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「……人間?」

「ところで、なんで頭にひよこ乗せてるんだい?」

 鳥頭であることを主張してるの?」


確かに、ひよこを頭上に住まわせる魔族はさほどいるはずもないが、

人間、という、どこかリーズを彷彿とさせる言葉に

疑問を感じ、麗しき薄幸の雰囲気をばらまくが、

無駄に毒舌も散布する少年の顔をまじまじと見つめる。


「ああ、あんたと、一緒に居た奴だよ。ほら」


どうやら説明してくれるらしい。


「いけすかない人間さ。

 ずいぶんと、魔界の端々をうろついてたみたいだけどね……。

 気配は感じていたが、いい加減ウロウロされると邪魔くさいからね、」


そう言いながら、つい、と袂を上げ、

その細長い手首を差し出し、天に向けて手のひらを向けた。

案の定、紫たっぷりの霧で覆われている。


「はあ、まったく。

 夢、幻のごとく、煙のように消えていた。

 僕が実際に消したわけじゃないから、どうにも居心地が悪くてね。

 祖父がまた、しゃしゃり出てくる可能性を考慮すると、

 魔界の半分が焦土と化しちゃうし」


恐ろしいことをサラっと言っているが、

さすが、好き勝手にやる化け物である。

そのほとばしる魔力をどうとでも活用して、あからさまに見せつけてくる

こともあれば、あえて暴走して人間界にまで影響を与えることだってあった。

幸い、目の前の人形のごとき容貌の少年は、そういった類ではないようで、

その器に魔力を閉じ込めているようだが、

それでも、その外見やたっぷり威圧的な上から目線、

そして何よりもその赤目から鑑みるに、

その秘めたる力は、豪語する程度に、嘘ではないのだろう。

実際、ブツブツと、じんましんのごとき、妙な汗が、主人公カインの

背筋に大量発生している。対面しているだけだというのに。

魔力を感じないのに。得体のしれぬ化物を相手にしている気分だ。

実際、化け物だが。


「ということで、ね」


少年は、物憂げな流し目をしてきた。

たちまちに嫌な予感がする。


「聞いてみたいんだ。ねえ、知ってる? 奴がどこにいるのか」


圧倒的な命令口調。

初対面での無情な体験が呼び覚まされ、

ふざけるな、と言いたいところであった。だのに。

ぎょっとした。


「……い、」


脳の命令系統の最上位が、奴であることを、

知らしめられる瞬間であった。動くのだ。自我を見捨てて。

口を閉じようとするも、


「どう?」

「いいえ……」


拒絶しようと踏ん張るも、ダメだった。プルプルするだけ。

二の腕も、下唇も、ピクピクとするだけ。


「……そうか、どうしても知らないか」


カイン自身の自我と、上位からの命令、

どちらが勝利をしたか。よくわかった。

私は、とてつもなく、魔族の本能を震撼した。


「はい、存じ上げません」


私は口唇を動かし、少年の問いかけに答えていた。

戸惑う。そして、途方にくれた。

プライドが焼け野原になっていた。内心を振り返るまでもない。意気消沈するまでもなく、

焼け焦げているし。ずいぶんと見晴らしがよくなったものだ。


「くくっ……」


その様子に、少年はいたく満足いったらしく、

口の端を上げて笑っている。何やら、いたずらが決まって嬉しい、

いたずら小僧のような顔をしているが、私は、足元に穴があって、

現在落ちてるような感覚に陥っている。何これ。勝手に喋るって。

また、操られている? 


「……何をした?」


幸い、問いただすことはできるようだ。

私は口元を抑えながらも、失礼にならないよう、

というか、相手が不機嫌にならないような質問をする。

化物の顰蹙を買いたくはない。

すると、少年は、いかにも楽しそうな表情を、その顔に浮かび上がらつつも、

興味深そうに笑みを深める。


「へぇ、気づいていないのか。

 ……まあ、そうだね。

 これは、魔眼の作用とか、操っているとか、そういうことじゃないよ」

「……何?」

「……なんだと思う?」


なんだろう。微妙な苛立ちを感じる。

……だが、ここで不興を買うわけにもいかぬ。

沈黙した。すると、そのことにも非常に楽しそうで、

一応、大人、としての努力でさえも、少年はとても喜ばしいといった風に、

ニヤニヤとした緩みを唇に作った。


「まだ、気づけない?

 僕、魔界に属する、生きとし生けるものすべてに、命令をすることができるんだよ」


は?


「僕は、魔界の王だからさ」


おかしいな。

今日はまだ、夜ではないというのに。


「そうだよ、もう、夜だよ」


ぼんやりとしていただろうか?

いや、そんなはずはない。

だって、まだ、夜になるにしては、時刻の経過がおかしい。

影が、見えない。

薄暗い視界。周りの空気が、おかしい。

少年が言った通りに、あっという間に、周囲の景色が、

真っ暗な、黒い、風景に移り変わった。

漆黒のカーテンに、さっと、勢いよく引かれてしまった、

かのような風に。

少年の声だけが、よく聞こえる。


「僕にとって、この夜空は心地良い。

 君みたいな、裏切り者には、好ましからぬもののはずだけど」

「う、らぎり?」

「そうだよ、

 君は、人間を引き連れて、魔界の首都にまでご案内しちゃったじゃないか」


だから、


「僕、魔界の天候をめちゃくちゃにしておいたんだ」


なぜ、そんなにも喜色な顔でいられるのか。

よくわからない。

ただ、赤い目が、急速に絞られ、


「そうそう、たぶん、推測でだけど。

 そのひよこ……、だよね?」

「は、」

「勇者」


人差し指を突きつけられる。

カインの頭を指し示す、その細い指先。

そうして、ふふん、と二の腕を組んで、

ふんぞり返る少年。いや、魔界の王?


「ここまでお膳立てしたんだ、

 もう負ける要素はない」


さあ、と、両手を広げる高位の魔族。

とっぷりと真っ暗な夜に、その赤い瞳がギラギラ煌く。

なんだか、とっても、魔界の王、いや、魔王っぽい。

(本当に、魔王みたいだ……)

などという感想を抱くカイン。いまだ、ぼんやりしていた。

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