88話 複数の魔物
白く小さき者達
常に集団で行動する、珍しいタイプの魔物。
通常、魔物は群れない。
自分以外の全てが、自分を高める糧でしかないから。
自分の本能を満たすためのエネルギーでしかないから。
もちろん、ホワイトポームは共食いなんてことはしない。
ただし、魔物なので味方という認識もない。
複数で群れる魔物という自覚もない。
・・・複数で構成される1頭の魔物だからだ。
群れる魔物には、主に3つの分類がある。
群れる魔物の分類その1・・・ファミリータイプ。
魔物の誕生方法は色々あるが、その中でも純粋な繁殖を行って生み出した魔物。
普通の魔物は繁殖なんて行為はしない。
だが・・・例外が2つある。
魔物が魔物を生み出す理由は、大半の理由が力を得る為の捕食対象を確保するためだ。
弱い魔物であれば、外界からやってくる強い魔物を捕食することが必然的に困難だ。
その為に、何の変哲もない原生種を強姦して孕ませて・・・或いは妊娠して、魔物の子供を作り出す。
子供といえど、能力を持った魔物であることには変わりない。
だから、自身を強化する無抵抗な材料としては、最高級にあたるだろう。
それが例外その1。
そして例外その2。
本当に珍しい魔物ではあるが、自身の子供を作り出す理由が、自身の忠実な僕の獲得である場合。
これは、心を動かす能力を持っている魔物にしか見られない行動だ。
魔物の子供はまだ自身の本能が薄い状態にある。
別な言い方をすると、これは心を操ることが容易いということでもある。
戦闘に活用出来ないレベルであることが多い、魔物の心を動かす力。
例え実践で使えずとも、産まれたての子供を洗脳するくらい訳ない。
時間の経過と共に、子供は洗脳され、成長し、親に依存しきった手足のような存在となる。
まさに親子コンビになる訳だ。
ただ、そこには親子の絆と呼ばれるものは存在しない。
結局は子供は親に捕食される運命にあるし、それまでは道具のようにこき使われる。
・・・哀れな存在だ。
その哀れな親子コンビこそが、ファミリータイプと呼ばれる魔物だ。
群れる魔物の分類その2・・・パラサイトタイプ。
その名の通り、相手の体に寄生するタイプの魔物だ。
昆虫型の魔物がこの性質を持っていることが非常に多く、時には自分の触手を使って複数の魔物を同時に操る奴もいる。
寄生先の肉体から力を徐々に奪い取り、吸い尽くすと他の寄生先へ移動する。
方法は様々で、他の生物に食べられることで寄生したり、自身の種子や卵を産み付ける魔物もいたりする。
個人的には極めて気持ち悪い話ではあるが、こと自然界においては寄生するという行為自体は珍しくもなんともない。
魔物は例外だとしても、元々は自然界を生き残り、自身が繁殖する為の知恵だ。
そしてその特徴を引き継いだ魔物が、パラサイトタイプと呼ばれる。
群れる魔物の分類その3・・・スプリットタイプ。
自身の体を分散させるタイプの魔物で、周囲の策的範囲を広げたりして効率よく獲物を探したり、有機的に連携して攻撃を仕掛けたりする。
分裂している体は、よくRPGなんかで見るようなスライムなどの粘性タイプがいたり、霧状の体を持ったタイプのものだったりと色々だ。
ホワイトポームもスプリットタイプに含まれていて、さっきも言ったとおり集団でありながらも、1頭の個体として成立している。
分裂している1頭1頭の個体に戦闘力はさほどない。
単体であれば、楽に倒せるだろう。
なのに、何故スフィーはこの魔物を警戒するのか?
