筈だ。

 そんな俺が魔物を撹乱する。

 そうすれば、彼女達の方へ魔物が行くことは知能の低さから言って滅多にないだろう。

 俺は、俺がやられないように暴れる。

 スフィーは、俺がやられないように遠くで暴れる。

 つまり、ある程度はスフィーにもエネルギーを使ってもらうことが前提になる。


 俺自身が体を張っているので、今この場では1番リスクが高いしかなりツライ。

 しかも、そんな俺がここで1歩でも間違えて倒されたら、全てが瓦解する。

 彼女達にも危険が及ぶのだ。

 ・・・ここが踏ん張りどころだ。


 勝敗を競うならば、この持久戦は既に破綻していると言ってもいい。

 率直に言って、ジリ貧にしかならないからだ。

 魔物のクソほど有り余ったスタミナを考慮すると、長期戦ではこっちの負けは確実。

 言い方は気に入らないが、負けて当然なのだ。

 でも、今回においてはこの方法を取ることは間違いではなかった。


 別に魔物相手に勝てなくてもいいのだから。

 こっちは生き残って奥に進めればいい。

 その為の方法。


 それこそが今絶賛実施中の、魔物と魔物を戦わせよう作戦なのだった。




 ---




 「俺達が魔物と戦うのが無理なら、他の魔物と戦わせればいいんじゃないのか?」


 俺のその言葉を耳にして、あっ・・・と意外な答えが見つかったかのような顔をするスフィー。

 考えてみれば、これは当然の結論だ。


 俺達に倒せるはずもない相手を倒そうとするなら、それなりの奇策が必要だ。

 だが、今はスタミナもエネルギーも道具も何もかもが少ない。

 味方や支援も期待出来ず、おまけに戦う場所は密閉空間。

 こんなんじゃあまともに作戦もたてられない。

 そんな中で、俺達が・・・特に俺が起こせそうなイレギュラー要素。

 それが、魔物を呼び寄せて戦わせることだった。


 「確かにそれなら・・・いえ、でも仮にその場はなんとか出来たとしましょう。けど、その後はどうするんですか。」

 「その後って?」

 「魔物を戦わせるなら、まずは呼び寄せるのでしょう?なら、その時に余計に魔物が来てしまった時はどうするんですか」


 ああ。

 そういうことね。


 「魔物が集まるだけ集まったら、そのまま逃げればいいんだよ。多分、ある程度魔物が来ればゴタゴタして俺達が逃げたことに気付かないだろ」

 「・・・」


 スフィーは難しい表情をする。

 ・・・悩んでいるようだった。

 まあ不安要素があるのは俺も分かってる。

 けど、これ以外方法なんてないだろ。

 方法が他にもあるならぜひ教えて欲しいものだ。


 「こっちには気配断ちの結界があるんだから大丈夫だろ」


 言いながら俺はソフィーを見る。

 体力的にはまだまだいけるって感じだ。

 雰囲気的には余裕を感じる。

 子供ながらすげえな。

 姉のスフィーの方が、この状況に慌てているぐらいだし。

 俺と初対面の時はあんなに人見知りっぽかったのに。


 「ソフィーはまだ結界張れるか?」

 「うん。氷を使うよりは楽だもん」

 「なら問題ないか」


 実行は一応出来る。

 問題なのはむしろ姉貴の方だ。


 「・・・確かに魔物が来るまで、ホワイトポームを無理矢理留めておくことは出来るでしょう。幸い貴方は接近戦に比較的強いようですから」

 「魔剣で俺が魔物を引き付けて、スフィーが遠距離から俺をサポート。ソフィーが俺達が逃走する時の結界と、後出来れば戦闘補助。そんな感じでいけないか?」

 「いけないことはないです」


 俺の聞きたかった言葉だ。

 無理だと言われたら、もう俺にはどうしようもない。


 「色々言いたいことはありますが・・・ホワイトポームは弱点属性を使わないと、途端に強敵へ変貌する類の魔物です。その魔物に接近して戦うのは、貴方なんですよ?かなりハイリスクだとは思わないんですか」

