28話 悪魔の生活20~認定書~
~これから固有能力を獲得する修練を積む、悪魔達のための本~
この本を地獄各地に住まわれている魔王様達に、或いは執行所各地で配られた若き悪魔達よ。
私は、君達の今まで得てきた経験と知識を総動員して、死力を尽くし修練をする時を迎える、そのことを喜ばしく思う。
そして、そんな君達を文字という間接的な方法とは言え、私が関われることを誇りに思う。
もちろん修練をこれから受ける君達自身も、尊大に誇っていい。
君達が、固有能力の獲得寸前の境地までいったこと自体が評価に値するからだ。
ここまで来たのなら、慢心することも無いだろう。
私は安心して君達を賞賛することが出来る。
だからこそ、これからもずっと前を向いて精進して欲しい。
自分の持つ能力の限界まで挑み、自分の知らない能力に触れ、自分の経験していない能力の扱い方を学んでいく。
なんと素晴らしいのだろう。
可能性とはかくも美しい。
この本は、そんな君達が学んできた能力の基本的なことについてが書かれている。
また、能力の使用に際して重要と思われる魔物や、魔具などについても一通り解説が載っている。
この本に書かれていることは、殆ど君達が知っている知識ばかりだろう。
だからこそ、この本を見て欲しい。
見て、感じて欲しいのだ。
君達が今まで学んできたことについて書かれた本書は、修練の中で道に迷った、或いは転んでしまった時にそっと助けてくれるだろう。
ある時は道しるべに、ある時は杖に、ある時は盾になってくれる。
本書が何に化けるかは君達次第だ。
だから、存分に本書を化かして欲しいと私は思う。
さあ、自分を信じて進むのだ。
道は必ず開ける。
この世界が君達を見守ってくれている限り。
※ボルド・ジャクラスランド 著
・能力について
能力とは、元々地獄にあった文字の、ルーン文字を基盤として行う神秘の一種である。
ルーンは全部で25文字あるのだが、それぞれ一文字ずつ意味を持っていて、元々は悪魔側で使っていた文字だ。
現世にも文字の形だけは伝わっている。
能力は、地獄に生まれた悪魔、もしくは地獄で長年生きた長寿の生物にしか発現しないので、人間には使えない。
能力の使用は、精神のエネルギーと等価交換で発動される。
使いすぎれば、記憶障害、全身麻痺、感覚損失などの副作用が能力使用者本人に襲い掛かる。
以上の理由により、幼少の悪魔には能力を使わせられないため、成人してからの使用が強く推奨されている。
エネルギーの回復には、時間経過による自然回復か、魔石のエネルギーによる回復かの2種類の方法がある。
さらに、能力は主に3種類に分けられ、自然干渉系、身体干渉系、運命干渉系の3つに分けられる。
能力の性質や特性として威力や規模を増大、縮小させたり、また、陣やルーン文字の直接表記によって負担を軽くすることが出来たり、既存の25通りの能力以外の現象を発現させたりすることが出来る。
その内の25通り以外の現象発現は、成人した悪魔にも一般には公開されていない。
既存の25通りの能力以外の能力とは、2種類以上の能力を掛け合わせて使用する能力のことを言うのだが、これは大変制御が難しく、成人した悪魔の中でも能力が一定水準以上に扱いが向上している悪魔でないと、大変発現に危険が伴う能力であるためだからだ。
さらに、その分リスクを背負っても望ましい効果が得られるとは限らない、まさに能力の上級者のための能力である。
25通り以外の現象発現を再現する能力を、総称して固有能力と言う。
以下に従来の25通りのルーン文字である種類と効果を記す。
・自然干渉系能力
KEN(火よ) 火を起こし、様々な形態へ変化させる。
RAD(風よ) 風を起こし、様々な形態へ変化させる。
LAGU(水よ) 水を起こし、様々な形態へ変化させる。
IS(氷よ) 氷を起こし、様々な形態へ変化させる。
ING(大地よ) 土を起こし、様々な形態へ変化させる。
SIGEL(太陽の誉れを) 周辺に存在する自然の要素を集約させる。
HAGAL(流転すべき雲の力を) 雲を操り、それに関連した様々な現象を引き起こす。
EOLH (隠遁の壁よ) 生物の五感を遮断、または惑わせる結界を作り出す。
GEOFU(送り物を) 物体を、送り先に設定してある場所に転移させる。
FEOH(奪え) 物体の持っている熱やエネルギーを奪う。
OTHEL(守りの壁よ) 物体を直接遮断する結界を作り出し、弾いたり閉じ込めたりさせる。
WYNN (その本質を表せ) 物体の持っている元々の本質を表に引き出す。
・身体干渉系能力
EOH(簡捷なる俊足を) 足を強化し、俊敏性を底上げさせる。
YR(再生と調和の光を) 怪我などの治療を行えるようにする。
UR(蹂躙されいく心に力を) マインドコントロールなどの精神干渉に対する耐性を作り出す。
ANSUR(意思よ) テレパシーを相手に送る。
THORN(巨人の如き腕を) 腕を強化し、腕力を底上げさせる。
BEORC(育め) 自身の特定の部位を一時的に成長させる。
NIED (必要な物を分け与えろ) 自身のエネルギーを相手に分け与える。
TIR(勝利の想像をその手中に) 自身、または相手を興奮に近い状態に変化させる。
MANN(心を常に読み解く者) 悪魔が元々持っている、相手の心を読むことに長けた力。
JARA(経験を読み解く者) 相手の経験してきたことを読み解く力。
・運命干渉系能力
???(???) ???
