27話 悪魔の生活19~チャントと固有能力~
4日目の夜。
暖炉の火が揺れるこの部屋での会話の内容は、最早定番といえるほどの説明口調が主体のものだった。
「この本はね、限られた悪魔にしか発行することが許されない本なの」
マリアさんはそう言った。
目の前に建造された、倒壊の危険性を孕んだ物を指差して。
塔のように垂直に積まれた本達を横目で見ながら、俺も返答する。
「・・・限られた悪魔って、どんな悪魔のことなんですか?」
「分かりやすく言えば、自分の扱える能力を一定水準以上まで練り上げた熟練者・・・と言えばいいかしら」
能力の熟練。
人間には、得意なことと苦手なものがある。
悪魔にも同じことが言えるのかもしれない。
熟練ってことは、つまりそう言うことだろ?
ようするにアレか。
この認定書ってやつは、現世で言うところの資格みたいなものだろうか?
ある程度能力を認められているから何々してもいいですよ、という許可を取ったタイプのものか、それとも次なる能力の向上に向けてのステップアップを記した本なのか・・・
俺の理解出来ていない表情を見たマリアさんは、察して話を続ける。
「例えば・・・私はもちろん、ダゴラスなんかもこの本を読んでるんだけど、別に何かの許可を取った訳ではないわ。ダゴラスだって認定書を持っていなかった時期でも、何かの制限を受けた訳でも無いし」
「ダゴラスさんも持ってるんですか?」
「そうよ。だってそうじゃなきゃ、この家にこんな大切な本を置いとかないわよ。ちょっとした間違いで見ちゃうかもしれないでしょ?」
マリアさんは、本を手に持って軽く叩きながら言う。
まあそれもそうか。
限られた悪魔にしか発行されない認定書らしいもんな。
「でも、そんな大切な本を俺に見せていいんですか?」
同胞の悪魔だって見れる奴が限られているのに、俺が読んでいいのか判断に迷うのは当然だろう。
いや、マリアさんが読めといっているからには読んでもいいそれなりの理由があるだろうが、でも不安感は払拭出来ない。
マリアさんが付いているから大丈夫だって訳でも無いだろうし、どういうことなんだろうかね。
そんなことを考えながらの質問に、俺の頭は鈍くて堅いことを思い知らされるような一言を、マリアさんに聞かされた。
「だって君は能力を使えないでしょ?もし仮に他の悪魔に本の内容を教えようとしても、他の悪魔達とか、魔王様とかが気付いちゃうだろうし」
ああ・・・そうだったな。
俺が能力を使えることは無いだろうってこと。
「この本はね、能力の真髄についての解説が書かれてあるのよ」
「真髄・・・ですか」
「そう。能力と言うのは元々ある25文字のルーン文字の核とする神秘の一種よ」
「それと似たようなことは森でダゴラスさんから聞きました」
「多分、ダゴラスが話したのはそこまででしょ?」
・・・その通りだ。
能力は3種類、25通りの効果をもたらす超常の力、と言うことだけ聞いた。
その先に何かあったのだろうか?
まだ聞かされていない何かが。
俺が聞かれたことに対してうなずくと、マリアさんはやっぱりね、と言いたそうな顔をした。
「でもね、能力というのはまだまだ威力が上げさせることが出来たり、変化させることの出来る特性を秘めているのよ」
「・・・25種類以外の能力もある?」
「厳密に言うと、基本は25種類であってるんだけど、それ以外の基本カテゴリーから外れた能力というのがあるのよ」
おお・・・
まだ他にも能力があるのか。
いや、闇の器の捕食者と戦った時にダゴラスさんは言っていたな。
大いなる火よと。
「また聞いてもいいですか?」
「いいわよ。どうぞ?」
「えーと、確か火を操る能力がケンって言うんですよね?」
「あら、火のルーンなんて知ってたのね」
「森でダゴラスさんが使ってるところを見たもので。それでその火の能力なんですけど、同じ呪文っぽいのに急に威力が強くなった気がしたんです。それって今マリアさんが言ったようなことですかね?」
「それは基本カテゴリーから外れた方の能力では無いわね。それとは別にある、基本カテゴリーの能力を底上げする、ランク上げのチャントを使ったのよ」
「チャント?」
何だそりゃ?
チャントって言ったら・・・エンチャント?
ゲームでよくあるような、属性付加とかそんな感じの。
「知らない?詠唱とか、祝詞とかのことをチャントって言うのよ」
「詠唱・・・呪文のことですよね、きっと」
「厳密には違うけど・・・まあ合ってるといえば合ってるわね」
じゃあ微妙に間違ってるのか?