 「そりゃあそうだけどさ・・・」


 今までの戦いを思い出す。

 悪魔や魔物達と戦った記憶。


 「リスクのない戦いなんて存在しないだろ。戦闘って行為自体が、結局は一種の賭けみたいなものだし」


 俺が思った1つの考え。

 シンプルかつシビアな事実。

 何にだってリスクは付き物だ。

 その時になってみなきゃ、なんだって分からないものさ。


 「やらなきゃここを出られない。このまま魔物と戦わずに通り抜けて、追ってくるホワイトポームと前から出てきた魔物のサンドイッチは嫌だろ?そっちの方がよっぽどリスキーだと思うけどな」

 「・・・」


 相変わらずスフィーは迷っているようだった。

 当たり前だ。

 命の懸かった選択。

 迷わない方がおかしいに決まっている。

 でも、ここで悠長に待っていることは出来ない。

 現場で求められるのは即決即断の姿勢だ。

 さて・・・答えはどのように返ってくるだろう?


 「お姉ちゃん。多分大丈夫だよ」

 「スフィー・・・」

 「お兄ちゃん強いもん」


 実際にはそんなに強くないけどな。

 ここではそんなことは言わないけども。

 一体どのシーンを見て俺を褒める気になったんだろう?


 姉は妹の真っ直ぐな視線にも困っているようだった。

 ・・・そうか。

 スフィーはソフィーに弱いんだな。

 そういう姉妹関係なんだろう。

 少し姉の過保護な面が見えているし。


 「・・・分かったわ」


 妹に少し甘い彼女は、一言仕方なそうにそう言った。




 ---




 果敢に魔物へ攻撃する。

 当然の如くヒラリとかわされる。

 結果、魔物の分体達に囲まれる。

 スフィーがそれをうまく散らし、それに乗じてまた俺が攻撃を仕掛ける。

 その流れが、さっきからずっとループしていた。


 「いい加減疲れてきたぞ・・・」


 結構息を切らしている。

 まだスタミナの余裕は残してあるものの、このままいけばかなり危うい。

 戦闘の始まりからかれこれ10分だ。

 普通に体を動かせば、全然体力は有り余っているような時間だろうが、生憎ここは戦いの場だ。

 平常時に比べて、戦いに使うスタミナは数倍に跳ね上がる。

 たかだか10分と言っても、なめてはいけないのだ。


 「氷よ(イズ)!」


 俺が魔物達の動きに対処出来るか怪しい場面で、今もスフィーは氷の能力で補助してくれている。

 が、スフィーの能力を唱える間隔も短くなってもいる。

 俺と同じで余裕がなくなってきているのだ。


 ・・・ここが引き際か。

 それとももう少し粘るか。

 ・・・粘らなければいけないだろう。


 ここで引いたところで、何にもならない。

 事態を悪化させて、のこのこスタート地点へ戻るだけだ。

 なら、このまま続けていた方がいい。


 「こっの野郎!」


 群がってくる小さな分体達を魔剣で振り払う。

 戦闘開始から1回も攻撃が当たっていない。

 コイツら聞いた通り、物理攻撃と相性が最悪だ。

 本当にダメージを与えられない。

 あわよくば、少しでも魔物の数を減らしたかったが、それも叶わなかった。


 攻撃には相性がある。

 弱点があり、耐性があり、優位がある。

 そうした関係性は素晴らしい程にバランスが取れている。

 何かが最も優れた要素などというのは、元々存在しないのだ。

 だからこそ、今の俺は苦戦しているとも言えるし、この戦いにおける希望を見出しているとも言えた。


 相性のセッティングは戦闘における基本だ。

 しかし、基本的なこと程、非常時において不安定なことはない。

 そんな基本的なことに振り回される俺達は、やはり弱いのかもしれない。


 それでも辛抱強く待った。

 今回のイレギュラーを。


 「「お兄ちゃん!!来るよ!!」」


 頭の中から唐突に声が響いた。

 ・・・テレパシーだ。


 戦闘に入る前の取り決めで、ソフィーが合図を送ることになっている。

 この合図が意味すること。

 それはつまり、ひとまずの希望到来ということだった。


 「強く打ちます!唱えたら離れて!!」


 スフィーがテレパシーが終わった直後に叫ぶ。

 彼女にも届いたのだろう。

 後、もう少しだ。

 

