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妖魔の血族。

リーズにとって、その魔族は、

初めて目にした、会話というスキルをしてくれる生き物であり、

第一魔界人であった。


「……初めてだ」


ぽつん、と呟きながら、人間、その場に固まっていた。

居なくなった方向を見つめながら。すでにもう、かれこれ小1時間は経過したことだろう。

それでも、リーズは動けなかった。

……剛の者とはいえ、やはり、彼にとって、初めて、の相手は

どうにも勝手が違うらしい。

聖剣が、ほう、と。

ため息をするかのように、ほんのり光る。

そこでようやく、彼は視線を外した。

鞘から刀身を抜いて、


「……[黎明]?」


呼びかけると、愛剣は呼応するかのように、

ほんの少し聖なる光を強め、そうして、ゆっくりと語りかけるかのように、

点滅している……ように、剣の主には思えた。

磨かれた刃には、リーズの困惑した表情の青い目の黒髪がうつっている。

彼は、二日間一緒にいた、行きずりの友人をすんなりと思い出す。

魔族、のわりに、弱くて、一撃で死んでしまいそうな貧弱体躯、

金目はきりりと吊り上っているが、その割にさほど、キツイ印象はなく、

むしろ、ぶるぶると震えて虚勢を張っている、ように感じられた。

本人に言ったら、確実に自尊心を傷つけるので、言えないが、

しかし、その様があまりに可哀想というか、なんというか。

つい、人間としての出来心ゆえに、優しく接してしまう。

それがいけないことだと、リーズは生まれながらにして、

師匠からキツく言いつけられているが、しかし、彼は、

きっと、この魔界のことも、なんとかできるのではないか、

いずれは話し合いの場を設けたいと考えていたので、

ほんの小さなきっかけであっても、魔族と仲良くなること自体、リーズにとっては、

とても大事なことであった。ましてや、あんなに明け透けで、

居心地の良い人間関係、もとい、魔族関係を結べたのだ、

いずれは、なんて期待も嫌がおうにも高まる。

が、その結果が、このざまである。


「……カイン……」


その名前の由来も何も知らない。

どうして、嫌なのか。

そのことも気がかりではあったが、魔族本人にとって、

心の傷であるやもしれぬ。

とはいえ、その名が、あまりに魔族にぴったりで、

リーズとしては、この名前で呼んでやりたいとさえ思っている。

それぐらい、カインという魔族に対し、情が湧いていた。


「まだ、そこまで仲良くなっていない、ってことかな……」


人間ではない、魔族の思考。

今後、を必要とするならば、これからはそれらを加味せねばならぬ、

などと、薄目になる人間。その横顔は、明らかに、人間らしい、

酷薄な風情があった。ひと房に束ねられた黒髪が、揺れる。

一歩、足を踏み出し、リーズは肩で風を切るかのようにして、

カインが立ち去った方向に進みだす。颯爽としていた。







――――さあ、さあ、お立合い、ご静粛に。成敗に。

お前は?

――――私は、あなたです。

はあ? ……はあ。


問答は、何回も繰り返した。


空っぽの体は、脱力感で支配されており、

もはや、抗う術を持たない。

この、心の中で、何かが答えてくる奴の相手をするのも、

さすがに、疲れてきた。

魔族、しばし、そうして、目を瞑る仕草をした。

すると、しっかりと、瞼を閉じた、そんな感覚を覚える。

あとは、眠るだけ。

そう、寝るだけだ。

真っ暗闇、ウサギのように身を丸めて眠る。

これは、夢?

それとも……、正常ではない、のか。

現実を逃避するにしても、これほどの労力を要するとは。

魔族、そうして、体の疲れを隅々に感じていた。

……実際に、カイン、の支配権を持つのは高位の魔族であるが。

ぱちぱち、と。

瞬く、つもりでしたら、本当にそうしていた。

足元には、ムカつく餓鬼がいた。

黒いローブのまま蹲り、その秀麗な顔を帽子フードから晒し、

魔族の反応を面白がっているようだ。

いつの間にやら、視力を取り戻していたから、くっきり分かる。

いや、そう、させられている、のか?

