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orz

両膝、両肘を地面に当て擦り、

両手で頭を抱えた。背中の圧迫感は除けられているから、

人間からの押し付けは排除されたのだろう。

とはいえ……、

私の頭の中にあるのは、

同僚に目撃された、こればかりが占有されていた。

背後で、私の代わりにまごついている人間リーズがいるのだが、

そんなこと、知ったこっちゃない、といわんばかりに、

盛大に苦悩する。

そう、魔族は、プライドが高い生き物。説明した通りだ。

そうして、その誇り高き生き物の情けない姿を、

私は……私は、同僚という同僚に知れ渡ることに、恐怖した。

考えても見てほしい。

いくら仕事をしない魔王軍、とはいえ、

口は動く。動くのだ……。

やることないから、喋るしかないし、仲が良くなれば、会話は弾む。

先ほどなぜか魔界の首都から首尾よく出歩いていた同僚Aは、

確かに私と比較的よく顔を合わせて酒を飲む魔族のひとりだが、

あくまで同僚であるし……、プライベートに至るまでの仲ではなかった。

しかし、もしかしたら……、

そんな淡い友情を期待もしていた、同僚Aでもあったのだ、

友達ゼロ人生を送る、

私のガラスハートは相当の割合でブレイク、ブローク、ブロークンしてしまった。

リーズは人間である。

それは、魔族であるならば、一目でわかること。

言い繕うセリフを考えてはみたものの、やはり、

人間にいてこまされているよ的な図は、インパクトでか過ぎて、

どんな言い訳も通用しない。

第一、人間が、魔界の首都近辺にいる、との目撃情報。

魔界警察に届け出ない訳がないのだ。

通報は、首都民の義務である。

そこに考え至り、私は苦痛の声を漏らす。

……そう、私の情けない、

明らかに人間との戦いに負けて魔族女が奪われているよ的絵図も、

世間に公表されるのは、間違いない、そうして、

そのしょっぱい姿を、実家に知られるのも、時間の問題である。

果てはご近所事情に至るまでの修羅場を想像巡らした私は、

呻いて頭をより深く地面に擦り付け、

ぐりぐりと額に土塊を大いに付着させたのであった。

私は、気付かなかった。

そうやって、自己内省を試みている間に、異変が起きている、

そのことを。

しーん、と。

何やら、あたりが静寂に包まれていることを認識するに、

しばし、時間がかかった。

……どれほど、主人公である魔族が、お尻を天に向け、

頭を地面に擦り付けていたか。

それは本人でさえ覚えていない些末なことだが、

やはり、内心の傷口と向き合うことに飽きてきたというより、

どうにか痛みに慣れてきた、よしよし、

そういえば、リーズは、あれ、静かだな。

そのあたりの塩梅で、ようやく平凡魔族は、顔を上げた。

いい加減、己の回りに起きたことに知覚すべきであったが、

だが、そこはやはり、しょんぼり魔族、

どうにもいかんともしがたい。


「……」


魔族は、目の前の光景に、二度目のぽかーんをやらかした。

頬に土の粒がすげなくぱららと落ちるが、この目の当たりにした現状に、

誰だって口を開けずにいられない、と本人は雄弁に物語るだろう、が。


「何これ……」


視界に広がる、冥土の森、

魔界の首都近辺の、とある一角。

そこには、人間リーズが私に背を向け、立ち尽くすさまと、

彼の前で倒れていたはずの魔族女が、縦に浮遊している姿であった。

横ではない。縦である。

さんざん横抱きされてたから、嫌になったのか、

という思考回路になった己の頭を殴りたくなった魔族、

しばし、そのナゾナゾな風景を眺めていたが……、

はっと我に返り、後頭部真っ黒な長髪を持つリーズに近寄ろうと、

這い蹲り姿勢から、よいせと足に力入れて立ち上がる。


「なあ」

「あ、起きたか」


人間は、その艶やかな黒髪を肩に傾け流しつつも、

私にだけ笑みを、その端正な面にのせる。

……しかし、彼の片手は、剣の柄にかかっていた。

そのことに、若干引き気味ではあったが、好奇心が勝る。


「ど、うしたんだ、これ、って一体、何があった?」

「ああ……」


訊ねると、リーズは困惑の表情でいながらも、すぐに視線だけは

魔族女からは外すまいと注視しつつ、私への問い合わせに答える。


「お前、いきなり立ち上がろうとしただろ」

「ああ」

「そのとき、あの女の魔族、いきなりこう、かっ、と」


かっ、と?

首を捻るが、リーズは手振り身振りで、それでも利き手だけは動かさず、

私への説明をし続けた。


「なんというかな、片足が浮いたままの状態の俺に向けて、

 魔力みたいなものを口から吐き出して、

 攻撃してきたんだ。まさか、頸動脈を狙ってくるとは……」


私の背筋にぞっと冷たい氷が滑った、気がした。

リーズの青き眼差しの先にある、魔族女を私も見つめる。

……今、彼女は瞑目した状態のまま浮いている。

下っ端魔族がじっと仰ぎ見ても、彼女が、何を考えているのか……。

分からん。

魔力ってそんな使い方できたっけと疑問に思ったが、

文字に使っちゃうほどに扱いに長けているのだ、

魔力を硬化させて武器転用するぐらいは、朝飯前なのかもしれない。

空中に留まったまま、いまだに目覚めぬつもりの女魔族。高位の魔族。

やはり、上の魔族というものは、存在も何もかもが、

めちゃくちゃなものなのだと、私は心底、身震いをした。

そう、そうして。

私はどうなるのだろう、と。

著しく、体を震わせた。

魔力の本流は、いつまでも、あの女の背中から、

影のように吹き出し、金髪の毛先に至るまで、しっかりと伝わり……、

ゆるやかに空中に、その魔力を放出していた。

怖い、のは、やはり、魔族としての本能だろう。

長い金の縁取られた睫の影にかかる、白磁の頬も、

すべすべとしていそうな、まっすぐな鼻のラインも、

美しいはずなのに、末恐ろしいものに思えて仕方ない。

少しずつ、少しずつ、減りもせず、むしろ増えていく魔力の総量に、

普通に平凡な魔族は、受け止めきれず、彼女を見ていられなくなった。

すっかり魔力酔いを通り越して、風邪を引いた状態になっていた。

熱は出てくるし、足元はふらふらする。

や、魔族女のおみ足も、ぶらぶらしてるけどさ、

私なんてこう、ひどいものだ。

見るも無残。

腕は鳥肌立ちっぱなしであるし、平衡感覚がすでに失われているから、

いつ人間の後ろで倒れ込んでもおかしくはない。

目の前にある大きな、リーズの背中、鎧に頭からごっちんこと、

ぶつけても変ではなかった。

耳鳴りはするし、眩暈もする。

指に力は入らないし、こり固まったまま。

視界も、悪くなった。

ぼんやりと、してきたのだ。己の靴先でさえ、ふやけて見える。

このままではいけない。

死ぬ。

マジで死ぬ。

私は、魔族らしからぬ緩慢な仕草で、


「……リーズ……」


弱弱しくさもしい声を、かけようと面を上げた、そのとき。

事態は急変する。

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