 足音がドンドンと響いてくる。

 氷の壁なので、余計に聞こえやすい。

 その振動に釣られて、小さな魔物達は全員動きが鈍る。

 きっと気配を感じ取っているんだろう。

 ここが狙い目だ。


 「老錬なる氷よ(イズ・マトラス)!!」


 氷の能力が唱えられる。

 マトラスの第2チャントが付加されれば、攻撃範囲は倍以上になる。

 ここにいちゃあ巻き添えだ。


 全力で攻撃から逃れるようにダッシュする。

 別の外敵の気配のせいか、意外と簡単に分体達の包囲網を突破出来た。

 その跡を埋めるように、俺のいた場所へでかい氷の砲弾が数発直進する。


 砲弾の軌道は、分体を直接狙ってはいなかった。

 ・・・当然だ。

 これも立派な物理攻撃なのだから。


 氷の能力も一応は属性攻撃に入っている。

 だが、それは氷を生成する過程にその要素が出ているだけで、唱えた後で生み出された氷の使い道は発射して敵に直接ぶつけるというものだ。

 だから正直な話、遠距離の直接攻撃に適した岩の能力を唱えていることと変わらないのだ。


 氷の能力のチャントは3段階から物を凍らせたり、攻撃の大規模化が可能になる。

 なので、スフィーの唱えている氷の能力は実質岩と変わらない。

 事実上の物理攻撃なのだ。


 当然スプリットタイプのホワイトポームにはそんな攻撃は効かない。

 が、そんなことは承知の上で数発能力を放ったのだ。

 ・・・分体達の丁度目の前へ、強く炸裂するように。


 氷が魔物達の目の前で、凄まじい勢いで割れる。

 まるで透明で綺麗な爆弾だ。

 パキャンと大きく音を出しながら、炸裂した場所を中心に強風を巻き起こした。


 結果、複数のホワイトポームはある場所へ纏めて吹き飛ばされる。

 大きな空洞の一番奥・・・出口付近だ。

 そして、そこにはアイツらがいる。


 複数の魔物が、こちらめがけて真っ直ぐ突き進むのが遠目からよく見えた。

 容易に進撃する魔物達を捉えられたのは、感覚を強化しているおかげだ。

 こちらへ迫ってくる魔物達はやっぱりというかなんというか、殺しあいながら走っていた。


 爪を立てて、激しく蹴りあい、噛みつき、千切る。

 それでもアイツらは止まらない。

 普通の生物のタフな面を、何倍にも濃縮させたかのようなタフさ加減だった。


 いくらなんでもあれを相手にはしたくない。

 冗談抜きで、あっという間にゲームオーバーだろう。


 しかし、俺達の元へたどり着くには少し時間がかかるだろう。

 ホワイトポームは、新たに進撃してきた魔物と俺達を挟んだ場所に位置していた。

 今までさんざんチマチマした氷攻撃で俺をいたぶってくれたんだ。

 ここで大きな盾になってもらおうじゃないか。


 俺の予想通り、ホワイトポームの分体は一か所へワラワラと集まりだす。

 このまま分裂した状態でいれば、凶暴な魔物達に蹂躙されることは目に見えているのだから。

 

 白い小さなその毛が、1本1本細かく異様に動き出す。

 他の分体に体当たりするかのように体をぶつけると、毛が絡み合っていく。

 そうして出来た1回り大きい体をさらに大きくすべく、仲間達に体をぶつける。

 最終的に出来上がったその体格は、大型トラック1台分にも匹敵する大きさだった。


 「でかい・・・」


 合体した後の姿を見て、すぐに理解する。

 これを倒すのは無理だわ。


 見たところ動き自体はとろい。

 が、耐久力と攻撃力だけでみればまるで別物だろう。

 細かい動きをする相手には不利ではあるが、大勢を相手にするならこれほど適した体もないだろう。


 「ガアアアァァァア!!!