聞けば、あの魔物の怖いところは合体にあるのだという。
あの白いフワフワの毛は、厳密に言うと毛ではなく触手の一種らしい。
合体する時に、1つ1つの触手を絡めて繋ぎ、体を巨大化させる。
姿を隠しながら敵を倒したい時は体を分散させて、戦闘態勢に入る際は体を統合させて戦うのだ。
体を不定形に変化させて戦うため、戦うにはそれなりのコツがいるらしい。
スプリットタイプの魔物を相手にする時は、分散させた体を一気に叩けるような、規模の大きい全体攻撃を仕掛ける必要がある。
それも、物理的な攻撃ではなく属性の要素を伴った攻撃をだ。
打撃攻撃や切断攻撃などの物理ダメージは体を切り離して対処するので、あまり効果がないからだ。
使うのなら、やはり能力だ。
雪山に住む魔物は大概火に弱く、ホワイトポームも例外じゃない。
精神に作用する能力や、火の能力が特に有効なのだが、マズイことに俺達にはそれらを扱えるような技量は持ち合わせていない。
スフィーとソフィーは氷の能力が主な攻撃手段だし、火の無名魔剣を使おうにも攻撃力が少なすぎる。
氷の能力で攻撃しても、氷を扱う魔物としてその手の耐性が極端に高いため、無駄なエネルギーの消費に終わるだろう。
魔剣でホワイトポームを1頭ずつ斬り燃やしていくことも、あまり現実的じゃない。
圧倒的な数で翻弄されて終わるだけだろう。
しかも、手持ちの魔石はもうエネルギー切れだ。
彼女達もクズ魔石しか持ち合わせていない。
実質この小さな魔剣は、ただの剣になってしまったってことだ。
つまり、スフィーが言っていたこの魔物がヤバイというのは、俺達にはコイツを倒し切れる手段がないからヤバイということを言っていたのだ。
火さえ使えれば、そこまで苦戦する相手ではない。
火さえ使えれば、だが。
仮に戦闘をしないで、無理矢理逃げたとしよう。
まず、魔物に見つからずに先へ進むことは期待出来ないので、逃走したとしても魔物に追われながらになるだろう。
そうなると、連鎖的に魔物に発見されることになるから、もうこれはギャンブル感覚で脱出することになる。
出来れば俺も彼女達もそんな運任せに命を賭けたくはない。
では、どうするのか?
正直、作戦タイムを発案した立場の俺はあらかた魔物の特徴を聞いたくせに、何も良案らしい良案を思いつくことが出来なかった。
魔剣が使えない。
彼女達の能力も効かない。
逃げるのはアリだが、先に進むのなら魔物に発見されるのは確実。
本当に色々な意味でうまく逃げないと、仲良く3人魔物の腹の中に納まってしまうだろう。
さあ、俺達には打つ手がない。
・・・どうしよう。
「どうしようか?」
そう俺は質問していた。
それを聞いた姉妹2人はあまり嬉しそうじゃない顔をする。
せっかく話したのに、何で私達に聞いてくるの?って顔だ。
「何か、人間的な考え方で妙案が出てくるとも期待してたんですが・・・」
「悪いな、何も思いつかなくて」
「いえ、別に謝るほどではありませんが・・・」
・・・俺にも罪悪感はある。
これだけ細かく魔物について説明を受けたにも関わらず、何も返ってこないのは俺もどうかしてると思う。
さっきから必死に考えてるのだが、全く良案が思い浮かばない。
何せ、こっちの実行出来る戦闘手段がどれも効果なしときたもんだ。
氷の能力に対する耐性と言っても、微量にダメージは与えられるから戦闘が成立しない訳じゃない。
ただ、魔物を倒すのは絶望的というだけであって・・・
言い方を変えると、それは時間稼ぎが出来なくはないということでもある。
うまくこれを利用出来ないかと思う訳だが、うまいこといかなそうな感じがする。
「魔物を倒さないで逃げたとして、出口までどのくらいかかる?」
「・・・恐らくですが、走っても1時間はかかりますね」
「私、あんまり速く走れないかも・・・」
「だよな・・・」
ソフィーのことを忘れてはならない。
いくら悪魔といえど、まだ子供なのだ。
俺達大人でも体力的にキツイのに、子供が走れる訳がない。
いや、身体干渉系の能力があればまた話は別か?
「自分の体とかを強化したり出来るか?」
「全然出来ないの」
「駄目か・・・」
なら、ますますあの空洞で魔物を倒さなければいけなくなる。
ソフィーを背負って走ってもいいが、多分俺の方が先にスタミナ切れでダウンするだろう。
謎の力で強化した俺なら問題ないだろうが、今は生身の人間だし・・・
「恥ずかしながら、私は氷の能力と回復の能力しか使えませんし、ソフィーの方は同じく氷の能力と気配断ちと物理の2種結界の能力。私達が使えるのはそれだけです」
「むう・・・」
可能なことがかなり限られている。
戦闘手段が少ない。
「・・・俺達だけじゃ無理だな」
そう結論を出した。
それを聞いて、姉妹の顔は少し歪む。
俺達の力だけでは対処出来そうにない。
何か、それ以外の要素が必要だ。
って言っても、味方が駆けつけてくれるなんてことはテレパシーが出来ない今の状況では期待しない方がいい。
助けてくれることを考えるよりも、今あるもので何とかすることを考える。
これが苦境を乗り越えるコツみたいなものだ。
「お母さんがいてくれたら・・・」
ちょっと泣き顔でポツリと言うソフィー。
さっきから強がってはいるが、やっと年相応の顔になった気がする。
それが泣き顔なのが残念だけど。
「大丈夫、大丈夫。何とかなるよ」
俺を見ながらスフィーはソフィーの頭を撫でて、遺憾無くお姉さんっぷりを発揮する。
俺を見るなよ、俺を。
でも、やっぱり俺達だけじゃあそこを通るのは無理がある。
あの道を切り抜けるんなら、俺達とホワイトポーム以外の第三の存在がどうしてもいる。
この洞窟には何がいる?
