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「何したの?酷いねぇ」

「痛い…んだぞ…」

「ほいほい。しっかり消毒して~」

「うぅ…染みる…」

「我慢我慢」

「血がいっぱい出てるんだぞ…」

「大丈夫大丈夫」


最後に、長之助お兄ちゃんは包帯をグルグルに巻くとニッコリ笑って。


「はい、完成~」

「痛いよ…」

「また夜に包帯を交換しような」

「うん…」

(ルウェ、ルウェ~)

「あ、クーア」

「クーア?」

「狐のクーア!」

「へぇ~。狐の。って、狐は喋らないよね」

(ルウェ~)

「クーア、どうだったの?」

「ああ、聖獣ね」

(ちょっと怒られちゃったけど、大丈夫だった!)

「ルウェさま。この者のせいで怪我をされて、申し訳ないです」

「あ、金色の狐」

「わ、私は金色の狐などという名前ではありませぬ。如月という、タルニアさまから賜った名がありますので」

「キサラギ?キサラギって如月?」

「はい。どういう如月を想像しているのかは分かりませぬが。ふふ、誠に良き名だとは思いませぬか?」

「うん。格好良いね」

「え?あ、はぁ…。格好良い…ですか…」

「ルウェ。如月は女の子だから、可愛いの方が良かったかもね~」

「でも、如月って格好良いんだぞ」

「ははは。確かに」

(ねぇ、そんなことより!)

「そ、そんなこと…」

(……?)

「あーあ。如月、もうダメだね~」

(なんで?)

「まあいいじゃん。何の話?」

(あっ!そうだ!)


そう言ってクーアは足下まで走ってきて、キラキラした目で見上げてくる。


「どうしたの?」

(クーと契約して!)

(えーっ!ダメーッ!ボクのルウェなのに!)

「キミは独占欲が強いんだね~」

(ど、独占欲…)

「この者と契約したのなら分かっているとは思いますが、契約というのはルウェさま自身に相当な負荷を掛けることになります。また、この者たちがルウェさまに迷惑を掛けないとも…」

「でも、クーアは契約者がいなくて困ってるんでしょ?」

「それはそうですが…」

「じゃあ、契約する」

(やった!)(えぇ~…)

「…ありがとうございます。では、この者はまだまだ未熟なようなので、微力ながら私が助太刀いたします」

「じゃあ、大切なものがいるよね…」

「はい。我々は魂と呼んでおりますが」


ルウェはセトの銀貨。

クーアは何が良いかな…。


「うん。やっぱりあれかな」

「オイラが取ってきてあげるよ。足、痛いでしょ。で、何?」

「うん、えっとね…」


長之助お兄ちゃんに伝えると、すぐに部屋を出て取りにいってくれた。

足音がしなくなった頃、如月がこっちに向き直ってジッと見つめてくる。


「ルウェさま。ひとつだけ聞いてもよいですか?」

「何?」

「ルウェさまは、我々との契約をどう思っているのか。それを聞きたいのです」

「どういうこと?」

「………」


如月はグルリと考えて、そっと目を瞑る。

そしてゆっくりと目を開けると、さっきまでの優しい目ではなくなっていた。


「契約をすると契約者に負荷が掛かるのは事実です。しかし、契約者に力を与えるのも事実。今、人間たちの聖獣に対する干渉力が衰え、契約出来る者も少なくなってきていますが、力を求めて契約しようとする者も未だに跡を絶ちませぬ」

「力…。自分は、力なんていらないんだぞ…。ルウェとかクーアとか…みんなと仲良くなりたいから…!」

「では、契約を破棄してください。ルウェともクーアとも、契約がなくとも会えます」

(き、如月…!)

「…それで如月が満足するなら、それでルウェやクーアとずっと一緒にいられるなら、自分は契約を破棄する。葛葉が言ってた。そこにいるっていう幸せ。一緒にいたいっていう幸せ。契約なんてなくても、自分は信じてるもん。二人との繋がり」

(ルウェ…)(えへへ)

「………」

「あ。如月との繋がりも、だよ」

「…タルニアさまのときも、同じ質問をしました」

「え?」

「タルニアさまは、私の質問に対して笑って答えました。力は自分の努力次第でいくらでも手に入れられるけど、家族は自分だけではどうにもならないって。…初めてでした。私を家族として迎え入れてくれた人は。嬉しかった…。だからそのとき、全身全霊タルニアさまに尽くそうと誓いました」

「うん」

「ルウェさま。試すような真似をして申し訳ありませぬ。いかなる罰をも受ける覚悟です」

「じゃあ、受けてもらおうかしらぁ」

「えっ」


そしてお姉ちゃんは如月を後ろから抱き締めて、鼻を軽く弾く。

何が起きたか分からない如月は、キョトンとして固まっていた。


「ルウェ、これだよね」

「あ、うん。ありがと、長之助お兄ちゃん」

「どういたしまして」

「さあ、如月。手伝ってあげなさい」

「え、あ…。はい」


急に我に返った如月は頭を何回か振ると、しっかりと立ち上がって。

なんだか少し焦っているようにも見えたけど。


「さあ、ルウェさま。魂は…」

「お兄ちゃんに貰ったベッコウの櫛なんだぞ」

「はい、確かに。では、始めます」


ベッコウの櫛を握って、ゆっくりと目を瞑る。

クーアとの契約…なんだぞ。


クーアとも契約するんですか。

鼈甲の櫛はお兄ちゃんに貰ったんでしたっけ。

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