頭上はすっかり明るくなっていた。

気付いたも何も、そうさせたのは、てめぇだろ、

と言いたいが、口にすることは不可であった。


「気分はどう?」


すこぶる最悪です、

なんて悪態つきたかったのに、喋ることが許されぬ。

腹立ちばかりが募る魔族、目の前でにんまりとほほ笑む

馬鹿みたいな餓鬼を突き飛ばしてやりたい衝動にかられるも、

どうにも二の腕自体が持ち上がらない。やはり、想像していた以上に

最悪な事態が待ち受けていたことを、しょんぼり魔族、

がくんと心身共に凹まされる。

――――自殺は許されません、よ?

分かっている。


「ふふ、第二の人格とすっかり打ち解けたようだね」


アホか、と、

突っ込みたいが、


「褒めても何も出ない。哀しい」


などと、主人公の意志とは関係なしに喋るのだから、

魔族はひどく、憔悴した。

その様子に、高位は、真っ赤な瞳を見開き、ついで、

嬉しそうに嗤う。


「あ、あははは、やっぱり、そうなんだ。へぇえ、

 くくく、ふふ、あはははは」

「リーズは?」

「ふふ、ま、まだ来てないみたいだよ、ふふふ、

 楽しみだねぇ」

「うん」

「ぶふっ」


やめろ、やめろ。

何これ、気持ち悪い。体中が鳥肌立つ。


「んで、ちょろい君の名前はなんてーの?」

「カイン」

「やっぱり」


あがくが、支配権は高位の存在にあった。

決して、主人公である正当な本人にあるわけじゃあなかった。

天使の顔して悪魔としか言いようがない、魔族の高位は、

鬼畜な笑みを湛えながら、カインの顔色を伺う。


「ふふ、神に愛されし名前か。

 それとも、僕に罰があたるのかな?」

「天罰?」

「そうだねぇ……、

 カインはどうしたい?」

「嫌」

「だろうね、そのために魔界に生まれたんだもの」


途端、

目の前が真っ暗になった!


……懐かしいな、この感覚。

何が、って?

そりゃあ、どう考えても、お先真っ暗けの、未来への展望さ。

……昔、それも、遥か昔のことだ。

そういう時代があった、ってこと。

にしても、


――――嗚呼、畜生!


なんで体が動かない?

罵倒してやろうにも、口が動かないし、乾いてる。

真っ黒な水の上を漂っている、というか、身動きできないから、

いうなれば、半身浴しながら、さながら浮かんでいるかのようだ。

ふわふわっとした妙に心地良い浮遊感が、足の裏にもじんわりと広がる。

縛られてなどいないが、魔眼の影響からか、頭の中はぼんやりと霞がかってるし、

自我は残るけど、体が透けてどうにもならない、

身もだえ中の死後の世界みたいなノリだ。

とはいえ、肉体の感覚はしっかとある。

昏い世界の只中ではあるが、己の心臓が動いてるのは、脈動を感じるからだし、

腕も足も、骨もしっかりと組織されてるのは把握できた、

ただし、度重なる緊張で筋肉が思いっきり強張っているのみが、懸念材料か。

これ、絶対、動けるようになったら、

生まれたての小鹿みたいにプルプルするよな?

……覚醒したら、周りに人がいないことを祈る。


――――はぁ。


そもそも、なんで、こんな目に遭わなきゃならないんだ?

始まりが上司のアホのせいだが、

リーズもアホだし、

糞餓鬼もアホだった。

みーんなアホ。アホの丸出し、ついでに俺もアホの、

バーゲンセールのオンセール、ときたもんだ!

何故に死にたがる?

力をつけたがるんだ?

訳がわからない、どうして、復讐されるようなこと、

望んでするんだ? 誰かを傷つけて恨まれるようなこと、

何故にするんだか、理解できない、

武器を持って攻撃?