・・・魔物がいる。
むしろ魔物しかいない。
「・・・そうか」
ここでいきなり閃いた。
曇っていた思考にサッと光が射す。
何で思いつかなかったのだろう?
そういう選択肢もあるじゃないか。
と言うか、それしかないように思える。
少なくとも、俺はこれ以外の方法を思いつかない。
聞いた話じゃあ魔物は仲間を作らないらしい。
自分以外は全部エサだと思っているからだ。
さっき聞いたファミリータイプ、パラサイトタイプ、スプリットタイプだってお世辞にも仲間とは言えない、自分本位みたいなものだ。
ってことはだ。
魔物同士はどいつもこいつも敵対関係にあるってことじゃないか。
俺達以外の勢力・・・といえば、この洞窟にはやっぱり魔物しかいない。
でも魔物同士は対立しているから、簡単にひとくくりにしちゃあいけない。
そして、ここには魔物がかなり潜んでいる。
言ってしまえば、その魔物達も、俺達も誰1人として味方がいない状態なのだ。
みんなみんな敵同士なのだ。
仮に、2頭の魔物の前に俺達がいるとする。
2頭の魔物はそれぞれ別の意思をちゃんと持った別種だ。
もちろん、魔物達の獲物は俺達3人。
当然食おうと猛烈に迫ってくるだろう。
でも、そこで引っかかる。
俺達を襲う過程で、2頭の魔物は協力プレイをするだろうか?
「・・・思いついたかも」
「え?」
スフィーがキョトンとする。
まあ、いきなり言っちゃえばそうなるか。
「あそこを通る方法?」
ソフィーがそのまんまの意味で聞いてくる。
真っ直ぐ見つめるその目に対して、俺は返答する。
「一応はな。けど、本当に有効かは分からない」
多分、俺の考えはあってると思う。
が、確信と言えるようなものはない。
だから聞くのだ。
俺よりもよっぽど魔物について詳しいこの姉妹に。
「・・・聞かせてください」
俺はその言葉に対して黙って頷いた。
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戦闘の直前。
ホワイトポームがワラワラしている空洞の入り口。
小さな魔物達からは、丁度死角になっている氷の壁に俺達は隠れていた。
俺がこの地獄に来てから行ってきた戦闘は、殆どが突発的な、または時間的余裕がないものだった。
心の準備なんてありはしない。
だから、こうしてじっくりと敵の様子を見ながら隙を伺うのはちょっと新鮮だった。
戦闘の合図をするのはスフィーの役目だ。
魔物の動きに詳しい彼女がやるのが1番いい。
そうみんなで判断した。
「もう一回言うけど、戦いはしても勝つことはないんだからな」
「はい」
「うん」
俺の注意に対して、それぞれ返事をする。
ソフィーはさっきまでの泣き顔が嘘だったかのように、真剣な表情に変化していた。
どうやら妹の方はどうしようもない状況に泣きたくなっていたらしく、この過酷な状況自体に根を上げていた訳ではないらしい。
・・・この子は強い。
普通の子供であれば、泣きじゃくって何の生産性もない行動を起こすところだろう。
それに、頭の切り替えも早い。
俺が思いついた意見を言った途端に、表情が変わってたし。
親の子供に対する教育が相当だっていうことの証だ。
これが終わったら、逆の意味で親の顔を見てみたい気もする。
それを叶おうとするなら、今の困難を乗り越えなくちゃならない。
何も、俺達は魔物を倒す目的を持ってる訳じゃない。
ここから脱出することが第一優先だ。
生き残ることこそが優先事項。
故に、この場で命を張る必要は全くないのだ。
今回俺達がすることは時間稼ぎ。
その1点だけだ。
程よく攻撃して、程よく逃げる。
それを繰り返して、時間を出来るだけ長引かせることに集中する。
魔物を見ると、それぞれの行動には一定の規則性があった。
元々は1頭の魔物だ。
別に不思議なことじゃない。
その規則性からうまく隙を見つけるのが、スフィーのやるべきことだ。
そして・・・
「今です!」
彼女の思い切りのいい声が結界内に響く。
魔物のキョロキョロしていた視線が、殆ど俺達とは逆の方向を向く。
全部ではない。
だが、それでも魔物の反応速度はいくらか遅くなる。
そこを狙って、俺達は走り出した。
「行くぞ!」
俺の声を皮切りに、戦闘が始まった。




