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女?

リーズは、うつ伏せに倒れている女のために膝を折り、


「大丈夫ですか」


と、声をかけている。

柔そうな、剥き出しの肩を叩き、反応をみているようだ。

私はといえば、その道の脇で倒れ込んでいた女、を遠目から、

しげしげと観察している。リーズの手助けはしない。しようとも思わない。

なんせ、どう考えても、

怪しい、

のである。


「おい、手伝えって」


人間、振り向いて、私に救援を求めてくるが、やはり、

手を貸したくはなかった。

微動だにしない私に彼は何も言わず、

ただ、青い眼差しをわずかに曇らせただけで、

すぐに女の介抱に集中したが、

まあ、私がしなくとも、彼は十二分に強い。力がある。

案の定、リーズは器用に、女を仰向けになるよう体を反転させる。

その際、こぼれたその胸部の膨らみへの接触を避けるあたり、

彼には、それなりの教養程度はあるらしい。

ただ、私の視界が彼の、値の張る鎧ばりの背中いっぱいに

なってしまったのは残念だが。少々の位置転換をする。

決して、我欲があるからとか、そんな理由からではない。

距離を保ちたかったのあるが、状況を把握したかったのだ。

リーズは、そこはかとなく、私のそんな態度を好ましくも思っていないようだが、

まあ、そんなことはどうでもいい。

問題は、女。

投げ出された四肢は、まっさらで、白い肌。

剥き出し。顔は、そう、頬のあたりなぞ、

土や泥で汚れているも、端正な美顔であった。

長く伏せられた睫は金色で、ふわふわに波打つ金髪、

真紅に彩られた唇は濡れ濡れとしており、

いかに美貌とやらがこの女に内蔵されているのか、

私は花街の鮮やかさなぞ、この本物の美には露ほどにも

かからぬのだろうな、と思い知らされる。

眠っているその顔でさえ、誰もが吸い付きたくなる、

そんな華やかな容姿を持つ、紛いなき美女であった。

おまけに、その足。

晒されている白磁のごとき太もも、派手に破られた服。

まろやかにふくよかな胸だけではない、抵抗した証の擦り傷の多様さ。

女の顔以外、すべてに血が、滲んで乾いて……。

見るも無残なその姿、

……実践した、輩がいたらしい。

私はそのことに固唾を飲むも、

それでも、この女のそばには、近寄りたくはなかった。

何故、かはわからないが、足が、地面にくっついて、離れないのである。

女の全身が、目に入ったと脳が認識した途端、これだ。

自分のことながら、訳がわからない。

リーズは、そんな私を視界の隅で把握はしているのだろうが、

無言で、かけ布を引っ張り、女に抱き込むようにして、

ぐるりとその素っ裸に近い体へ巻きつけてやっている。

女は、意識がないから、リーズにされ放題だが、

しかし、ちり、と何かが……、

眼が痒くなった私は、目元をこする。

これは……魔力?

眠気か? 野外だというのにぐっすりと睡眠をとった私だが、納得いかぬと

自分のことは棚に上げて、私は、リーズとその女の様子を探る。

どちらも垂れ流れる黒髪と金髪、

献身的な美男のリーズと、退廃的な美女の組み合わせは、

目の保養としかいいようがないが、


「む……」


……なんだ?

おかしいな。

何がおかしい、というのはわからないが……。

そういえば、昨日も、オカシイ感じがしたとか。

ああ、それは、リーズが言っていたことか。

可笑しなことだ。

心臓の鼓動の高鳴りを覚えながら、

私は、あの女から感じる違和感を、じっと、我慢して見続けていた。

彼女は、傍目からしてみれば、乱暴された、不幸な女、である。

しかし……、しかし、だ。

このあたりは、魔界の首都に近い。

したがって、首都門番である、

忠実なケルベロスの眼をかいくぐって、ここに来なければならない。

……結果、無残な姿をさらしているわけだが。

どういう目に遭うか、彼女は理解しているはずである。

理性のある魔物あるいは魔族にしてやられるとしても、

自殺志願者でもない限り、普通は首都の外になぞ、

淑女は外出しないものだ。ケルベロスに説教されるし、

癪の強い魔族の女ならば、特に、なおさら。

あるいは、そういう趣味でもあるのかと思ったが、しかし、魔族は自由を好む。

そういう自由を望む輩がいる、のは否定しないが、だが、そもそもが、

ひとりで、やって来るにしては、彼女は、あまりにもオカシイ。

性別女にしては、かなり上物である彼女の容姿は、魔力に比例しているはずである。

僅かばかり、器から溢れ出ている魔力。

その少なさ、に、もしかしたら、私は、

気になって、木になって、大木みたいに佇んでいるのかもしれない。

危険、か?

いや、どうだろう。

ちら、と。

女性を慮る、リーズの心配そうな横顔を見て、私は、

やっぱりこいつは人間なのだな、などと、

不思議な心持ちになった。

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