 それを見ても魔物達は止まらない。

 倒せる自信があるからか・・・それともバカだからか・・・。

 こっちとしてはいい迷惑なのは変わらない。

 なんで魔物ってやつはこんなに凶暴なんだよ。


 「「早くこっちへ来て!」」


 呆けてる俺に、テレパシーでソフィーはせかしてくる。

 そうだな。

 ここでのんびり敵を観察していた俺が悪い。


 ホワイトポームは迫りくる複数の敵に。

 魔物達は邪魔なホワイトポームに殺気を放っている。

 どちらも障害だと認めた証拠だ。


 お互い意識がそっちに向いている。

 チャンスだ。

 魔物に気付くかれないように隠れるまたとない機会。

 俺達はまさにこれを待っていた。


 俺は来た道を逆走して、気配断ちの結界へと素早く入り込む。

 スフィーはもう結界の中で待機していた。


 「遅いよ!」

 「すまん!ついつい魔物に見とれてた」


 魔物も合体するのだ。

 初めて見る光景だったから、好奇心が働いてしまった。

 仕方ないだろ。

 合体は色々な意味で男のロマンであり、夢だ。

 女性の悪魔には分かるまい。

 ・・・ダゴラスさんなら分かってくれるだろう。

 まあ、命を懸けたこの場面じゃあ全部言い訳だろうけど。


 後方を急いで確認してみる。

 魔物は来ていないようだった。

 きっとあそこで戦いあっているんだろう。

 岩が死角で見えないが、魔物が来ないってことはそういうことだ。

 それに確信を持たせてくれるかのように、でかい戦闘の音が空洞内に満ちていく。


 「さっそくやってるな」

 「このまま同士討ちしてくれると、非常にありがたいんですが・・・」

 「きっと無理だろ。どう転んでも1頭は残りそうな感じだけど」

 「でも、それでもいいんでしょ?」

 「ええ。洞窟に住んでる魔物はみんな強いもの。ただで負けてくれるような魔物は少ないわ」


 そう。

 この魔物同士の戦いで、みんな死んでくれなくても別に問題はない。

 弱って戦闘が終わったその隙に、最後の1頭へ最高の攻撃を食らわしてやるのだ。

 それが俺達に出来る最善の手だ。

 それで最後に残った魔物が倒れてくれなかったら、もう逃走するしかない。

 出口めがけて走るしか、もう生き残る方法はなくなる。

 だから、今は全力で頑張って殺しあってくれることを祈っている訳だ。


 それにしても疲れた。

 緊張感があると、その場では疲労感が溜まりにくいことが多い。

 それが一気に解放されると体が結構やばい。

 全身がだるくなっていく。


 「ふう・・・これでひと段落だな」

 「まだ安心しないでくださいよ。ここを抜ければ敵が出ないルートへ行けるとはいえ、油断は禁物です」

 「そうだよ!気を抜いちゃあいけないんだよ」

 「分かってるけどさ、1番の山場は超えた訳じゃないか」

 「それでもです」


 ・・・そうだな。

 ごもっとも。

 ただ、俺は安心感が欲しいんだよ。

 リラックスしていないと、どこかでミスしそうだから・・・


 油断しないこと。

 緊張感を持っていること。

 スフィーとソフィーの主張。

 それは正しかったと、俺は後になって思い知ることになる。

 むしろ、スフィー達はもっとその意見を強く主張するべきだったのだ。


 俺はすっかり忘れていた。

 魔物について、重要なことを。

 そして基本的なことを。


 それは、空洞に残った最後の1匹の魔物を見て思い知ることになる。


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