???(???) ???
???(???) ???
以上が25通りのルーン文字、その全てである。
これ以外のルーン文字は存在、または現存していない。
・チャントについて
上記で記載した能力の威力や規模、効能を上げさせることの出来る補助効果を付けることを、チャントと言う。
チャントは全部で5段階存在し、その段階分だけ効果などを上げることが出来る。
以下は、チャントの段階とその効果である。
1段階 LABOR(使役する)
2段階 MATURUS(老練なる)
3段階 MAGNAS(大いなる)
4段階 SPIRITUS(霊性なる)
5段階 DOMINUS(主の)
以上である。
なお、チャントに該当する文字は、ルーン文字とは異なる霊性の残る文字で、記述したチャントの意味や性質は、あくまでチャント単体のものであり、補助する能力の種類によって柔軟に意味合いや性質を変えていく。
基本的な効果は段階ごとの威力上昇や規模の増大ではあるが、中には能力の追加効果が現れたり、全く別の能力に発展するものもある。
一般的には、自然干渉系能力への補助効果付加が1番純粋に威力や規模の効果を底上げするものが多いと言われている。
身体干渉系能力に入ってくると、威力や規模の効果を底上げするものだけではなく、別の付加効果や能力の現象に変化が見られてくる。
運命干渉系能力については公開されていない不明な点が多いので、ここでの記述は控えることとする。
そして、殆ど例外なく全てのチャントに共通して、上の段階に上がるにつれ、能力を使う際の負担が増大されることが確認されている。
・固有能力について
固有能力は、従来の25通りある能力から、2つ以上の現象を統合して全く別の現象を発現させる能力のことである。
固有能力は、そのまま現象を発現させることも可能ではあるが、大概は自身が扱いやすいように自由に加工して使用するのが一般的である。
これは、そのまま固有能力を使用のは大変制御にエネルギーを使用してしまうため、少しでも自身が扱いやすい形態に変化させて、エネルギーのロスを減らす工夫から来ている。
固有能力の再現は大変難しく、補助能力であるチャントの第2段階まで完璧に付加できる能力にのみ、統合前の能力として使用できる。
また、チャントとの併用も可能ではあるが、著しくエネルギーの消費を早めてしまうため、使用には大変注意が必要である。
固有能力の種類については、使用出来る悪魔の能力の加工次第で膨大に分別が出来てしまうため、本書では記載しない。
・武具の能力所持について
地獄で生産された武具は、生産された場所、元となった素材、職人による直接付加などの要因によって、武具単独で能力を獲得する場合がある。
それら能力を獲得した武具を、魔剣、魔槍、魔弓、魔盾、魔鎧などと呼び、上述した全ての能力、チャント、固有能力をそれぞれ持っている可能性がある。
あくまで、エネルギーの消費は武具所有者本人が全て受け持つため、武具がエネルギーを肩代わりする訳ではない。
しかし、武具にあらかじめエネルギーの消費を抑える陣を書き込むことによって、常時負担を抑えるという使い方は出来る。
また例外として、FEOH(奪え)が持つドレイン効果のある特殊な能力が付加された魔具や、その他特殊な加工がされている魔具などは、エネルギーの消費を必要としない場合がある。
能力が付加されている、現在公開された武具の総数から見れば、自然干渉系能力が付加された武具が1番多い。
次いで身体干渉系能力が付加された武具の数が多いのだが、この段階で希少性は格段に上昇する。
運命干渉系能力が付加された武具は殆ど存在しない。
チャントが付加された武具はかなりの数で存在しているが、段階が上がるにつれて希少性が上がっていく。
最大の補助効果をもたらすDOMINUS(主の)級ランクのチャントが付加された武具は、地獄の歴史上で7つだけ確認されているのみである。
固有能力が付加された武具は、生産段階で能力が付加された武具を、元々持っていた能力とは別の能力を長期間通し続けることによって、2つの能力を獲得するに至った物である。
