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あの世からの呼び出し礼状。

「で、リーズ、問題は、この崖だ。

 どうやって登ってきた」


訊ねると、人間、ハトが豆鉄砲を食らったかのような顔をする。


「……なんだ、何が可笑しい」

「え、いや、笑ってはいない、

 ただ、なんでそんなこと聞くのかなあ、って思って」

「はあ? なんで」

「だってさ、飛べばいいじゃん」


周囲は絶壁。大気の響きだけが木霊する寂しい場所だ。

自然と眉間に皺が寄るのが分かる。これもまた、意識の無かった頭突きによるものか。

それとも、頓珍漢なことを言い出す目の前の人間のせいか?

片手で半分、顔を覆った。理解できない。


「え、魔族ってジャンプできないの?」


リーズが何かを言っている。

わからん。

話を聞けば聞くほど、私は場違いなところにいるのではないか、

自分のほうが間違っているのではないかと、自分を信じられなくなってきたが、

……人間には、師匠がいた。

師匠曰く、人間、やれば何でもできる、なんてことを口外していたらしい。


「……リーズ、私は魔族だぞ」




頭痛が胃痛を引き起こしながらも、一通りの指針は決まった。

まず、下りるべきである。


「ここ、寒いしな」

「ああ」


大いに頷いてるが、ならどうして、こんな辺鄙なところにやってきた、

と思うが、まあ、確かに高位の魔族といえど、ここまで高い場所には

来ないのは間違いない。もっとも、太陽に近い位置にあるし、

下を見てもきりがない、のが本音だ。いや、あるか。


「んじゃあ、俺が試しにやってみせるから……」

「よし、やってみせろ」


もうここまできたら、ヤケクソである。

時刻はすでにお昼を回り、眼下は薄い紫で覆われている。

眼下は霧で、冥土の森が隠れきっていた。


「よっと」


ボロボロになってもやはり、見目の良さは変わらないリーズ、

ほんの少し、足に力を入れ、たように見えた、途端。

……あっという間に、奴の姿が消えた。


「ん?」


どこいった。

まったく姿形が見えない。


「……」


周囲を睥睨してみても、いない。

足元が紫の霧を、上空が優しく太陽の光が照らしつけているだけで、

まったくもって、何も存在しなかった。生き物というもの、そのすべてが。


「おーい」


山彦も返ってこない。

ぽつん、とひとりぼっちになった、ぼっちの魔族。

腹も減ってきた。

上を見ても、鳥は飛んでないし、虫さえ鳴かず、人の気配なんていわんや。

大気の声だけが、耳元で木霊している。


「……」


狭い畳一枚程度のその場で、魔族、とりあえず座った。

そうして、眠ったら死ぬぞ、と、自戒しながらも、

しばらくそうして、奴の帰りを待った。





うとうととし始め、倒れそうになるのを慌てて戻し、

を何度繰り返したか。ころりとたまに落ちる、小石の囁きが、

まるで死の囁きで、恐ろしいことになったものだと、

今までの人生の走馬灯を脳裏に描いていた。それは、

夢をみるかのように、あっさりとしたものだった。

というのも、魔族、冥土の森にやってきて、何度か死ぬ思いをした。

そのため、もはや、過去の人生を顧みる、という行動はすでに

作業と化していて、小慣れてしまったのである。

したがって、あっさりと手放した、思考の波を呼び寄せることもなく、

相変わらずの体育座りで、ぼんやりと冥土の森、いや、

魔界の世界を眺めていた。


「……寒い」


手元に幸いにもあった、道具袋からはすでに毛布を取り出し、

体に巻きつけている。さすがに丈夫、とはいえ、主人公は平凡な魔族である。

寒暖の差は、体に堪えた。

年のわりに、寒がりであった。いや、年季が入るから、冷えに弱いのだろうか?


「うるせぇ」


などと、己に突込みを入れつつ、流れに流れて、こんな四方八方崖の上に

取り残されたカインは、なるべく疲れることは考えないようにしようと、

また、気持ち切り替え、瞑想するかのごとく、再び、中天を過ぎようとする

太陽の輝きを頭上に受けとめ、その温かみを最大限享受しようと、

身を竦めつつも、頭部の面積を晒す。じんわりとした。

頬をなぶる高度な風を、体を丸めて遮断し、

どうにかこうにか、今日一日をなるたけ生き延びようと、決意する。


――――たぶん、このままいけば、私は凍死するだろうなあ。


なんてことを胸に潜めつつ、魔族、眠たげな眼で、

その金の色彩を瞼の奥にしまい込む。

目を瞑るだけ瞑り、体力は保存する。

決して、眠ることだけは、しなかった。


――――まあ、それもそれで、いい……。


魔族はやっぱり魔族らしく、魔王の手下でもあるので。

上の命令である、間引きの書、を念頭に、

しばらくそうして、体を支配する魔界の命令系統を

意識しつつも、そうやって、いずれ訪れるであろう、

己の死を見詰めた。

……といっても、やっぱり、死ぬのは嫌だったし、

痛いのも辛すぎる。

あんまり深く考えるのも、脳を酷使することになり、ただでさえ

少ない栄養を細くするだけなので、意識を水平に保ちつつ、

体育座りの体を上下左右に、たまに揺らしつつ、

凡庸な我が身を丁寧に扱ってやる。


――――人間は、利用する存在。

 あいつは、たぶん、戻って……。

 来ても、来なくても。

 それもまた、一興。

 

 でも、なんでだろうな。


すぅ、と。

瞼を開くと、紫の霧が、一転。

雲散霧消した。

 

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