ピンクな娘。
「まさか……、そんな!
この僕が、勇者と見間違うなんて!」
盛大な勘違いを行った赤目の魔族、頭を抱えながら、
自発的に赤っ恥を言い放つ。
「ありえない!」
まあ、確かに自信満々だったしなあ。盛大な自爆である。
人差し指、びしっと突き出して食べようとしてたし。
転じて、となりの元ひよこ、はといえば。
「むぅうう!」
どこをかじられ損なったのかはわからないが、無傷でお怒りのようだ。
頬を膨らませながら、ちびじゃないもん、などと、
両手でカインの服、の端っこをすんごく引っ張っている。
そのため、上下左右に、カインの体は揺れまくりで
視点が定まらぬ。ピンク頭のツンツンが、視界に
入ったり、入らなかったりしている。頭の軸がぶれまくりで具合が悪くなりそう。
というか、やばい。服が。
「おいおい、チビ」
「ちび言うなっ!」
「一張羅の服が破れるだろ、着替えなんて持ってないんだぞ」
「むぅう、ハゲだの、服が破れるだの、もう!
もう! もう!」
「お前は牛か」
思ったことを口にすると、声もなく頬がリス並の袋状になり、まるで風船、
ますます赤く染められていく。
ダメだ、てんで話にならない。
「バカーバカー」
「カバーカバー」
「むぅうう!」
チビだからか。どうも、カインの対応も上から目線でおざなりになってしまう。
チビは、赤目ではない。金色の目をしている。
だから魔眼ではないし、無論、高位の魔族でもない。魔力を感じないからだ。
カインのような下っ端でも魔力は持つ。だが、このチビにはその
欠片さえ感じられない。したがって、このピンク頭のチビは、魔族ではないのだ。
真っ白の旅姿。目が痛くなるほどの純白の外套を身にまとっている。
隣でうんうん唸っている糞ガキとは対照的な色で、ある意味
識別しやすいが、しかし、魔力を持たないので、
まるで人間のように見受けられる。
その重要性に、はたと気づいたカインは、チビの顔を凝視する。
「ん、お前、チビ助」
「んん! 男じゃないもん!」
「ああ、それはなんとなくわかるけど。
そうじゃなくてだな、お前……」
いや、その考えは危険だ。
だが、と。
ちらり、と魔族のガキンチョのほうを見やる。
曲がりなりにも、未だ苦悩して考える人ポーズを
そこらの石ころの上でとっている高位魔族が、勇者なるものを、
見間違うとか。そんなこと、ありえるのだろうか。
「人間、ならすべからく、勇者の可能性があると思うが……」
「リリは人間じゃないよ」
「ん?」
「悪魔だよ!」
「はあ?」
片手を思いっきり、びしっ、と上げて高らかに宣言してくるピンクの悪魔。
まさか、カインの前に存在するとは……、魔界にとっては珍しい、悪魔が。
「あ、悪魔? はあ、お前が?」
「そうだよ!」
えっへん、と胸を張って鼻息荒く言ってるが、
どう見ても魔力のない人間にしか見えない。
いや、そもそも、悪魔って。
「……なんだそりゃ」
としか、カインは言いようがなかった。
なんせ、悪魔なんて。
魔界広しといえど、なかなかお目見えしない一族であるからだ。
基本的に、人間の裏に住まう存在。人間から欲を引き出して、
たぶらかす。快楽の友である。
悪魔の本質、といわれればそれまでだが、だからこそ、気まぐれな彼ら一族、
私のような魔族よりも、人間らのほうが、悪魔と直接遭遇する率が高いのだ。
普段より人間界への入り浸り具合は半端なく、ある意味、人間大好きな一族である。
したがって、上記の理由などにより、魔界にはさほど姿を晒さぬ一族であるため、
あえて魔界で遭遇するなんて、びっくり仰天なのである。
むしろ、人間界で悪魔と会いやすいはずだ。
しかも、こんなチビ。いやはや、こんなチビな悪魔が、存在するのだろうか。
また、確かに、
人をたぶらかす悪魔らしく、二重でお目目ぱっちりとした金目で、
顔の形は悪くなく、ピンクの長い艶やかな髪、ふくらませた成果か、
りんごのように赤くなっている両頬、それら含めて全体的に可愛らしい。
誰がどうみても、将来がとんでもない美女になる下地はあり、
人間たちを誘惑するであろうことは自明の理、ではある。が。
しかし。
じっと、見下ろすと、
ギロっ、と見返してくるピンクの悪魔。チビ助。
顔は可愛いが、可愛げがない。
「なあ、そろそろ服を引っ張るのをやめないか」
「やーだよーだ」
同じ金目であるというのに、どうしてこうも、素直じゃないのか。
カイン、ひっそりとため息をつく。
近くで蠢く、黒いローブの高位魔族を、視界の隅で見張りながら。




