表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/56

満点の夜空。と、ひよこ。

夜になった。

……夜になった。

働かぬ頭と、懐にある小さい毛玉を持て余しながら、

冷えた大気に体を震わせていた。

やはり、毛布一枚では、いくら魔族でも厳しい。

自然の冷凍庫、のごとき寒さに、

魔族、すっかり鼻づまりを起こしている鼻先を、

人差し指でつつきながら、白い吐息を吐き出す。


「ふぅ」


まったく、嫌になるというものだ。

なんでこんなところにいなければならないのか。

それもこれも、あいつと出会ったせいかもしれない。

そう、あいつ。

えーと、誰だっけ。リーズか。

しかし、あいつと出会わなければ、私はキルベアに

メッタメタにされてたであろうし、食事にもありつけなかった。

私の財産といえば、この毛布と干し肉ぐらいで、

食事の残量は着々と、魔族の寿命の短さを表していた。


(本当なら、今頃、酒を飲んで、飲んで、飲んで、

 寒空のした、自分の部屋に帰宅途中のはずだった。

 それが、どうしてこんなことに)


後悔、とか、する間もなく、魔族は、ぐるぐるとした

めまいを覚えるかのような、苦い痛みを、

妬み嫉みを、その、大して普段使っていない脳を活用して

考えていた。それしかやることがない、といえばそれまでだが。


(同僚とか、腹いっぱいの食べ物で、胃を満たしてるに違いない。

 くそっ!

 なんで、こんなヒモジイ思いをしなければならないんだ……)


わけがわからない、とでも言いたげに、魔族、頭を振った。

が、左右に振ったところで、良いアイディアなんて浮かばないし、

背後の聖剣が気がかりになって仕方ない。

少なくとも、魔の者には近寄ることができぬ、破邪の剣でもあるのだ、

こんな狭いところによくもまあ、突き立てて、魔族、魔獣、魔物はびこる

冥土の森に飛び込んでいったものだ。

絶対、魔族のことなんて忘れているに違いない。間違いなかった。


(てことは、やっぱり……)


ごくり、と、生唾音を立てて飲み込みながら、主人公、

イモムシのようにずりずりと前進し、

恐る恐る、眼前の絶壁を見下ろした。

決して、立ち上がって見晴らしの良さを確認する、なんて

ご無体なことは決してしない。するわけがない。


(ぐぬぬ……、

 と、飛び降りるとしてもな……)


さすがに、そんな命知らずなことはできなかった。

どう考えても、魔族の体はえらいことになる。

そんな、とんでもない目には遭遇したくはなかった。

イモムシから、四つ足動物のようにして、

さらなる情報精査に取り組もうと、じっと、真っ暗な

冥土の森の暗黒を見つめる。本当に、一寸先は闇であった。

数メートル先程度しか、見えない。

夕方から、夜にかけて、ずっと外にいたのだから、

自然と、夜目にも慣れてきたが、しかし、

それでもこの暗がりよう。まったく、天変地異でもない限り、

この事態が急変することはありえない、のだけは間違いなかった。

魔族、いつまでも変化のない下界の様子を見飽きて、

すっと、元の定位置に戻る。ずりずりと、カタツムリよりは早く、

神の杖の一枚畳しかない地面に、しっかりと手足をつけて。

いつもの場所に戻った魔族、ほっと、安堵の息を漏らす。

さすがに、この暗闇で暗黒を覗くのは、勇気のいることだった。

いくら魔族でも、命知らずではないのだ。


(夜、はかなり冷え込むが、しかし……、

 凍死するほどでは、なかったな……)


幸いにも、懐のおとなしい毛玉が、思ってたよりも、

暖かいのが幸いしたらしい。

こいつ、ヒヨコかと思ったが、

と、ちらりと毛布の中、魔族の腕の中で毛玉毛玉している

ヒヨコを見つめる。ふわふわとした肌触りで、

心地よい毛並みであった。いや、毛並み、というべきなのか?


(案外と、鶏ではないのかもしれない。

 こんなにも、暖かいし……、)


とりあえず、魔族、あまり体を動かすことをしないようにして、

明日のことを考えた。


(よし、明日の朝、干し肉をすべて食べ、

 そうして、体力をつけて、降りるとしよう)


頷くが、実際のところ、それしか方法がなかった。

飢餓状態になったら、このヒヨコともおさらばしてしまうだろうし、

そうなると、この夜を過ごすなんてことはできないのは必須であった。

なんせ、暖房をみずから食べるのである。

それに、飢餓で見境なくなってしまった魔族が、

一体どんな行動を起こすか、我ながら、恐ろしいことだと、身震いをした。


(とにもかくも、

 明日だ、明日)


食べ物だってそんなないという、実に絶壁なこの地で、

魔族、四方八方、満点の夜空を見上げた。


「ふー……」


真っ白い、細く吐き出した息を天にくねらせながら、

毛布を体に巻きつけ、何を見つめているのか分からぬその

金眼を天上に晒す。映り込むものは、綺麗にきらめく、

星の光。宇宙の輝き。


「ま、でも……、

 死ぬ前に、この夜を見られるなんて、

 僥倖といえば、僥倖か」


皮肉な笑みを珍しくたたえる魔族、

口の端をにやりとあげながら、

そんな憎まれ口を叩く。


「魔界の首都であったら、こんなにも美しい空を、

 目にすることなんて、一生なかっただろうなあ……」


時折、すっと黒い空に吸い込まれる、彗星の尾っぽを見つけては、

魔族は、その似合わぬ笑みをさらに深めた。

基本、魔界の空が明けるのは、

朝だけである。

だから、魔族にとって、この空は、何事にも耐え難い、

珍しくもある光景であるし、それに、本に記載されていた、

星空というものを直接目にすることができ、自然とご満悦の

表情になったものである。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