所有者自身が熟練の域に達していることと、長期間能力を使用し続けることが、武具の固有能力獲得の前提であるため、地獄の市場に出回ることは滅多に無い。
そういった経緯を持った固有能力持ちの武具は、代々武具所有者の家系に受け継がれることが一般的である。
代を重ねることによって能力に磨きをかけていくのである。
地獄に生息している魔獣も同様に、全ての能力、チャント、固有能力をそれぞれ持っている可能性がある。
魔物は、地獄の生態系を壊しかねないほどの力を持った生き物であり、同じ生息圏内に住んでいる魔物と対立、拮抗しながら各地に生息している。
魔物は、他の天敵となる魔物を優先的に捕食する傾向があり、魔物自身が現時点で生息する生態系をみだりに乱すことはしない。
他の魔物の捕食を優先する理由としては、魔物を捕食することによって得られる能力の獲得に起因する。
能力を持つ魔物が、魔物を捕食することによって得られる能力獲得は、悪魔の種族には無い特性であり、魔物だけの特性として認知されている。
捕食した魔物の能力によって獲得する能力が異なり、自身と同じ能力を持っていた場合はその能力にチャントの補助効果が付き、別の能力を持っていた場合は固有能力の獲得に繋がる。
そうして長く生きながらえた魔物は、武具の素材として加工されると、能力を持たせることが出来るようになっている。
・地獄に住む生物の種族解説
この地獄には、総数が把握出来ない程多種多様の生物や、魔物が生息している。
地を練り歩いていたり、水に生息していたり、翼を持って空を飛んだり様々だ。
魔物は火を吐いたり、異常な速度で走ったり、結界を張ったり通常の生物の成しえない行動を起こす。
そんな生き物達の種族を、大まかに分類したものを以下に記す。
なお、生物1匹1匹を解説した一覧は、数が膨大なので本書では記載しない。
原生種 悪魔やその他の地獄に住む知的生物によく知られている通常の生物。稀に魔物に変化することがある。
変異種 悪魔やその他の地獄に住む知的生物が把握していない、または通常の生態系に該当しない超常の生物。悪魔の使用する能力を習得している生物の総称。通常の魔物はここに含まれる。
幻想種 悪魔やその他の地獄に住む知的生物が思い描いた想像上の生物。
生物の想像を参考に、闇の器が変化したタイプか、純粋な闇の器が原生種などの下等生物を捕食し、姿形を奇異なる姿に変貌させたタイプの2種類がいる。
悪魔の伝承や伝説に登場する魔物の中でも特別な、竜などの生物がここに含まれる。
種族の中でも上位のランクにあたる。
概念種 世界のルールが存在することが、直接の要因で生み出される生物。
知的生物の思考では捕らえきれない光や無、闇、混沌の存在がここに含まれる。
邪悪種 変異種の中でも、固有能力やチャントを複数所持した状態で、元々の生態を大きく逸脱した生物。
通常の魔物に対して捕食などの行為を行い、存在の格を上げることで、別の生物へ昇華した強大な魔物がここに含まれる。
ランク的には神聖種に及ばない。
知能を獲得している場合が多く、言葉も話す魔物もいる。
神聖種 変異種の中でも、特に概念種に影響を受けて存在の格を上げた高位の生物。
概念種の力を借り、自身の持っている能力と掛け合わせて複雑な固有能力を操ることが出来る。
ランク的には幻想種と同等かそれ以下。
創造種 地獄に住む生物の中でも知性が突出して抜きん出ており、他の生物には見られない、世界への生産性を示すことと同時に貢献をすることの出来る生物。
悪魔やその他の知的生物(魚人や吸血鬼など)がここに含まれる。
以上である。
さて、君達がこれまでの経験で覚えてきたことはもっとあるだろうが、本書のページはここで終わる。
能力に関わる基本的なことのみを纏めて記載した本書を、これから行う修練の時だけに活用すると言わず、その先に待つ様々な出来事に遭遇した時にも使って欲しい。
必ず役立つはずだ。
振り返るという行為は、自分の残してきた道を再確認するということだ。
確認を常に怠るな。
そうすれば君達が進むべき道から外れることは無くなるだろう。
常に恐れるな。
そうすれば君達を支える体は、進むべき道を歩むためにしっかりと支えてくれるだろう。
そうなることを、私は心から望んでいる。




