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高位魔族の結末。

聖なる剣が、その真っ直ぐな刀身に鈍い光を放ち、

薄暗い冥土の森の、一筋の光明となった。

目立つ輝きは、女魔族の美麗な肉体を、あますことなく、

暗闇から、桃みたいに実る胸回りに影をつくり、浮き上がらせたが、

豊かな金髪が、さわり、さわりと蛇が頭を

四方八方にもたげているようにも見え、生まれて初めて高位の存在を

認識してしまった魔族がいたならば、目に入れた途端、

恐怖で失神するのは間違いなかった。

それほどまでに、彼女は、化け物みたいに美しい顔と、

魔力を手ひどく垂れ流していた。

距離があるから、主人公にはあまり当てられないが、しかし、

もし近距離にいるリーズの傍にいたのなら、確実に、その場でまた、

気を失っている。今は軽い眩暈で済んでいるものの、この戦いが長引くと、

主人公はまず仏滅でもないのに消滅するだろうし、

冥土の森も、強力な魔力の影響により、

とんでもない奇形が出来上がるか、あるいは、魔界の首都にさえも、

さわりがあるかもしれない。そうなると、首都に住む高位の魔族たちが、

我先にと飛び出してくるかもしれなかった。なんて恐ろしいことだ。

世界大戦はとっくの昔にやりあって間に合っている。

総身をぶるりと震わせる主人公。


「……はよ終わってくれ」


じゃないと、死ぬ。本気で死ぬ。

主人公なのに、道端でギリギリと歯ぎしりをする、しょっぱい魔族。

すっかり悪酔い気分で、悪態をついている。

人任せにしすぎて、なんとも情けない恰好であるが、

平凡魔族には戦う力なんてないので、隅っこで必死こいて隠れて、

敵対しているはずの人間を応援しなければ、自分が死ぬのは間違いなく、

たとえリーズに見捨てられたとしても、魔界の首都には戻れないので、

どっちにせよ、まずは人間の勝利を願わねばならないことに、

矛盾を感じつつも、冥土の森にぼっちで彷徨いたくはないので、

ありとあらゆる願いごとを、心の中、あるいは、ぶつぶつと、

呪文のごとく、口の中で不気味に呟いている。

お菓子のチョコ棒のごとく、外見だけは甘い見かけなのに、

対峙している二人。

間には、張り巡らされた緊張という糸が絡められている。

主人公は、見詰めた。

その戦いの行く末を。

事態は、こう着かと思いきや。


「お」


リーズが、その聖剣を、わずかに、動かす。

すると、主人公の忍んでいる、木々の間にまで。

血の、匂いがした。


「ん?」


気付けば、空を飛んでいる物体があった。

なにやらそれは、ひょろい丸太のごとく思えたが、

何かが滴っており、その液体を振り回しながら、

紫の霧の奥へと消えていくようだ。

このままでは、あの丸太は、茂みの奥へと行方知れずになりそうだ、が。

主人公は、気付く。


「げっ」


魔族女の片腕が、飛ばされていた。

体が硬直しているのは、何も主人公だけではなく、

あの高位の存在である女魔族もそうであった。

まさか、ちょっとした動き、で、

己の腕が飛ばされるとは、夢にも思わなかったのだろう。

いや、もとより、あの魔眼を使った後は、

まったくもって動かない、その美貌を持つからこそ、

人形にしか思えなかったが、

しかし、腕を切られても微動だにしない、とは。

どういうことなのか。逃げることも、距離をとることもしなかった。

魔族という種は、元来より、身体能力は高い。

生まれながらにして、すべてが優れている種であるのだ。

その下っ端とはいえ、主人公でさえも、

そこそこの人間どもよりも、高い能力値を持ち合わせている。

その、普段はぼんやりとしている魔族である主人公、

集中してつぶさに戦闘を見守っていた、というに。

リーズの動きは、あの剣先がちょっとだけ傾いた、

だけはみえたが、どういう動きをしたのか、

あの聖剣の軌跡が、さっぱりもって、見えなかった。


「な、何が……?」


そういえば、キルベアのときだって、

あいつ、リーズは、何もないところから、攻撃していたような。

突然、どこからか。まるで、何もないところから、

あいつは、攻撃をしかけてきた。

あのときは、襲われていた事態であったから、他人のことなんぞ、

気にも留めていなかったが、

こうしてリーズの戦闘の仕方を観察してみると……、

あいつも、魔族女と同様に石みたいに不動すぎて、さっぱりわからない。

もしや、目にもとまらぬスピードで、何かをしでかしたのか?


「あるいは、なんらかの力を、持っている、とか……?」


それは、大いに納得できることだった。

ただ単に、好奇心丸出しでやってきた人間ではなかったのだ。

でないと、自殺しに魔界へやってきた、変な人間である。

考えてもわからないことは世の中にいっぱいあるが、

しかし、ここまで当てもなく、とんと見当もつかぬとは。

思考の海に沈んでいた魔族、


「むっ」


何やら急に、悪寒が走る。鳥肌が体中にぶわっと広がり、

戸惑っていると、魔力の気配を感じ、さっと。

あの、女魔族へと、その視線を向ける。

彼女は、片腕をとられ、立っているのもやっととばかりに、

バランスが著しく欠けた、立ち方をしていた。

えっちら、ほっちら。

まるでヤジロベーのごときである。


「なんだ、あのみっともない動きは……」


魔族とは、見栄だけは一人前なのだから、こんな姿、

同族である魔族、ましてや、人間にだけは晒したくはない、というのが、

魔族の魔族心ってやつだが、しかし、どうも、

さっきから、いや、しばらく前から、主人公、同族の

反撃の試みの無さに、なんとはなしに違和感を感じていた。

あれじゃまるで、人間を馬鹿にしている。殺してくれ、

といわんばかりではないか。


「……あの女、本当に魔族、なのか?」


独り言は、冥土に吸収されて掻き消える。

その疑惑が、確信に至るか、捨てきるか、その前に。

人間が、その長い黒髪を、走る足の速さに合わせてたなびかせた。

青い輝きが、彼と共に、宙を走り……、

線を持って、一閃。

そうして、二閃。

まず、キルベアのように、袈裟切りをした。

次に、リーズは、女の背後をとり、

衝撃にのけぞった体の心臓めがけて、一気に貫く。

……動作をしたんだと思う。

魔族の血を浴びることを、良しとしなかったためだろう。

勢いよく飛び出た血液が、リーズにかかる前に、

彼は、たちまちに、その場を飛びのいた。

女の悲鳴はなく、肉を切り裂く余韻だけが、冥土の森に籠る。

……人間は、やはり、強かった。

すさまじい魔力の集まりが、雲散霧消していくのを、感じた。

女は、その命を、冥土の森で散らしたのだ。

魔眼だけで、何もせずに。

そうして、以降の行動をさせなかった、

リーズは、人間にしては、やっぱり、思った通りに力があった。

いくら退魔の陣で、女の体力半分を削いだ、とはいえ、

あんなにあっさりと殺せるとは。

女から離れたリーズは、しばらくその場でとどまっていたが、

私が近寄ってこないのを把握したのか、ゆっくりと、その青い光を

利き手に従わせて、こちらに歩んでくる。

人間が勝つ。

その賭けに勝利した私は、同時に生き残ることができた、

と内心喜んだが、同族の死が、ひんやりと、人間のうしろで

横たわっているのを、なんとはなしに、これは現実なのだろうかと、

幻を見ているような、不思議な気持ちでいた。

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