お茶うめぇ。
美味かった、と。
心の中で、かきとめる、飯の感想。
リーズは、未だ丁寧に食事を摂っていた。
「まだ食べ終えないのか」
「ん? いやあ、俺、食事はゆっくり派なんだ」
「ふぅん」
と、どうでもいいとばかりに、鼻息で返事する、魔族。
リーズは、味噌汁に口をつけていた。正座で。
なんでか分からないが、向いであぐらをかいている魔族には、
人間のそういった所作が、品ある行動に思えて仕方ない。
昨日だってそうだ。
なんだかんだで飯をお櫃からぼりぼり貪っていた魔族と
違って、奴は、もそもそと、丁寧にその米粒にひとつまで、
避けておいたらしい、おにぎりを頬張り、
しっかり味わっていたことを思い出す。
カラ食器を前に、顎に手を乗っけて、まじまじと魔族、リーズを見つめる。
「……なんつーか、お前さ」
「ん?」
「実は、貴族じゃねぇのか?」
すると、ぴたり、と行動が止まるリーズ。
味噌汁零すなよ。
「いや、大丈夫だ」
「顔に出てたか……」
「うっかり出てたよ」
などと、謎の問答を繰り返し、
リーズ、綺麗に飲み干した椀を定位置に戻し、
「ごちそう様でした」
しっかり食事へのマナーを発言している。
まさに早寝早飯早糞の魔族とは真逆の人間であった。
「で、この食器どうすんだ?」
どっから出したかも不明なお椀群だが、しかし、手前の人間、良く見ると、
さほど荷物は持ち合わせてなどいなかった。聖剣は脇に置いてある。
聖気は魔族にとって無益なので、気分悪く無視するとして、
まず、リーズの恰好。立ち姿はさまになっているし、
無駄に華美な鎧を身に着けているが、それは軽いもので、
上半身を覆うだけの、軽装備であった。
足から下は、奴の人間の通常の服装であるのか、よくわからないが、
なんだかひらひらとした前掛けのようなものを身に着けてい、
よく調べてみると、それは、スカートにスリットが入ったかのような、
そんなものから、人間の太い足が飛び出ている。ちなみに生足ではない。
ぺらっとめくって調べてみたから、事実である。
「……なんて堂々とした痴漢なんだ」
「悪いか」
リーズが呆れ顔で見下ろしているが、
魔族は我関せずのまま、
座り込んだままの人間の周囲をまめまめしく動く。
じゃないと、こいつの装備がよくわからないので。
背中にはマントの類はない、まんま鎧剥き出しである。
そこに、やわく結んだ黒髪が垂れ下がっている。
リーズは、魔族の興味津々な態度に、笑みさえ浮かべて、
余裕綽々といった風だ。
「まぁ、気持ちはわかるよ。
他国の人間が、うちの国の兵士の恰好が女性みたいだからって、
スカートめくりの要領で、ぺらりぺられしてる」
「……だろうな、んで、怒るんだろ」
「そうだ、それで、追いかけ回して……、
演習のたびに、いい大人が本気の追いかけっこしてんだよね」
……人間の国にも、そういった遊び心みたいなものがあるようだ。
にしても、演習、だと?
リーズが首だけ動かし、
その青い双眸が、朝日の光を受け、薄められた水面みたいに透明になった。
次第に細長い川にもなったが。
「そうだ、俺の国は、隣国と友好関係にある。
だから、たびたび、そういった軍事演習をすることがある。共同でな」
「へぇ……、魔界では信じられない協調行為だ」
「魔界は、そういったことはしないのか?」
「しない」
言い切ると、リーズは不思議そうに傾げ、
頬に黒い髪がかかり、湖面の水色に、枝葉がかかったようにみえた。
……これは、説明したほうがいいのか?
…………まあ、人間は知りたがってるし。それに、大人しくしてもらう
には、こうして、話しかけていたほうが、いいか。
朝は、ゆっくりとしていたいし、リーズが何故かお茶っ葉を持っている。
こいつ……、この接待モード。本当、完璧だな。
人間にはもったいないぐらいだ。
恐れおののく魔族、こういう待遇を受けたことは数えるほどしかないので、
機嫌が良くなり、口も軽くなった。
リーズの隣に座り、お茶を待つ魔族。
「俺は下っ端兵だ。
魔王軍の」
「えっ、そうなの?」
「……信じられないのも、無理はないが……、
上官に井戸の悪口バレたって言わなかったか?」
「だって、兵士なのに、武器ないし」
「まぁな」
なんせ、酔っぱらって魔界の首都から飛び出してきた、
まさに酔狂な魔族であったから、実家からのなけなしの袋さえ持たなかったら、
干し肉の三枚さえなければ、この世を絶望し、自決したのかもしれない。
「それに、体鍛えてないし、
腕だって、ほら、貧弱だし。
体重だってないだろ。
魔族たちは赤い目ばっかりしてるんだろ?
お前は金目だから、人間かと……、
パッと見では、やっぱり人間かと思ったよ」
「……やめろ、それ以上はやめろ」
本気で自棄したくなるから。
頭を抱える魔族。
まさか、そこまで酷似してるとは、思わなかった。
「そんなお前さんが、魔王軍とは……」
なんだか、気の毒そうな顔でいるリーズ。
人間にそこまで可哀想な感情を抱かれるは、不快だ。
「うっせぇ、私だってな、望んでそうなったわけじゃない。
ただ……、選べる選択肢が、それだけだった、
それだけだ」
「そうか」
「ああ……、
第一、魔王軍は、名ばかりの軍だ。
魔族が、一塊になるなんて、血族でなければ、
絶対にありえん」
「そうなのか?」
「ああ、そうだ」
と、ここで、大いに頷く魔族。
待ちにまったお茶を渡され、ふぅふぅと息をかけつつ、飲む。
「うまい」
「今日もお茶がうまいな」
リーズの一言に、うん、と頷く。
その姿からは、魔族の矜持とやらは、はるかにかけ離れてい、
見え隠れもしていなかった。




