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非常食。

「ぴよぴよ」

「うるせぇ……」

「ぴよぴよ」

「うぜぇ……」

「ぴよぴよ」

「あの、もう少し静かにして貰えません?」


下手に出ても、ダメだった。ひよこ。メス。

どうも、魔族の言葉は理解できないらしい、

黄色い小鳥。鶏の子供。そのつぶらな瞳で、

純粋に見つめ返してくる。


「ぴよぴよ」

「はぁ」


魔族、そんなひよこを手の平で持て余していた。

さすがに、いくら腹が減っているとはいえ、

こんな腹の足しにもならなそうなもの、食べる

わけにもいかない。醤油もない。

それに、現在、特に底冷えが吹きすさんで堪える。

風が、出ているのだ。神の杖、と呼ばれるらしい、この地。

魔族にとって、なんと忌々しい名称であることか。

それを尻に敷いてるのは、剣山に座っているのに等しく、

かといって、こんな四方八方切り立った地から、人間みたいに

ジャンプして任意の飛び降り自殺を図るわけにもいかない。

ボロっとした鎧に爽やかな笑いを努力するリーズ、

深い傷はさしあたっては負ってはおらず、

元気過ぎて、むしろ自分の武器である剣を忘れ、

神の杖から飛び出す始末。

そういえば、あいつ、この地に剣ブッ刺して平気なのだろうか……、


「……」


空は、太陽が出ている。周りは、紫の霧が、以前と取り巻いている。

にしても、当面の問題は、

この、手乗りひよこである。状況変化はなし。


「ぴよぴよ」

「……」

「ぴよぴよ」


ずっと鳴いているのだ。

動くこともせず、ただ、魔族を見上げて、鳴いてばかり。

ぶるり、と魔族は体を震わせる。

さすがに、寒くなったのだ。武者震いではない。

やはり、ここは、毛布一枚では寒かった。

いくら太陽が目と鼻の先、頭上とはいえ、

この全身流れる血液を冷やす寒波のごとき、

押し寄せてくる冷えからは、逃れられなかった。

それは、ひよこも同等であろう。


「……」

「ぴよぴよ」

「……」


魔族、無言で、ひよこを、毛布の内側に入れ込む。


「ふぃよふぃよ」


ひよこ、声が篭るためか、若干の音程の変化が見られたが、

しばらくすると、その温もりに適応したのか、

だんだんと鳴き声を出さなくなった。昇天してはいない、

単に、眠りについただけのようだ。

うとうとと、2、3日風呂の入っていない、くっさい魔族の内側では

あったが、やはり、ひよこであったとしても、

キツいものがあったらしい。しばらく動きがなかったが、

とはいえ、あの爺さんのひよこである、

それなりの寒さに耐性はありそうだが、船を漕いで、うっすらと

薄目になりつつあるひよこ、それはそれは。可愛らしい。


「……ふっ、非常食め……」


しめしめ、と言わんばかりの悪い顔で、魔族、

にやりとする。

二の腕ごと、ひよこを毛布の中へ、

そうして自分は首だけ外界に顔を晒すぽんちょスタイルに推移

したので、魔族の見た目は頷けるほどではないが、

少しはこれで温もりを逃がすことを減らせるだろう。

とりあえず、寒いものは寒いので、気分を紛らわせることにした。


「……手羽……、ササミ……、

 親子丼……、唐揚げ……、

 ……そうだな、

 焼き鳥なんてのも……」


呟きながら、魔族、自分の腹の具合が気持ち悪いから、悟りを開いた

かのようになっているのを我ながら不憫に思いつつ、

人間への責任転嫁は忘れない。


「あの野郎……、 

 どこまで飛んでいったんだ……」


ひよこと魔族、しばし、そうやって寒さに耐える。


「頭のほうは悪くはないはずなのに……、

 何かが……ズレてるんだよな、アレ……」


改めて、紫ばかりで、ちっとも下界の様子の拝めぬ、

あたりを見下ろす。

やることがないというか、それしかないので、

致し方ないが、次第に苛立ちもする。

なんせ、背後の聖なる剣も、神の杖とかいうネーミングの

この場所も、

魔族にとって、こういった敵対要素の上にいること、

それは薄氷に乗っかっているようなもので、

なんとも心細いものなのである。特に、自分は中途半端に

貧弱な魔族である。悲しいことに、魔王軍の中でも、

下っ端。基本、酒場で管を巻くのが仕事である。

剣を持つなんてこと自体しないし、たまーに、

自主トレーニングをこなす、強そうな、というよりも、

マゾ的な魔族もいるにはいるが、彼らは自分にしか眼中が

いかない変態なので、下っ端なんてゴミのように目に入らぬ

存在である。

……などと考えると、やっぱり、おかしい魔王軍であった。

軍隊としての職務を果たしていない、といえばそれまでだが。

これで、給料をもらっているのだから、まあ、

文句は言えない立場ではあるが。


「ふぃよ……ふぃよ……」

「!」


すわ瀕死か、こんな小さい鶏肉では小さい唐揚げにしかならん、

と思いつつ、内側で身をひそめるひよこを慌てて確かめると、

ただの寝言のようだ。魔族の懐で眠りにつくひよこ。


「ちっ……」


口腔内に瞬時に滲んだ、唐揚げの味。

新鮮なレモン汁をぎゅっと引き絞り、揚げたての熱々に

かけて頬張ると、脂がほどよく舌下を絡めて刺激してくれる。

さすがに酒のツマミであったため、

よくその味わいは覚えていたが、しかし、

この苦痛は計り知れない。ごごご、と小さい地響きのような

腹痛を抱えつつ、魔族、ぼーっと、していた。

考えたら負けである。ひよこ。

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