どうにもはっきりしない物言いだな、マリアさん。
「つまり、ダゴラスが森で唱えたのは自然干渉系能力の威力を底上げするチャントだったんだと思うわ」
「・・・と言うことは、チャントはあくまで元々合った能力を強化するものって覚えとけばいいんですね」
「そうそう。後、魔物とかも能力をチャントする術を持ってるのよ」
「魔物もですか」
「そうなの。だから、こういうことも覚えておいて損は無いと思うわ」
俺は魔物にはあまりいい印象を持っていない。
そりゃそうだ。
殺されかけたんだから。
そんな魔物が、ダゴラスさんの放った強力な炎の玉の威力を再現出来るのか・・・
凄い恐ろしいんですけど。
いや、もしかしたら、そんな能力をあの戦いの中で何気に使っていたのかもしれない。
あの魔物は強かった印象があるからな。
でもまあよかったんじゃないかと思う。
こういうことを知ってるのと知っていないのでは、大違いになることが多々あるし。
今教えてもらったことを、知っておいてよかったと思える日が来るかもしれないな。
いや、そんな危険な場面は来て欲しくは無いのだが・・・
「それじゃあもう1つの、基本カテゴリーから外れた?能力っていうのは何なんですか?」
「それはね、既存の能力と能力を掛け合わせて発動させる能力なのよ」
「おお!」
能力を合体させることも出来るのか!
能力ってのはやっぱり夢があって面白い。
合体なんて男のロマンじゃないか。
合体攻撃・・・何て素晴らしいんだろうか。
「能力を発現させた後の現象は、殆ど現世の物体法則と同じだから組み合わせる能力は現実的なものでなくてはいけないの」
「ん?」
なんだかしみったれた話になりそうだな。
「仮にだけど、火と氷を合わせたらどうなると思う?」
「えーと・・・氷が解けて、水になります」
だよな?
「そうね。でも、元々水の能力を司るルーンは存在してるっていう話はしたわよね。クリーニング屋さんの」
「しましたね。」
「2つの能力を掛け合わせるっていうことは、掛け合わせる前の能力が本当に熟練の域に達していないと出来ないの。けど、そんな苦労をして掛け合わせても、元々単一の自然干渉系能力で存在しているものが結果的に出来上がってしまうのなら、単純に自然干渉系の能力を使った方が負担も少ないからデメリットになってしまうわ」
「・・・なるほど」
急に夢の無い話になってしまったのは残念だ。
残念だが、理解は出来た。
2つ掛け合わせの能力を使うのなら、掛け合わせた結果として起こる現象を理解していなければならない。
ならば、元々の能力も十分に熟知していなければならないだろう。
もし、考え無しに2つの能力を掛け合わせる能力を行使したのであれば、空回りに終わる確立がいつでも付いて回る。
何にでも言える事ではあるが、効果的なものを、効果的な場所で、効果的な時に使わなければいけない。
そんな運用が求められる難しい能力なんだろう。
「んーこれは微妙な話なんだけどね、能力の発動にはこの世界から提供された力の源である、ルーン文字が使われているでしょ?だからルーン文字で起こした能力は、結果として発動した能力から自然界に影響を働かせている現象を起こしているの」
「・・・はい」
「一方掛け合わせの能力は、すでに現象として成り立っている単一能力要素を取り込んで操作、再構築し直してっていうプロセスをとっているから、単一能力による現象を起こしたのとはまた少し違うのよ」
・・・難しい話だなぁ。
妙に理解しにくいし。
単純にいうと、合体攻撃ということだろうか?。
とりあえず、俺なりの解釈をマリアさんに言ってみようか。
「んーと・・・つまり、自分から能力を直接出したか、一旦出た現象から別の能力をちょっと手を加えて作り出すか、ってことですか?」
「まあ、そんな感じじゃないかしらね」
どうやら当たっていたようだが、マリアさんの返答が結構適当に聞こえたのは、気のせいだということにしておいておこう。
どうせ正確な解説をされても、完全には理解出来ないだろうし。
「そんな微妙なことで、種類が別れるものなんですね」
「微妙なことがめぐりめぐって、別の物に変わることなんて沢山あるわ」
そのとおりですね。
それに、俺がそんな微妙なことで種類が分かれる、なんて口にしては何だかおかしい気がする。
何かを種類分けすることについては、最も人間が行ってきたことの1つであり、最も得意なことの1つでもあるのだから。
「今言った2つの能力を掛け合わせる能力を、自分用にアレンジして技に昇華させるのが能力の達人なの。そう言う能力のことを、3種類の系統に含まれる能力とは別に、固有能力何て呼ばれてたりするわね」
固有能力の技か・・・
まあ能力をそのまま出しても、それはただ力を出しただけで技としては成り立ってないからな。
応用なり何なりして、技に変えていくんだろう。
さて、かなり色々なことをマリアさんに教えてもらった訳だが、今回のオチは果たしてどこに行くのだろうか?
まあ、何となく検討はついている。
「で、今さっき言った固有能力なんかを使う悪魔の上級者や、達人のための物がこの本ってことですか」
そう言うと、嬉しいような顔をして、マリアさんは頷いたのだった。