はは、笑える。

こうやって、馬鹿にされて死ぬばかりであるというのに。

その加害者、あの餓鬼、見た目は天使だったが、

獰猛な魔族の高位で、赤目だから、

……あ、いや。

首は左右に触れないが、意識としては横に振って否定してるが、

これ以上は考えないようにしよう。

余計な過去、ほじくりかえしてしまう。

誰の、といえば、私。


――――性別がない、訳じゃないが、私のせいじゃない。


妖魔、の血を引いているだけ。

遠いご先祖様が、妖魔なのだ。

だから、性別に関しては、選択できる。

あるにはあるが、無いといえば、無い。選べるのだ。どちらにも。

今はまだ、そのどっちつかずで、選んでいないだけだが、

いずれはちゃんと、選択せねばなるまい。


――――妖魔? 嗚呼、


そうか。

妖魔、な。

妖魔って、この魔界にとって、ひとつの種族名だ。住人の一種類。

数は限りなく少ないが……、あらゆる存在を魅了する能力を持つ。

当然、容姿も美しいのが多い、が、私は平凡な容姿だ。

いくら妖魔の血を引いてるとはいえ、これは普通!

な見目なのはな、めっちゃくちゃ遠いご先祖様、であるからだ。

それも、行きずり。

な、最低だろ?

妖魔の、それも高位によって道端に打ち捨てられた女、

それが私の先祖であるのだ。ふふん、最悪だろ?

まあ、高位に殺されないだけ、マシだった、と思うしかないがな。

……ま、そういうもんさ。

きっついが、魔界の掟は、力こそすべてだからな。

魔王は魔王でずっとその掟を継承してるからこそ、

魔界で最強の人物であるし、魔族らも、へいこらしとる。


――――魔眼?


ん、まあ、確かにな。

あれもまた、相手を縛る能力だが、アレは支配するもので、

妖魔とは別。相手の神経を支配してしまう能力、それが赤き瞳。

それはそれで、厄介なものだ。

妖魔は相手の心を盗むが、魔眼は支配の分野。

似ているが、わずかに違う。

高位の魔族の標準装備だからな、赤目って。

大抵は、あんなの一回喰らったら死んでるけど、

生き残ってる私たちには、すでに、免疫できるから、

そこまで不安に思うことはないが、念のため、言っておく。


「てか……さ」


青い光があった。

いつの間にやら、黒い世界が、明るい世界へと移り変わっている。

魔界に四季なんてものはない。

あるのは、朝日だけ。

眩い光が、見開く瞼の中に差し込んできた。


「まぶしっ!」


いつの間にか、体も、世界も、解放されていた。

後ろに、誰かがいるのが分かる。

私は、総身を預けているらしかった。

背中に誰かが当たっている。


「これ、は」


耳に、何か温かいものが当たる。

息か。それとも、黒い髪か。

急に開けたからか、染み込む涙腺を我慢しつつ、

しっかと、開かれる世界に馴染もうと、幾度も瞬いていると。


「起きた?」


後頭部から、聞き覚えのある男声がした。


「……リーズ、か?」


頭を動かさず、しかし、けだるい体を動かさず、

じっと、状況確認に努める。すると、


「ご名答」


などと言うもんだから、まあ、そうなんだろう。

なんか分からないが、安堵した。

座っているのは、地面の上か。

指が動く。

どうやら赤目の支配から抜け出せたらしい。

しかし、腹の上に差し込まれてるこの太い腕は、リーズのか。

片腕でなぜか支えられている。

良くわからない状況である。

目玉を動かし、隣を見ると、

つまりは、リーズの横で、彼は、私の

腹を抱えて隣にいる、ということか。

寝違えていそうな軋む首を動かし、仰ぎ見ると、

リーズの青い眼差しとぶつかる。


「お、意識はっきりとしてきたね」

「ああ、お蔭さんで、な」


頭をもっと天に向けると、奴の肩にひっかかる。

……こいつ、私より座高たけぇな。


「はー……」


ぱちぱちと、瞬き、目元を擦る。

二の腕、まるで痺れが残っているかのごとく、違和感ありありだが、

まあ、動けるだけよしとしようか。

そうして、改めて、周りを確かめる。



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